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菊は元から話の早い女で、出会った頃から優秀な人間だ
戦闘は勿論の事、仕事はなんだって上手くできる彼女を右腕のように扱うのもすぐの事であった
アジア系の幼く可愛い顔に細い身体は男を魅了する、香水臭いわけでもなくタバコ臭いわけでもましてや薬の匂いもしない、いつもするのは安物のシャンプーの匂い
安い給料を上げている訳では無いが箱入り娘だった彼女は遊び呆ける等そんなことも無く、ただ我武者羅にHLで走り回る

「ハブレスの店の監視カメラの映像確認しました、仰ってたとおりこの日の強盗あったみたいですが…この異界人に見覚えあります?」

そういって菊はタブレットの画面を拡大して大きなローブを被った異界人を見せた
矢印マークを押して動画を再生させれば確かにハブレスの飾っていたあのアルバムを盗み出す姿を写していた、スティーブンは異界人を見ながら考えた、確かに覚えがあるような無いようなあやふやの記憶だった
横からクラウスも画面を眺めて捜索を開始した
菊は昔より喜怒哀楽が激しくなったように感じた、昔より良く笑う彼女は自分より年下になったザップに新鮮味を感じた

「君は犯人に覚えはないのか」

「有りませんよ、私あんまり恨み買うようなことしてませんし」

「だよなぁ…あんな奴あった事あったかなぁ記憶力はまだ悪いとは思ってないんだけどな」

どこかの組織の人物だったか、はたまた昔何かで利用したのか、記憶にないと言えるほどにはその異界人に覚えは無くともなれば一方的な恨みを受けている可能性もあるが理由が分からなかった、自身の持つ精鋭部隊にも探りを入れるようにいい暫く仕事よりもその事に集中するようにしたが隣に立つ菊を横目に見たが二十歳ちょっとの娘からえらく変わったものだと感じた
大人びていて、美しいが少女のような顔をする、彼女の世界線の未来であれば自分は隣にいるのだと考えると胸がほっとした、勿論スティーブンは今の菊も心底大切に扱っているはずだが菊は時折遠い目をするのが実に虚しく感じた何処までも愛しているのだと理解しているが向こうはそうでは無いのではないかと思ってしまう
自分のしてきているせいだと分かっていても組織の為と考えれば菊を差し置いて優先することは言い方悪くいえば当然のものだった

「不安ですか?」

「何が」

「愛してるのかどうかが」

「別に僕は君を愛してるんだ、不安になることなんかない、君の方が心配なんじゃないか?」

「…ええ、貴方と付き合い始めてからずっと不安ですよ」

悲しそうに微笑んだ姿が印象的だったが菊とはそれ以上特に深い会話もなく仕事を進めた
時計の針がライブラに来た時から1周すれば腹が悲鳴を上げて特に溜まった仕事もないから切り上げるかと声をかけて2人して最後であるため事務所に鍵をして出ていった、車の中で菊は静かだった懐かしむように街を眺めては時々子供のように声を小さく出したがそれを拾うことはなく運転し続けた
セキュリティの高い自宅マンションに戻りルームカードをスキャンして菊の足が入ると同時にその薄い桃色の唇を奪った

「すてぃ…っ、だめ」

「なんで僕ら恋人だろう」

「はぁ、嫌ですよ"私"じゃない私を抱こうとして己の迷いに蓋をするなんて貴方らしくないそれに私が惚れてるのは貴方だけど貴方じゃない、過去じゃなく今のあの人が好きなんですから」

こう見えても浮気はしないタチなんです、と彼女はクールに告げたあとに少し乱れた服を整えて靴を脱いで上がった日本人だから靴で上がる習慣がないからと言われて変えた部屋も、殺風景だったはずの部屋が彩られたのも確かに目の前の彼女だが彼女ではないとスティーブンは感じた
菊の言葉にまるで頭から冷水をかけられた気分になり大きくため息をついた後に笑った

「素直になった君は本当素敵だな、惚れ直しちゃうよ」

「お誉め与り光栄です、どうやらそろそろ調べ終えたみたいですし結果を聞きましょうか」

菊はリビングの扉を開けた、そこには何もいないはずだとしてももう答えは目前だと言いたげに



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