菅田和志
▼▲▼
「あっ……」
ぽちゃん…と音を立てて赤い魚は水の中へ
「残念だったな」
破れたポイからのぞき見える赤くひらひらとした大きな金魚
一目見てそれを美しく思え、欲しいと思った
地元の大きな夏祭りに行こうと誘われて、祖母の所まで電車に乗っていき着付けをした浴衣
白い生地に青色の牡丹は地面にしゃがみこんで、金魚を見つめた
「残念だったねお嬢ちゃん…3匹だけど、持って帰るかい?」
「……ううん、いらない」
どうせ死んでしまうから
ここの中を泳ぐ魚は衰弱して、尚且つ仲間割れをして所々鰭が傷ついていたり、ウロコが落ちていたりした
それでもそんな中を静かに泳ぐ鰭の綺麗な金魚は赤とオレンジ、そして黄色混じりの美しさ
「欲しかったか?」
「いや、どうせすぐ死んじゃうから」
「そうか、腹減らねぇ?なんか食おうぜ、もう直ぐ花火の時間だし秀臣達も来るはずだしよ」
「なら、龍信の分買っていきたい、焼きそばとかあいつ食べるかな?」
「食うんじゃねぇか?」
そんな会話をして二人して歩く
珍しい組み合わせだと思う、甚平ではなくいつも通りの黒いシャツにジーパン、ウォレットチェーンをつけた彼はどんな人だかりでも分かりやすい金色に、柔らかいリーゼントヘアー
手首のブレスレットはシルバーの髑髏、それが似合っていて少しだけ気恥ずかしくなる
「りんご飴とか好きか?」
「まぁ…」
「おばさん、姫リンゴとその…変なやつ」
そういっていつの間にかりんご飴の屋台の前にいて、もう両手には沢山の食料で埋め尽くされてるぞと言いたくなるが黙っていた
財布を出して会計をする彼の腕には小さな赤いりんご飴
「おい!翔!!」
白色に真ん中に赤色の円形の飴、そして黒色の丸
それを顔の真ん中にやって甲高い普段と違う声で呼んだ瞬間に彼が何をしてるのかわかった
「それいうなら、鬼太郎じゃねぇの?」
「わかったか、流石だな」
「和志さんまだなんか買う?」
「んー、あと綿あめ食いてぇな」
そういいながら、翔の腕の中にあるベビーカステラの袋を漁っては食べる彼が甘党だとは意外だった
「なぁ、やっぱ龍信に買うのやめていいか?」
前を歩く彼の言葉に目を丸くした
珍しい、絶対に彼は久能兄弟と共に過ごすはずなのに
「お前と2人で見たいんだ、花火」
なんでと聞く前にそう答えた彼は優しいいつもと同じ顔をして笑っていた
ふと、すれ違い様に見えた板東達とも行動しなかった話は流石にしていたが、その後もすぐに別れを告げて一緒に話しながら行動を共にしていた
「この買ったやつどうする」
「俺んちで食うか?」
親はいないことくらいずっとわかっていて、その言葉にどんなことが含まれてるか分からないわけでもない
恋人よりかはあまり甘くないと思って、遠慮ばかりをしていた
彼にとって久能兄弟は大切な存在なのも理解していたからこそ何も言わず自分も好んで共にいた
考えれば考えるほどに頭の中の思考は止まって、スイッチが切れていくように、わからなくなってくる
「花火が…始まる前に帰って来れる?」
「俺の家から花火見えるかもな」
そういいながら綿菓子を買った彼の手の中のりんご飴と綿菓子は交わりあっていた
白い綿雲の中に見える薄らとした赤色が怪しいほど妖艶に見える
祭りの中心部から外れて、住宅街を急ぎ足、アパートの階段を上がって鍵を開けた途端に大きな花火の音が響いた
花火の時間は8時からと思い出しながら買ってきたものをテーブルに投げるように置かれた
「夏祭りなら、どこでも連れてってやるよ」
そういって、紫の帯を緩めた彼の言葉を隠すようにまた一つ、花火が音を立てていた
窓から見えた火花は金魚のように美しい赤色になっていた
それを瞬間だけ見たあと、優しい顔がみえていう
「…金魚なんかよりずっと綺麗な牡丹花だな」
牡丹なんて花を知っていたんだ、という前に塞がれ
花火のことなど忘れ、窓を締め切って、扇風機もエアコンも何も無い蒸し暑い部屋で求め合うのだった
▲▼▲
- 20 -