漆原凌




女子校の前にひとり男子が立つだけでどのクラスもどの学年もソワソワと噂話で持ち切りになる
誰の彼氏だとかお兄ちゃん?なんて、喧嘩ばかりの不良校の鈴蘭と違ってイケメンが多く厳ついが優しい人も多いだなんて鳳仙はこの学校では言われている
珍しいグレーの学ランは更に女子達の噂話で持ち切りで教室の真ん中の席にいた翔はため息をついた

「どうしたの翔?」

「ううん、今日私一緒に帰れそうにないからみんなで帰ってもらえるか?」

「うんわかった、王子様の伝言伝えとくね」

その余計な一言にさらに身体が重くなるような感覚に煽られる、王子様だなんてあだ名はいつからついたのだろうかなんておもって、もう時期二年になるのだなぁと思いながら下校時間になればやはり校門には日傘を指した高身長の少しだけ髪の長い男が1人
溜まった唾を飲み込んでその横を通り過ぎようとすれば近づいてくる気配を察知する、どうせ男が来るなんてのは自分目的なのはわかっていた
特にこの鳳仙生徒のそれも幹部の男は何が目的なのも知っていた

「今日こそ喧嘩してくれるよね」

「いや、しないから」

「じゃなきゃ芹沢さん俺との喧嘩受けないって」

この一点張りだ、学校までついに来たかと感じた
芹沢多摩雄
このあたりの不良高校では知らない奴なんていない、鈴蘭の天辺に最も近いと言われた男、貧乏人であり喧嘩が強い、そしてよくたかられる
性格は悪い訳では無いが面倒になるとすぐに投げられてしまう
二年も上の先輩であるからあまり文句は言ってはいけないと思えるがそれでも頭を抱えたくもなるものだ

「それは多摩雄さんとあんたの決めたことだろ、私には関係ないし」

「…でも鳴海さんも翔は強いって」

「そんなの女にしたらってだけだ、っていうかついてくるのかよ」

後ろをとぼとぼと歩いてくるこの男の名前は漆原凌、鳳仙学園2年の狂戦士
のんびりとした雰囲気とは裏腹に何を考えて何をしでかすかもわからなかった、一度目の前で喧嘩をされた時に相手が降参していることも気にせず殴り続けた彼を止める方法もわからずに殴ったことは未だによく覚えていた

「でも翔は強いし」

「あん時はたまたまだし、っていうか漆原さんも焼き芋食べます?」

「もらう」

駅まで行く道中にあるおばあさんが営業する焼き芋屋で一つ購入して半分に折っては渡す
猫舌らしい彼はずっとそれを片手に持って冷めるまで待っていた、時折帰り道に声をかけてくれる同じ学校の女の子達に手を振ったり挨拶をして後ろを見れば、やはり少し後ろをゆっくり漆原は歩いている

「そんなに多摩雄さんと喧嘩したいならふっかけりゃいいじゃんか」

「鳴海さんがダメって、芹沢さんも翔としなきゃ無理だって」

「ふうん、漆原さんって結構素直だよな」

「そう?」

「だって後ろから蹴るなりなんなり出来んじゃん、いきなり殴りかかるなりさ」

不良の喧嘩なんていくらでも付き合ってきた、それこそ兄が6人もいれば手の出る喧嘩しかないのだから仕方ない
そんなものに巻き込まれていれば必然と自衛としても喧嘩程度ならば強くなる、そこから習い事として武術を習ったなら余計ににだろう
汚いやらなんだとしても喧嘩売ることなら簡単だろうにと思えば少しだけ驚いた顔をしてその後にすぐに戻っていった

「女の子にそんなこと出来ないじゃん」

「私漆原さんのそういうとこ結構好きだな」

「…じゃあしてくれる?」

「怪我したら嫌なんで、制服汚れるのも嫌だし」

そういって笑う翔に不満そうな顔をした漆原に思わずデコピンする
少しだけ出来る身長差が好きだったりするとは言えなかった、なんだかんだで素直で真っ直ぐな彼は一つ上ではあるものの弟のようにも思えていたのだ

スーパーに入り夕飯の足りない食材をカゴに入れていく、8人家族故に量が必然と多くなるために業務用のものばかりが増えて
今晩は三男リクエストのシチューだった

「漆原さん晩飯シチューだけど、食べます?」

「うん、食べたいブロッコリーいれるの?」

「彩りよくなるしお野菜多いほうがいいしな」

「…嫌い」

「好き嫌いするなら喧嘩しません」

そういえばまるで拗ねたような顔をした彼だがすぐに喧嘩はしたいだなんて呟いて我慢したのを見てまた笑いそうになる
荷物をさりげなく持たれてしまってそのまま結局いつの間にか隣に並んで歩いてしまう
喧嘩をするよりもこうして友達になって食事をして一緒にいる方がいいだなんて言えばまた彼は喧嘩を求めるのだろう
あの芹沢多摩雄と喧嘩したいがために


「ただいまー、ほら漆原さんも帰ったらただいま」

「ただいま」

「はい、おかえりなさい手ぇ洗ってリビングでテレビ見て待っててなすぐ作るから」

そういって荷物を奪い小走りでキッチンに向かった翔をみて凌は小さく頬が緩む
また仲間とは違う温かさは姉や母のようなものなのだろう、階段から降りてきた彼女の兄達に囲まれて質問攻めをされている間に作り終えて夕食になれば隣に座った翔をみる

「…おいしくなかった?」

「ううん、すごい美味しい」

「ならよかった、喧嘩したら怪我してご飯作れなくなるかもだからやっぱナシな」

「…わかった明日言ってくる」

そう言いながら嫌いだと言ったブロッコリーを食べた漆原に翔は頬を緩めてブロッコリーを口に含んだ。














おまけ*

「おー、解決したか?」

「ほんと多摩雄さん私に投げつけないでくださいよ」

「猛獣使いに渡すほうが楽かなーってアイツめんどくせぇんだよ」

「…多摩雄さん一ヶ月我が家禁止っす」

「えっ!?待てよおいそれはまじやめて俺死ぬぞ」


おまけ*

「凌どうだった喧嘩できたか?」

「出来なかったけど…シチュー美味しかったです」

「ははっお前もアイツに胃袋掴まれたか、今度は俺と一緒に行こうな」

「遠慮します」

「え」

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