負け犬の遠吠え小説一覧Hard to Get

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「寡黙な人なんだよ」

 そう言ったとき、プロキオンはセドリックが気の毒そうに眉を垂らしたのを見逃さなかった。「寡黙な『人』」という言葉の意味……プロキオンの片親が、既にいないということに気付いたのだろう。
 フレッドとジョージもそれに気が付いたのかは分からないが、仕切り直すように大袈裟に広げたジョージの両手にプロキオンは気遣いの色を見た気がした。

1−04/漏れ鍋にてA



「まあ親の寮なんてどこだっていいさ! プロキオン、ぜひ我が寮に!」
「歓迎するぜ」

 「我が寮」と言い切るジョージとバチンとウインクを決めるフレッドに、プロキオンは呆れたような顔を浮かべた。

「まだお前らがグリフィンドールった決まったわけじゃねぇだろ……」
「ビルのお墨付きだぜ? お堅いパーシーでも入れたんだから、俺たちが入れないわけないって」
「パーシーとやらは三番目の兄貴か?」
「ああ。あとは弟がロンで、妹がジニー」
「構成聞いたときも思ったけど、男の割合高いな」
「女の子が欲しかったってのが丸わかりだよな。俺らが生まれたときはさぞかしガッカリしただろうぜ。二人揃って男だったんだから。ロンが生まれたときなんか泣いたんじゃねぇかな……」
「そんなことないと思うけど……」セドリックが苦笑いで言った。「いいじゃないか、兄弟。僕一人っ子だから羨ましいや」

 確かに。プロキオンもうんうんと同意した。もしプロキオンにもフレッドやジョージのような兄弟がいたら、もっと刺激的な毎日を送れていたのかもしれない。プロキオンは既に二人を好意的に思っていた。セドリックも良い奴なんだろうし嫌いではないが、気が合いそうには思えない。

「そんないいもんでもねぇけどな。殆どのもんがお古だし、家は狭いし」
「でも、兄弟でクィディッチとか出来そうだよね。やったことある?」
「しょっちゅうだよ。おかげで箒にはちと自信がある」
「いいなぁ。僕、危ないからってあんまり乗らせてもらえなくて……楽しそう。チャーリーさんはシーカーなんだったよね?」
「ああ、かなり上手いぜ。キャプテンだし、スニッチ全部取ってるらしい」
「将来プロになるのか?」
「そうなるんじゃねぇかな。お袋が嫌がりそうだけど……心配症なんだ」
「この間なんかさ、試しにウロンスキー・フェイントやって見せてくれって頼んだんだけど……」

 そこからフレッド、ジョージ、セドリックの三人はクィディッチの話でかなり盛り上がっていたが、クィディッチにそこまで興味がないプロキオンは三人のコアなトークについていけなかった。クィディッチって、そんなに面白いか?
 嫌いなわけではない。どちらかと言えば好きな方だ。一度レギュラスに連れられワールドカップを見に行ったことがある。迫力満点で見応えのある試合にプロキオンは満足したし、楽しかった。だが、あそこのチームが好きだとかあの戦略がどうだとか技の名前を覚えるほどの興味は湧かなかったのだ。

 プロキオンとしてはクィディッチの話で盛り上がられても面白くないので、さりげなく話題をホグワーツでの生活へと逸らした。
 プロキオンとしては詳しい授業の様子や学習ペースなどの情報が欲しかったのだが、「んなもん頼まれたって聞くもんか!」と呆れられる。
 そもそも二人が聞いている話も信憑性があるとは限らないらしく、上二人は双子を揶揄うために度々嘘をつくらしい。

「ホグワーツには魂を吸い取る呪いの鏡があるとか」
「封印されし化け物が眠る部屋があるとか」
「組み分けの儀式はトロールと戦わせられるとか」

 いやどれも嘘だろ。……嘘だよな?

