クロロ
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その日は雨だった、デートをしに来たわけでなく“仕事”の手伝いで飛行船に乗って(今拠点にしている場所から)1日と半分かかる場所に来ていた
仕事は簡単だった、旅団の関係の無い時だったため二人きり、傍から見れば年の離れた兄妹に見えるかもしれない、相手であるクロロ=ルシルフルは年の割には若く見えた、時折見ず知らずの人間に彼は10代の男と勘違いされるほどだ、もう20代半ばをすぎているのいうのに
けれど髪を下ろしている時だ、時折髪をあげる時がありその時は年相応…または感じさせることさえない。
「みんなに土産でも買っていくか」
雨の中、黒い傘をさした隣の男がそういった
珍しいのは土産ということだった、たしかに今回は遠くに来た為に気まぐれで言ったのだろう
猫みたいに気まぐれな時がある彼のいうことだ、今返事をはっきりさせねば無かったことにされるだろう
「うん、でもこのあたりにお土産屋さんある?」
街の中だ、土産という程のものもないかもしれない
そう言いながらも2人で様々な店の中に入っていく、静かな店から騒がしい店、雑貨屋から酒屋まで
ウボォーギンにはお酒とか、フェイタンにはナイフとか、シャルナークには携帯ストラップとか、シズクにはかわいいメガネケースとか、マチにはピンク色のハンカチとか、ノブナガにはお猪口のセットとか、みんなにあったそれを買っていった
大きな袋に一つにまとめてもらいながら足を進める、途中古書に目を引かれたクロロに釣られて本屋に入った
生憎難しい言葉が分からずに幼い故なのか好むものは絵本ばかりだった、クロロからは小さな手帳サイズの絵本を買ってもらった
ふと目に入った絵本をクロロへと思い、買ってしまい大きな袋の中に隠すように入れては大荷物を先に空港に預ける
「…リーリェの欲しいものを買ってないな、まだ時間もあるし行くか」
「いいの?」
「あぁ、三時間くらいあるしケーキでも食べに行こう」
男は冷徹だが優しい人間だった
家族と仲間を何より大切にする彼を嫌う人間はこの世にいないと思えるほど
街は人が少ない、雨だからだろうか
薄紫の小さな傘を開いて隣を歩く、時折彼の肩のあたりに傘が当たって濡れても文句もなければ何も気にしない、歩く時は車側を彼が歩く
信号を渡る時はさり気なく手を繋がれるのは小ささゆえ
嫌と思わない、愛なのだろうと思える程には余裕があるのだから、また足を止めたクロロが入った場所は文具屋であった、広く大きく木造りの場所
鼻につくような木の匂いに自然とリラックスしてしまう
「リーリェ、傘はそこに入れておけ」
「うん」
入口で傘の水滴を落としてクロロは傘立てに入れていたのを見て真似するように入れた
店内を興味深そうにみるクロロに思わず釣られて知ったふりをして文具を見る、万年筆からボールペンやシャープペンシル
鉛筆削りにマッチにインクにペン立て、幅広く取り扱うそれらは亭主の手により綺麗に並べられていた
目を引かれたモノは硝子でできたペンだった、インクをつけて書くことが出来、軽く水で拭いてしまえば取れる…簡単かつ美しくそして硝子であるゆえの繊細さがある
「あぁ、それと」
奥で亭主と何かを話す彼のことも忘れて熱心にそれを見つめる、赤に青に緑に黄色、様々な色が硝子で彩られている
どれにしようかと悩みながら見つめても字をあまり習ってはいない、けれど魅力的なそれが欲しくてたまらない、会計を終えた男は少女の隣に立って見つめた
「どれがいいんだ」
「まって、悩んでるの」
「そうか」
文句を言うこともなく黙って隣に立っていた、挙句の果てには亭主がやってきて解説をしようとしてくれたのを断ってしまう
代わりにと博識な彼が説明してくれる
「そろそろ決めろ、飽きてきた」
「う、うん分かってる」
「ケーキの時間もなくなったぞ」
ふと、顔を上げて壁掛け時計に目を向ければあと30分ほどしかないではないか
仕方ないと黒と青色の混じりあった硝子ペンを箱ごと彼に渡せば見繕ってくれていたのかインクやペン先や、様々なものを手に持って会計をしてしまった
急ぎ足でケーキ屋で仕方なしに二つだけ買って飛行船に乗る
