残酷な勝利
「相変わらず嫌な戦い方すんなぁ、お前」
「っは……、米屋こそ」
やっぱりリーチ長いんだよなぁ、こいつの槍。戦闘が伸びて辛いのはトリオン量の少ない米屋の方かと思っていたが、どうやらそんなこともなさそうだ。所々にできてしまった傷からは微量ながらもトリオンが零れだしてしまっていた。
「そっちの騎士様はいつおいでになるんだ?」
「騎士?馬かなんかの間違いでしょ」
「ひでえー。お前、相変わらず手厳しいな」
ゲラゲラと腹を抱えている陽介に、不意打ちになるかと試しに追尾弾を撃ち込んでみるが、難なくシールドで防がれてしまう。それが引き金となってしまったのか、弾かれた様に一気に距離を詰め寄ってくる米屋。いちいち距離を取り直していても埒が明かなさそうだ。
「おぉ、そうこなくっちゃな!」
一か八かで迎え撃つ。両手にキューブを出現させる。いわゆるフルアタックモードである。これでは米屋の槍を防ぐことができないが、それはお互い様である。フルアタックをこの距離で食らえば米屋も無事なわけがない。迫る米屋は楽しそうに口角を開けた。それに応えるように笑みを浮かべて、バイパーを米屋へ向かって撃った刹那
「緑川!!」
視界の端に、こちらをしっかりと目で捉えている緑川の姿を見つけて、あ、やってしまった。ただ単純にそう思った。路地裏から飛び出た彼の流石といった機動力、開いていた距離をあっという間に詰めてくる。
「ごめんね、南先輩」
こちらに向けられた槍の矛先。同じく私を狙う緑川の両手に構えられているスコーピオン。これじゃ間違いなく首が飛ぶだろうな、そう悟るのだが
「シールド!!」
「はぁ?!ここでかよっ」
どこかから聞こえた叫ぶ声と同時に、目の前にシールドが展開される。嫌な程聞いてきた味方の声、やっと来たか。米屋がそのシールドに攻撃を阻まれるであろうと判断し
「メテオラ」
咄嗟に米屋、緑川、地面の三方向に向かってメテオラを打ち込む。爆破による煙で奪われてしまう視界、最後に見えたのは驚いたように目を見張った緑川の顔だった。
「っ緑川!!無事か?!」
「あぁーもうちょっとだったのにー」
「無事みてぇだな」
「そういう、よねやん先輩も……。あぁ……やばいね」
「手足飛んでもベイルアウトしなかっただけ褒めてほしいわ、それより南は?」
「あっぶねぇ……。お前、俺いなかったら完全に首飛んでたぞ」
「あれ?出水いたんだ」
「気付いてないであんな無茶やってたのかよ」
肩からごっそり持っていかれたものの、おかげで何とか逃げ出すことができた。自身の放ったメテオラに吹っ飛ばされ地面にどかっと雪崩れ込む。そこで呆れた顔して歩み寄ってきたのはチームメイトの出水だった。四股がちゃんとあるというのに、キャッチしてくれないあたり、流石である。
「ほーら。腕、逝っちゃってんじゃん」
「米屋やったんだから、いいでしょ」
「片方の足と腕だけな」
「まじか、しぶといなアイツ」
煙が晴れない先。ぼんやり見える2人の人影に思わず舌打ちを零す。
「ほんと危なっかしい奴」
「うるせぇ、いるならとっとと出てこいや。すかぽんたん」
「お前だからな?隠れてろって言ったの」
「ピンチの時ぐらい出てこい」
「だから助けてやったんだろうが!お前、俺いなかったら終わってたんだぞ!」
ほらとっとと立てよ、そういって無理矢理に腕を掴んで立たせようとする出水のされるがままに立ち上がる。こちとら片腕吹っ飛んでしまっているというのに、このスパルタ対応はいかがなものか。
「鬼畜」
「はいはい」
周りを警戒しているのか、鋭い目つきであたりを見渡している出水に、つられるように視線を彷徨わせる。すると煙はすっかり止んでいて、その向こうにあったはずの2人の人影すら消えてしまっていた。やばい、逃げられた。そう思ったのも束の間
「おーふたーりさん」
