離れ離れになる
終わりを告げる鈴がなって顔を上げる、周りは楽しそうに友達と進路どうする?私は〜、なんて話し声が聞こえる
顔もあげられず机に顔を埋めた、進路の言葉を今は聞きたくなかった
「帰らないの」
頭上から聞こえた低い声に肩を揺らした、野球部を引退した幼馴染は日々をつまらなさそうに過ごしていた
「帰るよ」
「分かった」
口数の少ない彼があまりにも熱く言った
東京に行く
この北海道ではなく、野球の為に彼は離れるといった
そこに否定ができるわけがなかった、降谷暁が初心者目からみても投手として腕がいい事も中途半端な気持ちでそこ行くわけでないこと、目的と目標があることも理解した、だからこそ行かないで欲しいと我儘が言えず自分の進路さえ悩んだ
溜息をつきながら外を見れば雪は変わらず降り続いていた、みんな帰っていった中残った自分はなんとも虚しく感じ荷物を持ってジャケットを羽織りマフラーを巻いて階段をおりていく
「お待たせ、暁寒くないの?」
「うん、別に」
「そっか、風邪ひいて入試休んだりしたらダメだよ」
笑って靴を履いた
15年間ずっと隣を歩んできたものが来年から居なくなるのかと考えた、東京に行くと言ったその日持ってきた雑誌には噂の天才キャッチャー!と大々的に特集されており、何が言いたいかわかっていた
野球部にいながら、誰も暁のボールを取れず彼は孤立した、クラスで誰か特別仲のいい友達がいる訳でもない暁が孤立することは遅くなかった、1年の頃はよかったが2年に上がってグンと成長し身長はますます伸びていった
「ねぇ花音」
「なに」
「青道に行くよ」
「聞いたよ」
「本当に来年僕行くよ」
「うん、知ってる」
「甲子園にも出るし、年末は帰ってくるし、テレビにも沢山出るし、雑誌にも載るから」
そう言われる度にそれが真実味を帯びそうで怖くなっていく
「だかっ…」
暁が口を開くのを止めた、視界が涙で溢れて見えなくなってしまって
しゃっくりが止まらなくて、思わずしゃがみこんで泣いてしまう
「ずっと、ずっと居ようねって言ったじゃんか」
小さな頃、私たちが幼稚園の頃暁から言った言葉だ
絶対一人にしない、僕達は鳥のようにずっと隣で空を飛んで一緒にいよう。と言った言葉がいつか消えることくらい分かっていたはずだった
互いに好きな人が出来て、恋人になって、結婚して、子供を産む未来が無いなんて考えたことなかった、けれど甘えた世界に居たかったから知らないフリをした
彼が告白される姿も、好意を向けられている顔を知らないフリして逃げ続けてきた
「嫌だけど、応援したいよぉ…暁が、暁がようやく楽しめるって分かってるから、絶対成長出来るって…知ってるから、けどね、けど、私」
応援出来ないよ。
どうしよう。
冷たい雪が肌に当たっては溶けていく、顔を見ようとする暁を突き放すように手を伸ばして顔を退けようとしても暁の手がまるでカイロのように熱くなって手首を掴んだ
そんな顔で見ないで欲しい苦しそうな悲しそうな、けれどどこか期待していたような顔をする
「花音、好きだよ」
「知ってる」
「絶対に勝つから、花音を悲しませないから、だから僕を応援して欲しいんだ」
もう片手が背中に回って抱きしめられる、熱が伝わって鼓動が大きく聞こえる
頭上から聞こえた、ごめんね。という声があまりにも寂しくてまたひとつポロリと涙が零れていく、だから聞きたくなかったんだよ。と考えを過ぎらせた
「絶対甲子園行くんだよ」
「うん」
「優勝してね」
「当たり前」
「えーすとして、ね」
「うん、当然」
顔を上げて、と言われて上を向けば自然と唇が奪われる
目を開いて声が小さく漏れた事を楽しそうに口角を上げた
「僕は花音しかいないから、ありがとう」
そういった言葉にギュッと暁の制服を握った、皺になったって文句は聞くもんか…と力強く抱いた
あと数ヶ月、私たちは初めて離れ離れになる。