負け犬の遠吠え小説一覧Hard to Get

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「それで、君たちも今年からホグワーツか?」
「うん、僕はそうだよ」
「同い年なんだな。(チビだから)年下かと思ったよ」
「うるせぇ」
「箒見てたようだけど、君たちもクィディッチやるつもりなのか?」
「うーん、やってみたいとは思ってるよ。君たち『も』ってことは、二人はやるつもりなんだね」
「もちろん。ビーターなんか俺たちにピッタリだと思わないか?」
「いいと思う! ビーターは息を合わせるのが大事だもんね」
「プロキオンは?」
「さあ。どうせ一年生は出来ないんだし、またその時考えるさ。それより俺……」
「俺たちの兄貴もクィディッチやってるんだ。シーカー」
「お兄さんもホグワーツ?」
「ああ。そいつはチャーリーっていって六年生なるんだけど……」
「おい、遮るな!」

 少なくともコイツは絶対わざとだった!と、プロキオンはフレッドに向けて声を荒らげるが、やれやれと言いたげな顔を返されイラッとする。

「なんだよプロキオン」
「俺は行くところがあるんだ。悪いけど、話はまた今度にしてくれ」
「おいおい冷たいこと言うなって。せっかくの機会じゃないか」
「ホグワーツに行けばそんな機会、いくらでもあるだろ」
「俺たち家族と『漏れ鍋』ってとこで待ち合わせしてんだけど、約束まで時間があるんだよ。そこでちょいと話そうぜ」
1−03/漏れ鍋にて@
「…………」
「僕は平気だよ」
「プロキオンは?」
「……まあ、ちょっとくらいなら」

 そう来なくっちゃと声を弾ませ、双子がプロキオンたちを先導し始めた。「時間、大丈夫?」とセドリックに尋ねられ、「行くとこって言っても家だし、多少の遅れは平気だ」と答える。
 実は、仕方なくという体を装いながらも、ジョージの提案に乗らないという選択肢は今のプロキオンになかった。何を隠そう、プロキオンが家へと帰るために使う手段は「漏れ鍋」からの煙突飛行ネットワークだったのだ。プロキオンはその「漏れ鍋」への行き方が分からずさ迷ってたわけだから、これは思わぬ僥倖だったわけだ。

 これで「まあ漏れ鍋の行き方分からないんだけどな」なんて言われたらぜってー許さねぇぞ、と考えていたが、そんな心配は無用だったようだ。双子は慣れ知ったようにスルスルと人混みを縫って行く。
 漏れ鍋は思ってたよりずっと近くにあった。どうして気付かなかったのかと悔しくなるくらいには。いざ漏れ鍋に着くと焦るほどの時間じゃなかったなと思えてくるのだから不思議である。

 安堵感からか機嫌の良くなったプロキオンは三人と会話するのを面倒だとは思わなくなっていた。

「バタービール四つ」

 ここでもやはり慣れたようにフレッドが注文した。

 飲み物はすぐに来たが、その前もその後も双子が口を閉じることがなかった。セドリックはニコニコしながら質問に答えたり、楽しそうに笑ったり、聞き役に徹している。やっぱお前はそっちだよなとプロキオンは思った。少なくとも自分から見ず知らずの人間に話しかけるような奴じゃないよな? よほどクィディッチが好きだったのだろうか……

「七人兄弟なんだ。上に兄貴が三人、下に弟と妹が一人ずついる」
「ホグワーツには何人いるの?」
「一番上は来年卒業だけど、兄貴三人全員いるぜ」
「それは心強いね」
「まあな。既に秘密の抜け道なんかもいくつか知ってる」

 秘密の抜け道、というフレーズに冒険心を擽られたのは、プロキオンも例外じゃなかった。「そんなのあるのか?」「ああ」双子は揃って得意そうな笑みを浮かべる。

「ホグワーツ中に隠されてるに違いない。俺たちが卒業するまでに全部見つけたいところだな」
「法則性とかあるのか?」
「ビル……あ、一番上の兄貴な、が見つけられなかったって言ってたから、多分ないんだろーな。ビルはそういうの探すの得意だから。チャーリー……二番目の兄貴は先輩から教えて貰ったって言ってたから、そうやって伝承していくのが普通なんだと思うぜ」
「自力で見つけるには片っ端から探すしかねぇってわけか」
「勘が良ければ偶然見つかることもあるぜ。実際ビルは『なんとなくありそう』ぐらいの感覚で幾つか見つけてるし」
「ふーん」

 俺もホグワーツに入ったら探してみよう、とプロキオンはひっそり決意する。
 プロキオンの言葉にフレッド(シャツにシミがついていたから間違いない)が反応した。

「興味あるのか? 俺たちと一緒に探そうぜ」
「いいね」

 そうなれば、コイツらから既に知ってる抜け道を聞き出せる。プロキオンは打算的に考える。同世代の子供なんてつまらない奴らばっかりだと思ってたけど、何だか楽しくなってきたな。
 プロキオンはバタービールをぐいと煽る。ジョージがニヤリと口角を上げ、テーブルを乗り出してセドリックと肩を組んだ。

