06
「菊…アルバムがあった」
そういったスティーブンの手には確かにあの日見たアルバムが存在した、菊は驚くもそのアルバムをどう対処すべきなのかを悩んだ
先程読んだ本の通りならばアルバムは同時に開かない限り戻ることは出来ない可能性が高い、仮に32歳のスティーブンがHLに残っていたならばまだ今回のアルバムを使った犯人を見つけられるかも知れないが、もし同じように過去に飛んでいればアルバムを開かないことには戻れないことだろう
深く悩む菊を見た幼いスティーブンは手を伸ばし菊の両頬を包み、口付けをした
「君は動かなければならないんだ、どんな結果でも過去か未来の僕に出会うならきっと僕は菊を守り抜くし愛するから、平気だよ」
「ですがいいのでしょうか…元に戻れないままを繰り返してしまうのは」
「絶対に戻るさ、そういう運命なんだよ僕らはいつか未来の32歳の時に君に出会って恋をする、それがスティーブン・A・スターフェイズだから」
さぁ、アルバムを開いて
優しくそういった彼は幼い少年のようには思えなかった、短い時間だったかもしれないが酷く甘い夢のような心地よさだった
アルバムを持つ手が添えられてゆっくりと開けばそこからは眩い光が部屋を照らし始める、これを開き切ればまたどこかに飛ぶのだ、顔を上げた時目の前の少年は涙を流していた
菊は思わず彼を抱きしめようとするがその前にアルバムは開ききり菊を引き込んでいった
「またね、僕の可愛い人」
酷く重たい夢を見た気分だった、身体は重たく幼い恋人を夢に見るだなんてと菊は考え目を開けた
広いベッド、見覚えのある部屋の中、そして隣で眠る見知らぬ男に菊は思わず悲鳴が出そうになるも抑えた、顔に大きな傷を作り首元には赤いタトゥーが見える。
見知らぬ男と言ったが間違いないのならこの男は先程まで居た少年と同じ名前であり、そして自分の恋人と同じ名前の男
「そう君の考えてる通りだよ菊」
未だ眠気を隠す気はない彼が大きく欠伸をして起き上がった菊を再度布団に入れ直し、彼の長い足が菊を挟み両腕が伸びてしっかりと抱きしめられる
まるで分かりきったような反応を示した男を見たが彼は狸寝入りなのか本当に寝ているのかは分からないが目を開ける気配はなかった
近くにあった時計は早朝と言うよりも深夜の時間だ、仕事を終えて帰宅してきたばかりであろうその男の苦労を考えれば仕方がない…と菊は黙って目を閉じた。
「望んでるような答えが出せないんだよな」
そう言ったのは42歳になったスティーブン・A・スターフェイズだった、自分が作ったものと全く同じ味のするサンドイッチに違和感を抱きながら朝食を食べつつ事件の事を話したが彼の返答は上記の通りだ
理由としてアルバムが同時に開くことは極めて稀な事であり、効率的にいいなら原本を持つ者を探すのが優先だろう、そして10年前とはいえライブラの番頭を務める自分なのだからそこは理解しているだろうと彼はのんびりと言った
10年だと言うのに彼の髪は白髪が増えて髪の毛は随分短くなり昔の色男がさらに磨きがかかっているよう思えた
「まぁその間は暫く仕事手伝ってくれるよな」
「それは勿論、私で出来る範囲であれば」
「そりゃあ助かる、10年も経ったんだこの街も少しは世間的には慣れられたけど未だ祭り騒ぎは消えなくてね、新人も沢山増えたし10年前って言えばレオナルドが入ってきたくらいだっけか」
「…名前で呼ぶようになったんですね」
「そりゃあ彼ももう29だぜ?彼より若い子も何人かいるしパワハラなんて言われたら勝てないからなぁ」
そう言いながら話すスティーブンは菊が知らない人間に感じた、彼はこんなに大きく笑わなかった
あまり他人にも興味を示さないしライブラの人間の話なんて家に持ち込まない、そこまで何が彼を変えたのだろうと少しだけ未来の自分に聞きたくもなった少しだけ変わったHLの街並みは相変わらずの喧騒だ
ライブラに向かう道中、いつも買っていたはずのサブウェイは消えていて代わりにカフェになっていた、スティーブン曰く2年前に異界人によって爆破されたらしく今じゃ無いのだとか…仕方なく毎朝そのカフェでコーヒーとサンドイッチを買っていくらしく、何故かオレンジジュースを手渡された
「好きだろ」
「…言いましたか?」
「いいや、言ってはないけど知ってるものさ」
と意味深に言いながら扉に辿り着きエレベーターに乗り込んだ、事務所に入ればあまり内装は変わっておらず、部屋の奥には見覚えのある大男が1人
「懐かしい姿だ、菊」
「クラウスさん…申し訳ございませんこの様な状態で」
「いや構わない、解決までは何も出来ないと聞いているから是非ゆっくりしていってくれ給え」
挨拶を交わしながらそこまで大きな代わりを見せないクラウスの姿に菊は少しだけ安心をしつつも自分のデスクと言われる場所に座りながら頼まれたデスクワークを初めて行く
事務所に人が増える度に声が増え、旨味が増したギルベルトの紅茶を飲みながらまるで夢のようなこの場所で早く帰る方法を見つけて欲しいと願いつつクッキーを噛み砕いた。