愛に不器用




「智花さんはよくあんな人と付き合ってられますね」

悪気のないレオナルドの言葉に自身のデスクで請求書を纏める智花は顔を上げた
植物に霧吹きをかけるクラウス、お茶の用意をするギルベルト、事務所のソファで座るツェッドとレオナルド、そしてデスクで仕事をする智花
話にみな気にかけることは無いが、レオナルドは失礼だがそう思った何故なら彼女の恋人は度し難い屑である、あのザップ・レンフロなのだから
月一の給料はその日で消えて、愛人の数は両手で足りず、女も男も人界も異界でも恨み辛みを買いまくっているあの男を誰が喜んで恋人にするのだか…とレオナルドは初めて聞いた時あの真面目な智花を疑ってしまった程で騙されているのか脅されているのかと心配したレベルにだった

「そうですね、あの人には勿体ない方です」

相変わらずの毒舌を発するのは斗流血法の弟弟子であるはずのツェッドだった、兄弟子ではあるものの人間性は全く尊敬できない男だというのはこのライブラのメンバー全員が知ることだ

智花は少し休憩だと言うようにやってきたギルベルトから紅茶を貰い口に含みながら少し考えた後に言った

「女の人の扱いが上手いんですよ、彼」

そう言って微笑んだ彼女はいつだってあの男の浮気と言っていいのか分からないレベルの事を怒ったことは無かった
智花とザップが付き合うことになったのはザップがライブラ所属祝いの時の飲み会で飲み潰れたザップに家を聞いた時にどこにも無いと言う為に仕方なく家に連れ帰ったのがきっかけだった、そこまで言うと一線を超えたかといえばNOである。
性欲しか脳に無いような男が…とは思うが酔いつぶれたザップには何も出来なかった、ということが正しく朝起きた智花に餌付けをされたことをきっかけに彼は智花という一風変わった女を好きになった

「あーくそあと少しだったのによォ」

ぽつぽつと独り言を言いながらいつものヤリ部屋と違うアパートのぼろ階段を上がる男の機嫌はあまり良くない、何故なら今日愛人から貰った小遣いを全てスロットに飲み込まれてしまったからだ
あと少しで当たる間際で資金がなくなり資金調達をしてる間に他のやつに台を奪われていた、勿論その場で怒り散らしても店のルールには勝てなかった為に仕方なく適当な店で軽く酒を飲んで帰路に着いたわけだったが目当ての部屋のドアは開いていない

「おーい智花開けろザップ様の帰宅だぞー」

時計は夜中を誘うとしてるのにまた帰ってきていないのかと少し考えながら自身の血を操りピッキングをする、慣れたようなそれは直ぐに軽く音を立ててカチッと最後の音がなればドアが開く
普段から蹴破るが智花の家ではそれはしない、ザップは智花をとことん好きだからだろう
適当にテレビをつけながら窓を開けて煙草を吸いつつキッチンに立つ、冷蔵庫の中には卵と米が大量にあった

「そろそろ帰らないのか」

「そうですね、切り上げましょうか」

音を上げたのは上司であるスティーブンだった、智花も時計を見た時にはこんな時間だとは思わずスマホを開きメールを確認しつつ事務所を出た
帰りにコンビニに寄って適当に酒やら煙草やらを買って急ぎ足で家に帰れば部屋の中は既にタバコの匂いがしていた

「おー上がってんぞ」

「ただいま」

「飯食うんか?」

「食べます、はいこれお土産」

「おー助かるわ流石にハニー」

「はいはい、私には通用しませんからね」

「馬鹿野郎お前に愛想なんか振りまくかよ」

近づいてきたザップが頬にキスして出迎えられることは初めてではない、器用な男だとは思ったが適当にレシピ本を渡しておけば勝手に料理は覚え今じゃ智花よりも美味いほうだ
煙草の火は消されて臭いもさほど残ってはいない、風呂の用意もしていたらしく電子音が五月蝿く鳴った
こいつはそういう男だ、女をよく理解して労り愛してどうすれば機嫌が良くなるのかを無意識下で分かるようなずるい男だった
甘えたがりな少し寂しん坊、それが智花からみたザップ・レンフロなのである。

だからだろう、どんなに他の女を抱いても
どんなに馬鹿な事をしても
あの男は智花だけは巻き込まないようにしている
それは彼のプライドでもあるのだろう、きっと智花が女遊びをやめろといえば一瞬で辞める、だが智花はザップを縛る気はなかった、ただひたすらに愛に飢えて女に飢えた男の帰る場所でいたいと願うからだ、だから彼女を知る愛人達も最初こそ恨んだものの勝てないと悟ったのだ、自分に必死になることなど昔から1度もなかったその男がみせる本気の顔があまりにも情けないものだから。

「ザップ」

「んー」

「今日も美味しいですよ、この後お風呂に入って映画でも見ましょうか」

彼の少しだけ味の濃い夕食を食べながらそう言えば顔を背けて紫煙を吐き出す、その姿さえ智花は愛おしい
美しい銀髪を揺らしてあの美しい瞳を細めて人の横顔を盗み見ることを知っている、素直になれないのは昔からだろう黙って身体を許して犬のように洗われても文句も言わず、よく分からない難しいサスペンス映画に対しても飽きたとしても席を動かず隣で抱きしめながら画面を見るのも
同じベッドで狭いけれど寝ることも、全てがこの男なりの愛という形であった

「おはようザップ」

そう言いながらコイツはいつも優しく笑いながら頭を撫でる、親なんてものを知らない自分にとっての愛の全てを解らせたのはこの女だろう
裸で寝るわけでも、頭が痛くなる訳でもない心地いい朝 はこんな汚い街の一角の天国だ

「おう」

無愛想に挨拶をしてもただひたすらに優しく微笑み朝食のメニューを聞いてきたり、隣同士で顔を洗ったり、向かい合って食事をして職場に行くのもこいつだけ
ただこの智花という女だけが俺を変えてその度に愛していく

「愛していますよ」

くさい甘い誰も吐かないようなそんな愛の言葉を吐けるのはこいつくらいなもので、その言葉に胸が強く締め付けられて深く大切にしたいと思うのもこれから先一生この女だけだと毎日思いながら今日もまた愛人達の胸に顔を埋める。




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