ヒソカ
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夕暮れ時の帰り道、赤いランドセルを背負って1人幼い少女はジャングルジムの頂点に君臨して泣いていた
蛍の光は流れていて、遊んでいた子供たちはみんな帰っていってしまう中で少女は一人帰ることもなく、公園の1番高い場所で1人グズグズと鼻を鳴らして泣いていた
「どうして泣いてるんだい?」
「…私の、私のランドセルのクマちゃん…ケンちゃんが持ってったの」
少女は顔を上げることなく、突如聞こえたその問に泣きながら答えた
ランドセルの横側にはリコーダーと給食袋…それに千切れてしまったのか軽く結ばれていたストラップの先っぽの部分だけ残されていた
「へぇ、ケンちゃんにどうして取られたの?」
「キルアちゃんとゴンちゃんから貰ったの、けどケンちゃんがズルイっていって帰り道にね引っ張って取ってったの」
「酷いやつだねぇ」
下から聞こえるその声に少女も小さく答えるばかり
泣いていても仕方が無いのはわかっている、かといって家族が心配してるよ?などと普通の応えをしても無意味な子だった
クマのストラップなんてまた買えばいいのに、と言いたくもなるがもらったものなら仕方ない、彼女にとってはそれほど大切なものだったのだろう
「ケンちゃんいっつも、優しいのに」
「優しいから意地悪をしちゃうのさ」
「どうして?」
少女には男の子の考えなんてわからない、ただ自分は意地悪をされているだけとしか思えないのだから
けれど男の子は単純で意地悪が好きで、好きな女の子に対しては不器用な生き物だから、難しいものだ
素直になれたらきっとこんな愛らしい少女を泣かせることもないのに
「君が好きだからさ、リーリェ」
「…どうしてお名前知ってるの?」
「僕は君の味方だからね、なんでもお見通しさ」
顔を上げたと同時に少女の目にはまず初めにクマが移った
もらったものと同じ白いクマに緑色のリボンのついた愛らしいそれに目を輝かせて、話しかけてくれたその人物をみた
「お兄さんも同じの、持ってたの?」
「ううん、違うよ君のために返して貰ったんだ」
「ほんと!ありがとう!よかったぁ」
大事そうにそれを受け取った少女の手を取ってジャングルジムのてっぺんから降りて
青年は少女の手を取りもうなり終えた音楽を歌いながら歩き出した
日の暮れた暗い夜になってしまい、家の前についた少女は深々と礼をして、ランドセルの中を漁った、笑顔でそれを見つめた後に少女は筆箱を開き中から小さなシールが出てきた
「これ…あの、お礼…お兄さんのお名前も知らないけど、本当にありがとう」
そういって手渡した赤いハートのシールを彼は嬉しそうに受け取り、同じ目線になるようにしゃがみこみ話しかけた
「僕はヒソカ、いつでも君を見ているよ…悲しい時はいつでも僕を呼んでみてごらん、どこにいたって君のそばにいてあげよう」
まるでそれは少女にとっての魔法のようだった、嬉しそうに笑って頷いた彼女に満足して、家の中に入らせ別れを告げた
自分の部屋に入りもう1度外を見た時には彼はまだそこで立っていて手を振っており、それを振り返せば彼はいってしまったのをみて、至極嬉しそうに頬を緩ませ少女は取り戻したクマのストラップを見つめた
「ケンくんがお熱でお休みだそうです」
次の日の学校で昨日の子は熱になった
悪い事をしたから罰が当たったのか、なんて少女は内心思いながらその日も公園にいった
蛍の光がなりみんなが帰る中またジャングルジムの上でいれば、どこからか現れた昨日の青年が立っていた
「ケンくんがね、今日お熱出してたんだって…きっと罰が当たったんだね」
「あぁ、悪いことをしちゃあダメだよ?君にも罰が当たっちゃう」
「私は大丈夫だよ、悪いことなんてしないもん」
そういって少女は昨日よりも遅くまで話してしまい、また夕日が消えて蛍の光も聞こえない時間に帰ってしまった
「ケンのやつ最近ずっと休みだよな」
「そうだね、どうしたんだろ?」
「風邪そんなに酷いのかなぁ?」
あれから1週間、少女は毎日学校帰りの公園に1人で立ち寄り、ヒソカと呼ぶ青年と時間を共にした
意地悪をしたケンちゃんといった少年は姿を表すことはなく、教師は風邪だといっていた
今日も朝から姿を見ないその子にみんなは少し心配をしていればくらい顔の教師がやってきた
「みんな席について話を聞いて」
いつもよりも真剣なその声と顔に何かあったのだろうか?と思った
「ケンくんが行方不明になったそうです、それと最近不審者がよく出るらしいから帰りは集団で帰ることになったから、お外で遊ぶのも極力控えて・・」
次々と話を進めた教師に目を丸くした、あのクマのストラップを取ったせいなのか?いや考えすぎだろうと少女は思いつつも心配でたまらなかった
なんだかんだとは言いつつ少女にとっての友人であるのだ、家を知らないため見舞いにも行けなかったがまさか行方不明になるなんて…と思った
集団帰宅で地区ごとにより帰る人数も解散場所も分かれた、みんながまっすぐ帰る中その時も少女は公園にいた
見回りの大人もいないそこで、夜遅く珍しく蛍の光が流れ終えた後も彼はいなかった
もう諦めようと思った時、歩いてやってくる姿が見え、声をかけようとしたそれは止まる
いつもと違う髪の毛は上げられていて、服装も奇抜なピエロのように、頬にはあの日渡したシールが貼り付けられていた
なんとなく危険な気がしたジャングルジムから降りて帰ろうとした、きっと人違いだろうと予想して
「帰るのかい?リーリェ」
「…ぇ…あっ、うん…もう暗いしそれに…学校で今日ケンちゃんが行方不明に…なったって…いってたから…不審者も………でる、っていっ」
「それは怖いなぁ、僕と帰るかい?」
「……う、ううん…いい」
嫌な汗が全身から湧き出るような気がした
思わず喉がなって、息をするのさえ苦しく思えて目の前の彼を見上げた時には声さえ出なくなる
笑顔が消えていた、いつも優しく微笑んでいた青年は怒りにも悲しみにも何にもならない無の表情だった
「怖いかい?」
「うん」
「大丈夫、君に危害は加えないさ…僕と一緒に帰ろうよ」
「…っ!いやっ!帰らなきゃっ!」
身の危険を感じて走り出した息を切らして、こけた拍子に足をくじいて痛みに顔を歪めたが家の中に入って自分の部屋に隠れるように戻った、ランドセルを机の上に置いて疲れを癒すようにベッドに横になり気づく
クマのストラップが無くなっていたことに
思わず窓の外を見た途端だった、ピエロは家の前でクマを手に手を振り微笑んでいた
カーテンを閉めて窓の鍵を確認して、扉の鍵を確認しようと後ろを振り向いた
「酷いじゃないか、僕はクマを渡したかったのに…ねぇ?リーリェ」
「え…」
そう言われたと同時に視界は黒くなり、眠気に襲われる
クマのストラップは彼女の手の中に、ピエロはベッドに腰をかけて少女の髪をなでていた
「君をいじめるヤツはもう居ない、大丈夫…ずっとみていたんだから」
優しい声でピエロはそう言い眠りにつく少女を抱きしめた
「リーリェちゃんが、風邪で今日はお休みです」
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