音符の付きそうな弾んだ声。背後から聞こえたその声に振り返ろうとしたが、それより早くに私の背中に回り込んだ出水によって阻止されてしまう。背中ぴったりにくっついた出水の大きな身体。それが何を意味するか、いい加減学習してしまっていた私は、渋々そのまま立ち尽くす。
「よぉ緑川、お仲間はどこいった?」
「さぁ、わかんないな」
「後輩おいて逃げたのか?ひでぇ先輩だな」
「はは、安心してよ逃げたわけじゃないから。それにしてもその分出水先輩は流石だね、ちゃんと守っててさ」
住宅の屋根に乗ってスコーピオン両手にこちらを見据えている緑川は、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を纏っていた。獲物を静かに狙うかのような佇まいに、密かに息を呑む。出水に背中を預けるのは些か心配ではあるが、こうなってしまった以上やむを得ないので、大人しく後ろは任せて辺りを見渡し米屋の姿を探す。
「バカ、そんなんじゃねぇよ」
「そうよ。まあ……いざとなれば無理やりにでも盾にして守らせるけどね」
「お前ほんと……」
「あはは!南先輩ほんと最高」
背中を隙間ないほどにくっつけてくる出水。“お前はそっちを見てろ”そんな意味を持っているということは、とうの昔に学習済みであった。戦闘中にも関わらず高笑いしている緑川の言った通り、かばわれているような状態にあまりいい気がしなかった。最も、本人はそんなつもり、毛頭ないだろうが。
「南。そんなにベイルアウトしてぇのなら俺がやってやっから、それまで待ってろよ」
「そっちこそ、勝手にくたばってくれないでよ」
「あったりめぇーだ」
「今まで隠れていた分、盾になってもらうから」
「おう」
いつもとは違う、少し素直な返答が気に入らなかった。唇を尖らせている私の顔を、きっと背後の奴は気づいていないのだろう。それと同様に、奴がどんな顔でいるかなんて、私にも知る由はないのだけど。
*
「あぁ〜もう!くっそー!!負けた負けた」
「もぉー、なにしてんのさ。よねやん先輩」
なんだろう。勝利したにも関わらず、こんなにも複雑な心境に陥ったこと、今まであっただろうか。もやもやと曇りきった感情を胸に抱きつつ、長らく片腕がなかったために、ようやく戻ってきた腕を確認するように腕を摩る。
「なんだ、寒いか?」
「全然」
「あっそ」
和気あいあいと話している米屋と緑川をぼうっと眺めていたら、不意に背後から声をかけられた。無事勝利して飲み物を買いに行っていた出水。彼と私は相変わらずこの様だというのに、先程の頬のふくらみはどこへやら。今やニコニコ笑いあっている敗北した仲良し2人組の姿をじっとみつめていた。
そのせいで気が付かなかったのだ。「ほらよ」とぶっきらぼうに頬に当てられた冷たいものに。
「っひゃあ!?」
「わぁ?!……ビックリした、南先輩どうしたの?」
不意に触れた汗をかいているペットボトルの冷たい側面に、柄でもない声が出てしまう。うっかりこぼしてしまった素っ頓狂な声のせいで、傍にいた緑川達まで驚いたようにこちらを振り返ってしまう。羞恥心に、かあっと頬が熱くなっていく。
「変な声出すなよ、女子じゃあるまいし」
「は?女子なんですけど」
「そんなことより、ほら。はよ受け取れ」
「そんなことだぁ?」
受け取らせようとしているのか、キャップ部分を掴んで目の前にふらふらとちらつかせてくる。視界を遮られるのが鬱陶しくて、渋々それを受け取った。目を合わせようと、視線を向けてみるが、出水は何事もなかったように炭酸飲料を煽っていた。
「えぇー。いずみん先輩、俺達のはー?」
「そうだー!ずりぃぞ」
「馬鹿言え。負けたチームがなんかおごるって約束だっただろ。なんで俺が飲み物買ってやんなくちゃいけないんだよ」
「え?そんなの聞いてないんですけど?」
お礼の言葉、やっぱり言わないでおこうと、この時心に決めた。
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