「見つけましたよ、苗字さん」
「……観月君、まだいたんだ」
ふと後ろからかかった声に振り向けば、そこには観月君が居た。
彼は珍しく何も言わずに微笑み、教卓にある――『衣装コンテスト優勝』の文字が刻み込まれたトロフィーを見つめた。黄金色に輝くそれは、窓の外から差し込む夕焼けの色を反射させ、赤いリボンをたなびかせている。その光景に、数時間前の出来事が夢ではないことを実感させられるのだった。
結末から言おう。私たちはクラス対抗衣装コンテストにて優勝を収めた。
正直上条さんが倒れたときはもう優勝など有り得ないと思っていたし、デザインを担当していた私がステージに立つともなれば、上条さんの代わりを務めるプレッシャーに心がぺしゃんこに潰れてしまいそうだった。
でも不思議とステージを歩くときは緊張なんて一ミリもなくて。ただ楽しくて。……そう、それはまるで、魔法にかけられたような気分。
そんな風に私に魔法をかけてくれたのが隣の席の彼──観月君だったのだ。
「優勝したんだ……本当に。」
「ええ、貴女のお陰です」
「そんなこと……観月君が、私なんかを頑張って綺麗にしてくれたから、」
「……君は、自分を過小評価しすぎているようですね」
観月君は一つ息を吐くと、賑やかな後夜祭のざわめきを耳にしながらこちらに向き直った。
── ただ、僕は貴女も十分素敵だと思いますよ。
その瞬間、思い出してしまったのだ。舞台袖で彼にかけられた一言を。私に自信を持たせてくれた、あの一言を。冷め始めていた熱がまた私に訪れる。息が詰まってついに何も言えなくなった。あまりにも真剣で真っ直ぐすぎる彼の瞳が、私を射抜く。
「君は本番前も同じことを言っていました」
「……だって、」
「いいですか。……君は馬鹿です」
「なっ、」
反論しようとした私に彼は歩み寄ってきて、まだ巻きの残った髪を一束掬い上げ、キスを落とした。硬直する体。交錯する視線。耐性のない至近距離に微動だにせずいる私に彼はまた悪戯に笑った。彼のフローラルがふわりと香る。ゆっくりと柔らかな弧を描く彼の唇に、また魔法にかけられてしまったようで。
「だから僕は何度でも言います。……君は可愛い」
「観月君、」
「いい加減認めてください。そして、自覚しなさい。……コンテストが終わってからの、男の視線を」
くすぐったい台詞に身を捩って視線を逸らした、筈だった。
だがしかし、鈍い光を放つ彼の瞳に再び拘束されてしまう。その言葉の意味はすぐに理解できた。だって、観月君の顔がいつもと違ってすごく怖かったから。観月君でもこんな顔するんだ、と驚かされている場合ではない。ぐ、と引き寄せられた腰はびくりとも動かない。男子にしては華奢な彼の前だとしても女の力は無力であることを理解し、得体の知れない恐怖に駆られる。
「すみません、やり過ぎましたね。…………全く、本当に貴女って人は」
恐怖に涙を滲ませた私に彼は一言そういって体を離した。呼吸がうまくできない。無意識に息を止めていたようだ。楽になったはずなのに、野放しになった体は妙に切なかった。脈が動き出す。それは何かの病を疑うほどに速かった。
可笑しい。怖くて離してほしかったのに、今はそれを残念に感じている自分がいるだなんて。それも、あの観月君に。困ったように優しく笑っている彼がどうしても恋しくて、何か悪いものでも飲まされたのではないかと勘違いしそうになる。
……違う。私は彼にどうしようもなく惹かれているだけ。
「ごめん、私馬鹿なのかも。……馬鹿だから、許して」
「……?は、い……っ!?」
勢い任せに思い切り彼に抱き着いた。彼の戸惑った声がくぐもって聞こえる。そして私はそこに、確かな答えを得る。――私は、観月君が好きだ。
「貴女、僕の話聞いて……」
「うん、聞いてたよ。……こういうことするのは、観月君が好きだから」
「……本当に、貴女は馬鹿です」
ゆっくり、しっかりと回された腕。どうしようもないですね。そう言った彼の声はどこか嬉しそうで笑っていた。
女の子は誰でも