「いたいた! 遅くなってごめんねフレッド、ジョージ。ロンが迷子になっちゃって……あら、そちらは?」

 フレッドとジョージを呼ぶ声に振り返ると、そこには大量の荷物を抱えるふっくらした体型の女性がいた。「ママ!」予想はついたが、やはり二人の母親のようだった。後ろには父親と、他の兄弟五人も揃っている。揃って赤毛だから、プロキオンもセドリックも一目で分かった。
 椅子から降りたフレッドとジョージが、それぞれプロキオンとセドリックを指さした。人を指さすなと思いながらプロキオンも席を立つ。

「こいつら、プロキオンとセドリック。さっき知り合ったんだ。同級生だよ」
「はじめまして」
「はじめまして」

 女性は「まぁまぁまぁ!」と嬉しそうに笑った。如何にも人の良さそうな、いい母親という笑顔だ。

「こんばんはプロキオン、セドリック。二人ともしっかりしてて偉いわねぇ。フレッドとジョージとお友達になってくれてありがとう。迷惑かけるかもしれないけど、悪い子たちじゃないから仲良くしてやってね」
「こんばんは。二人のご両親はここにいらっしゃらないのかな?」

 辺りを見回しながら尋ねてきた彼らの父親の身長がレギュラスよりも高いことに気付いて、プロキオンは今でこそ背の低い二人もいつかこうなるのかもしれないと思った。くそ、俺のことは抜かすなよ。

「母がもうすぐ来ると思います。ここで食事をとって帰る予定なので」
「僕は一人で…………あ、」

 プロキオンは顔を青くして壁にかかる時計を見上げた。やべーもうこんな時間かよてかもう日が沈んでんじゃん!そういえばさっき夫人も「こんばんは」とか言ってた!
 適当に相手をして帰るつもりだったのが、いつの間にか随分と話し込んでしまっていたようだ。レギュラスは本来一日休みをもぎ取るつもりでいた今日の仕事は大した量ではなく、早ければ夕方には帰れると言っていた。レギュラスが既に帰宅している可能性は十分にある!

「すいません……父が家で待っているので、僕、もう帰ります!」

 挨拶もそこそこに金だけおいて、プロキオンは煙突に駆け寄った。心情的には「ブラック邸ブラック邸ブラック邸!」と喚きたいところだったが、煙突飛行粉を使うときに行き先を大声で言うのは防犯的にも品性的にもよくないと躾られていたため、実際は小声で呟いただけだ。

「またな、プロキオン!」

 フレッドとジョージが綺麗にハモって叫んでいたが、プロキオンがエメラルドグリーンの炎に包まれて消える刹那、最後に目に映したのは控えめに手を振るセドリックだった。


 煙突飛行ならではの酔いそうに回る感覚が収まると、見慣れた家を背景に外套を羽織るレギュラスの姿が目に入った。遅かった!
 動揺したプロキオンは着地に失敗し、煙突飛行ビギナーのように床に転がる。顔を上げたくない、といつまでも床に這い蹲ったままでいると、レギュラスが優しい手つきでプロキオンを抱き起こしてくれた。勇気づけられたプロキオンはそっと顔を上げたが、すぐに後悔する。あ、これ夜通し説教コースの目だ〜、とレギュラスの目に予感した。

「僕の言いたいこと、分かりますね」
「は、はい、父上……」
「あの程度の買い物にここまで時間がかかってたわけじゃありませんよね?」
「はい、父上……」
「どうしてこんなに遅くなったんですか? まさか迷ったなんて言いませんよね」
「ま、まさかぁ」

 プロキオンはそんな発想をされるなんて思いもよりませんでしたという顔で否定した。プロキオンが迷子になったという事実を知っているのはプロキオン本人だけなのだから、多分バレないはずだ。
 レギュラスもプロキオンが本気で迷子になった思っていたわけではないらしく、特に疑われることなくスルーされる。それはそれで惨めな気もしたが、とりあえず汚名を被らずに済んだことに安堵した。

