レイザー









ソウフラビの街、その一角にはグリードアイランドでのイベントが存在し、その中でもこのゲームの製作者のひとりであり、イベントの頭をしている者が一人
街中…いや、グリードアイランド内全体に広がる程の大きな怒鳴り声が響いてた

「もーー!レイザーのバカーー!」

それと同時に大きな爆破音がし、一つの家の壁が吹き飛んだ
そして森の方まで行って木に受け止められた男は困ったような顔をしたがなんら変わらない表情だった


「買い物くらいもう出来るわよ」

もう…っといいつつも未だ収められない怒りを持つ10代であろう少女は溜息をつきながら、自身の力の強さに制限をかけれてなかったことに思わず内心冷や汗をかいていたが走るように彼女はいってしまった。

娘の名はリーリェ、ジン=フリークスの義娘のようなものだった、グリードアイランドを作る少し前この少女は捨て子であったらしくジンを襲ったが返り討ちにされ、そしてレイザーのように彼に認められ拾われた
そして何よりも優しさを理解するためにジンはその娘を預けたのだ、何者でもないただの娘を

レイザーは彼女を溺愛した、それはもう近づく男1人も許さず、外に一人で買い物さえ怖くてさせれないというのだから、面白おかしい話であろう事だ、最初こそ小さすぎるその存在にどう接するかさえ困っていたが男手一人で周りに頼ることもほとんどなく育て続けた娘が愛らしいものだった
親というものはバカだというが、レイザーはその通りなのだろう、とはいえ…それに対して反省するわけでもなんでもなく、彼女の先程の行いも成長の一つなのだと心で思い理解していた


「…もう…パパってば本当心配し過ぎよ…この街に人なんてこないんだし」

そういいながら海を見つめた、レイザーが心配する理由はわかっている、彼の過去は変えようのないものではあるが心が優しく寛大な立派な父親であるのだ
誰よりもそれを理解したつもりでいる、彼の優しさと強さに育てられたからこその今の自分であり
たとえ自分を初めに拾ったという男よりもずっと家族らしく、そして何よりも父親らしい人だった、泣けば大きなその手で涙を拭いてくれ、悪いことをすれば容赦なく叱りつけ、そして互いに幸せなことで笑い合う
わかってはいた、レイザーの優しさも、彼の気持ちも

「けど……過保護よ」

そう彼女がいう理由も仕方ない、なんせ彼女はもう今年で20歳になるのだから、確かに過保護なのはわかるが限度がある、彼のそれははるかに超えているものであり時折怒りは頂点に到達してしまう
家に帰るときには壁を治さねば…と考えつつも食料は全て彼の好物で固められているのはきっとリーリェ自身も父を深く自覚がないだけで愛しているからだ

「ふぅん…またプレイヤーがなったのかぁ、早く帰らなきゃ」

グリードアイランドの中では全くもって珍しくないことだろう、毎日毎分毎秒行われるプレイヤーの戦いに今更珍しさはない
リーリェやレイザーは所詮はグリードアイランド内のキャラクターと何ら変わらない設定だ、イベントでのプレイヤーの敵となる存在だ
所詮は襲われても大体のプレイヤーなら問題などない、そもそもその程度で負けるならば彼女自身も能力者としては未熟な者であるだけであり、攻略をする意味もない彼女にはプレイヤーなど眼中にもない村人のようなもの

「…それで?私をプレイヤーと勘違いしているのかしら?」

帰り道の森の中でそう声をあげれば男が数名出てくる、カード狙いであろうが生憎1枚だろうと存在しないカードを狙われても怖くもなかった
挙句相手は全くと言っての初心者、念の使い手としてもリーリェにさえ及ばないと見てわかることだった

「カードと食料を置いていけばなんもしねぇよ」

悪人らしいその言葉と笑顔に反吐が出る、父はこんな悪人ではなかったからだ、それにレイザーは悪人であるわけでもない
罪を犯した者ではあるが悪ではないのはよく理解していた、結局心の貧しいもの同士だから傷の舐め合いのようにそう味方し合うのかもしれないのかと、時折思えてしまうが、考えすぎていたせいか男達は目の前に来ていた

「プレイヤーじゃないわ、私はこのゲームの住民だから」

「…なら食料とアンタごと頂きってわっ!」

「誰がアンタら如きに夕食の材料渡すものですか!」

そういい男の1人を糸のようなもので捕まえ引き寄せると同時に鳩尾を強化した掌で打ち込めば、木にめり込むのがみえた、これをすれば戦意喪失してくれるか…はたまた逆かと予想したとおり
逆上し始めた男2人に身構えたと同時に1人が吹き飛んだのが見え、その一人を見た先には潰れたように死んでいたのを見て男はすぐにカードで逃げ出した


「レイザー…」

「遅くてな、流石に心配だ」

「ううん、ごめん…私出る時も……それにありがと」

今更何一つ思うことは無かった、人が死んだとして何になるか、もしかしたら自分がそうなっていたかもしれない
彼なりの守り方があって、相手はそれにより死んだだけであるのだから何もおかしいこともない
荷物を取られ空いた手を繋がれる、大きすぎるレイザーの手の中に包まれるようにある自分自身の手は彼女から見てはまるで子供のように感じるほどに小さい、見上げても表情はいつもと変わらず優しいままだった

「今日、レイザーの好きなものにしてあげる」

「お?楽しみだなぁリーリェの料理なら何でもうまいがな」

いつもそうだ、彼はどんな事があろうと心配をするが怒ることはまずない、どんな事があろうといつも逃げたとしてもその大きな手に包まれ最後は2人で歩く
それがとてつもなく好きであるが素直になれず、また過保護さに呆れと恥じらいを感じてしまっていた
改めて彼の顔を見て少し手に力を込めればレイザーが振り向く

「…いつもありがとうパパ」

小さくそう呟いたがそれはハッキリと彼は聞いていた、少し恥ずかしくなりながらも微笑めば笑顔が返された
次の日の朝、枕元には飽きれるほど大量のプレゼントがあり、これでもかと言わんばかりに頬を緩めているレイザーをみて溜息をつきながら、まだ暫くは過保護が続くかと思い笑みが零れるのだった







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