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そんな日に夜勤をしたがる物好きは居らず、女中は橘香一人だった。
真選組は総出で警備に駆り出された為、いつもより早い夕食を終えた今、屯所には殆んど人がいない。
「「「ええっ!?橘香さんも祭り行くんすかァァァ!!」」」
仕事が終わったら夜食にたこ焼きを買って食べながら花火を見ると橘香が言うと、一緒に夕食の後片付けをしていた待機組の隊士達から「ズルい!」「橘香さんだけは俺達の味方だと思ってたのに!!」などの非難の声が上がった。
何故責められるのか分からないが面倒だった橘香は早々に仕事を片付け、彼等のブーイングを完全スルーして祭りへと繰り出した。
「おじさーん、たこ焼き一つ!」
「はいよ!」と威勢のいい返事をした屋台のオヤジは軽快なリズムでたこ焼きを紙箱へ詰めていく。
その手際の良さをのんびり眺めていると祭りの人混みを掻き分けて慌てたようにこちらに来る黒い隊服が目に入った。
「山崎さん?」
「あっ、橘香ちゃん!もしかしてソレ、たこ焼き?」
息を切らした山崎が橘香へ尋ねた。
「そうですよー。私の夜食です」
今しがた受け取った、たこ焼きの入った紙箱を掲げながら、ソースのいい香りに橘香が頬を緩めているとバッとそのたこ焼きは強奪された。
「ごめん!!お金は後で返すからー!!」
「は?ーーふっざけんな!!どーいうつもりだ!!ザキィィィィ!!」
「急ぎなんだ!上様が食べたいらしくて、副長に買って来いって言われたんだよ。もぐもぐ」
「食べてるじゃん!絶対食べてるよね!?いいの?ソレ、将軍様のだよね!?」
あっという間に人混みに紛れた地味な山崎を捕まえるのを諦めた橘香の目の前に紙箱が差し出される。
「嬢ちゃん、持って行きな!オマケしてやったから」
「!!ありがとうございます!あっ、お金は払いますよ」
災い転じて福となすとは正にこのこと。
ニッと笑った粋なオヤジにもう一度お金を渡し、橘香は新たなたこ焼き(オマケ入り)を手に入れた。
オヤジに免じて山崎は倍返しくらいで許してあげよう。
人の流れに逆らって河原へ出ると花火が見えそうな場所に適当に座って橘香は早速、たこ焼きを頬張った。
河原には同じ目的の人達がちらほらと、誰かと一緒に座っていた。
ドン…… パァン
感傷的な気分を晴らすように花火が始まった。
夏の夜空に色鮮やかな花が次々に咲いては消えていく。
かと思えば急に花火は途絶え、白い煙が上がり、祭りの広場から沢山の人が走って逃げていく。
「トラブルかな?」
通り過ぎていく人々は口々に「テロだ!」「カラクリがァ!!」「逃げろ!!」と言っていた。
空ばかり見ていた橘香が気付いた時にはすっかり辺りには誰もいなくなっていた。
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