僕を呼んで


「ズルい」

「へ?」

そう言って目の前にいた30手前の男が言うセリフでは無いと若者言葉で言えばJKであるミョウジナマエは思った
校内の食堂が封鎖されてる為に仕方なくキッチンだけを借りて適当にある食材を入れたラーメンを1年生4人で食べ終えて、洗い物をみんなで終わらせ解散した静かな食堂でやって来た五条は教師らしくもない(いつもの事だが)台詞を吐いた
それをたまたま拾ってしまったナマエは反応しなきゃ良かったなんて思わず思った

「ナマエ、僕の事呼んでよ」

「五条先生?」

どうやら違うらしく目元は隠れていても少しムカついた顔をしている、ますます分からない確かに2人は恋仲であるがオンオフはしっかりしようと話の上で交際をしている
お互いの命は他のみんなと同じく平等であり、それなら外での態度も同じだろう、2人きりだからとはいえ校内には人も居るのだから尚更猿のようには考え無しに行動はできない

「違うでしょ」

「悟さん」

「はぁ〜」

また違ったらしい、成績は悪くないのに残念ながら察する能力は低かったらしいと内心冗談交じりに思いつつナマエは自室に足を向ける、無駄に広い校内では食堂から自室に戻るのも3.4分は掛かるものだ窓から見えた景色は真っ暗で任務がなくてよかったと思っていた

「ナマエ、手繋いでよ」

「どうしたんですか甘えたさんですか?」

「そーいう事にしたげる」

いつもの様ないたずら混じりではなく、どこか拗ねた子供のような声色にますます分からなくなり自室に近づくばかりだ
男子達のように部屋は真隣でなくとも出入りすれば気付かれるかもしれないとも思い部屋の鍵を開ける際には手を握ったままの五条をみた

「いいでしょ」

「ダメって言っても聞かないじゃないですか」

「まァね」

仕方なくドアを開ければ家主のことなどお構い無しにベッドに座って漫画を読み出す、この間虎杖に借りたばかりの本は途中までなのにそんなことも気にせず初めから読まれる
本当に大人なのか?と疑問を抱きそうになりながらも着ていた制服のジャケットをハンガーに掛けて狭いベッドの端に座れば頭が乗せられる

「名前呼んで」

「悟さん」

「もっかい」

「悟さんって変なの、どうしたんです?」

呆れたように思わずナマエは五条をみれば彼は目元を隠す布を外して自分の頭上にあるナマエの目を見つめた
相変わらず瞳が綺麗だと見入ってしまっているが彼はそんなことも気にせずに呟いた

「恵とか悠仁みたいにさ呼んでよ」
.
・・・と間が空いた後にナマエは意味を理解した、ただの嫉妬なのだと理解した時には五条よりも反対にナマエが恥ずかしくなった程で彼の髪を優しく撫でながら呟いた

「悟くん?」

「はぁーい」

「悟さんは悟さんなのに、呼び方が嫌ですか?」

甘い声で返事した五条にナマエは思わずからかうように声を掛ければ漫画を乱雑にサイドテーブルに投げおいた、人に借りてるものだと言いたくなったがまるで京都の東堂の術式を使われたのかと錯覚する程ポジションが入れ替わったようにナマエは瞬きをした途端に天井と彼の顔が見えていた
ナマエの髪を優しく撫でて小さく笑う

「僕だって嫉妬するんだよ」

「からかったわけじゃ…ちょ、ちょっともう」

ナマエは反省したこの男は子供より子供な上にやられたらやり返す、それがどんな形だとしてもだ
たかだか他の子のように呼ばれなかっただけで嫉妬をしたなんて可愛いと思えたが今は可愛いなどと思えないでこれから始まる深い夜にナマエは嘆いた、明日の授業は2人でサボりになってしまうと

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