彼はオペラを食べながら大量のプレゼントたちの中にあるリーリェ用のものをみた
「ペンで何を書くんだ」
「…まだ考えてないや、綺麗だったから」
「そうか、レターセットも入れておいた一式セットとして買っているが気に入らないようなら買い直しておく」
「ううん、クロロが選んだなら完璧だよ大丈夫」
そういってショートケーキの最後のいちごを喉に通して渡された部屋に戻る
渡されたプレゼント袋の中を全部開けていけば彼の気の利かせようは相変わらず感心する、文字をまだ覚えと中であるのを理解して子供用の文字書きの本さえ中に入っていた
全て開いてレターセットも至ってシンプルだった、使用方法の書かれた紙を開いて近くのメモ帳に試し書きをする
あぁそうだと思い筆をその紙の上に走らせていく
小さなノックをした夜、船に乗ってから随分と時間が経った
あと1日ほどだろうか、そう思いながらも部屋の中に入るがそこには姿が見えずにシャワーの音が聞こえた
手紙は彼の読み差しの本の上に置いて冷蔵庫の中にあるジュースを取り出しコップに注ぎ飲み干す、後でシャワーを借りようと思いながらヘアバンドを無造作に置いた
「来てたのか」
「うん、シャワー借りるね」
「あぁ左に捻れよ右は冷水だから」
それを聞いて何度か復唱したというのにシャワーで間抜けな悲鳴をあげた
手紙には気づいたろうか?それとも気づいても読んでないかも…など考えながらシャワーを浴びる
ドライヤーを使わず先に長い髪から水分をとるためにタオルをまいて男の元に戻れば黙って本を読んでいた
出てきたことに気づいていてもそれさえ言わないのは興味が無い以前の問題だろうか、特に気にすることもなく冷凍庫の中にアイスがあったのを思い出して取り出し安っぽい袋から出した
暖かったシャワーのせいで軽く火照った体が冷たい氷菓子で口の中から冷えていく、生憎こんな時間だからと文句を言うようなメンバーもいない
「ラブレターを書いてくるとは思わなかったな」
ふと、静かにその声が部屋で響いた
ラブレターといえば先ほどの手紙のことだろうか、内容を思い出せば確かに彼に対して好きやら有難うやら、熱の篭った言葉ばかりだったかもしれない
心の底から溢れた言葉が指先から文字となったのだろうか、少しだけ恥ずかしくアイスを口に含み話せないようにする
「今更あんなものが渡されるなんてな」
1枚や2枚では留まらないほどに多い紙、一つ一つの言葉に恥ずかしさが増していく、彼を愛してるのは事実だ
けれど口には出したことはない、そんなことをしなくてもお互いによくわかっているのだから
今更のことを言ったところで変わらない、それどころか言われる前に彼との関係は男と女にさえなれた
「ラブレターは恋文という、昔の人間はこうして愛を紙の上に書いて渡した…じゃあ、紙がない時はどうしてたと思う?」
「………言うんじゃないの?」
「いいや、その国の女は言わなかった…だからこそ悩んだ…そして人はそれを「恋煩い」なんていうんだってな」
「それを私に言ってどうするの?」
まるで挑発してくるような言葉に苛立ちを覚える、とはいえ文句を言えることはなく棒だけ残されたアイスをベッドサイドのゴミ箱の中にいれる
腕が掴まれてベッドに伏せられる、天井と一緒に見える幼い彼の顔はからかいはなく、欲情だけが残されたわけでもない、優しくも苦しい顔
「いや、なんとなくお前も俺に恋をするのは飽きたのかと思ってな」
「私クロロに恋なんかしてないもの」
「冷たいな、パクにでもそう教えてもらったか?」
子供だからだろうか素直に心は痛みを訴える、ほかの女の名を呼ばず、ただ目の前の子供である女を見てほしい、精神的にもなにもかもが子供であっても愛してほしい
心臓が止まりそうな程に興奮しそうになる、顔の横に置かれてる手を撫でながら目だけをみた
「うん、だって私クロロを愛してるから」
「……あぁそうだったな」
優しくまた笑った体に触れる指先も熱い瞳も艶やかな黒髪も溺れて恋なんかでは止まらなくなっていく、そしてまた女を望むのだろう。
立ったひとりとして愛されたいがために
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