「その、同じホグワーツの新入生に声を掛けられたんですけど、思った以上に話し込んでしまったみたいで……遅くなって申し訳ありません、父上……」
「…………」

 モゴモゴしながらも正直に話すと、レギュラスは暫し沈黙したが、プロキオンはおや、とそれをいいように受け取った。彼の目が柔らかくなった気がしたのだ。

「……どんな子たちですか?」
「えっ? …と、セドリックっていう真面目そうな奴と、フレッドとジョージっていうお喋り……賑やかな双子です」
「そうですか」

 もしかして、許してもらえたのだろうか。長い睫毛を伏せたレギュラスからは先程までの刺々しい雰囲気が拡散されている。
 入学前から友達(と呼ぶには早すぎるかもしれないが)が出来たのを喜ばれてる? もしかして俺、友達出来ないかもって心配されてたのか……? 怒られずに済んだのは良かったけど、だとしたらちょっと複雑だ。
 プロキオンを抱き起こすために屈まこんだままだったレギュラスは、プロキオンの頭を数度撫でるとクリーチャーに夕食の準備をするよう言いつけた。プロキオンを立ち上がらせ、微笑みかける。

「どんな話をしたんですか? 聞かせて下さい」

 レギュラスが嬉しそうに話を聞いてくれるので、プロキオンは嬉々として彼らの話をした。

 フレッドとジョージはホグワーツに三人も兄弟がいるみたいで、両親も含めて全員グリフィンドール寮らしいんです。やっぱり家族ですから、同じ寮に入りやすいんですかね。父上はどこの寮だったのか聞いてもいいですか? ……や、やだなぁ。父上と同じってだけで大事な寮を決めたりしませんよ。ちゃんと自分に合った寮を……本当ですって。……分かりました。じゃあ先生方に聞くなりして自分で調べます……え? グリフィンドールに入りたいのかって? まあ悪くはなさそうですけど……もしかして父上、グリフィンドール寮出身ですか!? ……あ、そうですよね……自分で調べろ、ですよね……そういえば父上、ホグワーツには秘密の抜け道がいくつもあるらしいですよ。知っていましたか? ……さすが父上! ホグワーツはかなり広いみたいですから、上手く使えたら便利そうですよね。皆で探してみようって話にもなりました。他にも調べてみたい場所があるんですけど、セドリックの奴がしぶってですね。禁じられた……あ、いえ、何でもないです……え? 森? ああ、そういえばそんなのがあるみたいですね……特に興味ありませんけど、ええ。それより父上、クィディッチについてどう思いますか? 僕、そんなにセンスは悪くない気がしてるんで、出来ないこともないと思うんですが、出来るならやっておいたほうがいいんですかね?

 スラスラと出てくる自分の声が何時になく弾んでいるのに気付いて、プロキオンは少し照れ臭い気持ちになった。
 時間を忘れてたくらいだし、俺、楽しんでたんだな。

 秘密の抜け道に関してはプロキオンにとって「ホグワーツの歴史」にも触れられていない新事実だったので、「レギュラスの知られたくない知識」である可能性に不安を抱いていたが、レギュラスは「ありましたね、そんなの。僕もいくつか利用していましたよ」と懐かしそうに笑っただけだった。
 そのことに安堵したプロキオンは「禁じられた森」に関する話題を出してみたが、全てを言い切らない内にレギュラスの顔が険しくなったので慌てて撤回する。禁じられた森に興味があるなんて、校則違反を宣言するのと同じじゃないかと後で気付いた。プロキオンがそういうものを守る質でないのはその被害に何度もあってきたレギュラスもよく知っているため、プロキオンがしようとしていることも予想できたのだろう。「まさか禁じられた森に入るつもりじゃありませんよね?」と目が咎めていた。話題を逸らすことに成功はしたが、誤魔化せたというよりは見逃されたという感じだ。

 プロキオンが気になっていたレギュラスの寮だが、教えてもらうことは出来なかった。プロキオンがレギュラスと同じ寮に入りたがっていたのを、しっかり見破られていたからだ。
 レギュラスはプロキオンに、どの寮になるかは今後を左右するとても大事なことだから、後悔することのないよう自分に合った寮を、きちんと自分の意思で選んで欲しいと告げた。プロキオンは思わず「それは経験談ですか」と尋ねそうになったが、レギュラスの顔を見ると何となく躊躇われてしまった。

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