「もちろんお前も行くだろ、セドリック? 拒否権はないぜ」
「『秘密』なんてものは暴かれるためにあるもんだからな」

 セドリックが好奇心とな狭間に揺れつつも僅かに躊躇った様子だったのでプロキオンも続けた。そこでフレッドが興奮したように提案する。

「その通り! 加えるなら、『禁じられたもの』も破られるためにあると思わないか?」
「『禁じられた森』のこと言ってんのか?」
「え……ダ、ダメだよそれは! 校則違反じゃないか」
「『校則なんてものは破られるためにあるもんだぜ』」

 ジョージがプロキオンとフレッドを真似て言ったのでプロキオンたちはカラカラと笑った。セドリックはそんな三人に信じられないという表情を浮かべる。

「バレなきゃいいんだって」
「危ないよ!」
「知ってるか? 禁じられた森には生徒が罰則で行かされることもあるらしいんだ。ほら、安全だろ?」
「どこがだよ……!」

 必死なセドリックにプロキオンは思った。多分コイツは正しいことしかしたことのない、根っからの「いい子ちゃん」なんだろうな。人に迷惑をかけたり、決まり事を破るようなことなんてしたことがないのかもしれない。昔からレギュラスに構ってもらいたいがための悪戯や好奇心に突き動かされた行動を幾度も繰り返してきたプロキオンとは人種が違うようだ。

「それも兄貴情報か?」
「ああ。うちの兄貴たちは優秀だから、実際どんな感じかまでは聞けなかったけど。行かされた友達は無傷で帰ってきはしたものの、そーとー怖がってみたいだぜ」
「へえ……」
「君たち、本気で行くつもりなの?」

 ニヤニヤ笑いを止めない三人にセドリックが問うた。セドリックは困惑と戸惑い、非難の混ざった面持ちをしている。
 フレッドが丸め込まれないセドリックに白けたような顔で言った。

「こりゃセドリックはグリフィンドールにはなれねぇな」
「そうだな……ハッフルパフってところか?」
「僕は両親ともハッフルパフだったから……そうなると思うよ」セドリックが少し傷ついたような顔で答えた。

 プロキオンはレギュラスに借りた「ホグワーツの歴史」の内容を思い出す。確か四つの寮があって、グリフィンドールは勇気、ハッフルパフは勤勉、レイブンクローは知性、スリザリンは野心を求めるんだったっけ。寮に関しては大まかにしか書かれてなかったから、プロキオンは四つの寮の特性についてあまり詳しくない。
 そういえば父上はどこの寮だったんだろう、とプロキオンはふと思った。帰ったらすぐに聞こう。そして同じ寮に入りたい。

「その点プロキオンは、十分グリフィンドールの素質があるように見えるな」
「グリフィンドールを推すようだけど、お前らグリフィンドールに入りたいのか?」
「当然! 『グリフィンドール、勇気ある者が住まう寮!』一番いいと思うぜ、俺は」
「うちも家族全員グリフィンドールだから、そうなる確率が高いしな」

 一番と聞いたプロキオンはじゃあグリフィンドールに入ろうかなという気持ちになったが、二人が身内贔屓で評価している可能性を思い、その考えは心の中に留めておく。

「プロキオンのご家族は?」
「聞いたことないな。予想はレイブンクローって感じだけど」
「普通話題になるだろ」
「……寡黙な人なんだよ」

 レギュラスは基本、プロキオンに何も語らない。レギュラスから教えてもらったのはマナーや生きるのに必要な最低限のことだけで、プロキオンの持つほとんどの知識の源は膨大な数の書物だった。何度か物事を尋ねたことはあるが、レギュラスから帰ってくる答えは「自分で考えなさい」ばかりだったので、何時しか尋ねることもやめた。
 今のように同世代の子供との会話についていけないこともあった。親族の嘲笑の意味を理解出来ないこともあった。しかし見栄っ張りなプロキオンはその意味を尋ねることもせず、その度に上手く交わしてきた。
 レギュラスから教えて貰えない上に、調べるための本もレギュラスに管理されている。ホグワーツのことのように知りたくても知れないことはたくさんあったし、レギュラスが自分から何を隠しているのか知りたいと思ったこともあった。レギュラスの一風変わった教育方針に不満を持ったこともあったが、今はそれを受け入れている。

 初めてレギュラスの隠し事を、そう、ハウスエルフがどんな扱いを受けるのが一般的なのかを従弟の家で勝手に知ってしまったとき、レギュラスは酷く悲しそうな顔をした。プロキオンはレギュラスにそんな顔をさせたかったわけじゃなかった。ただ、元々レギュラスに大切にされていて気に食わなかったハウスエルフが虐げてもよい存在だと知ってしまうとそうせずにもいられなかったし、今もそれは変わらない。初めてクリーチャーをレギュラスの前で蔑んだときのレギュラスの顔を見て、ああ、父上が俺から遠ざけようとしていたのは、こういうことだったんだと悟った。
 それ以来、無理に書庫に入ろうとするのは辞めた。

 しかし、そんなレギュラスの教育方針は後に、プロキオンを大いに苦しめることとなる。

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