不仲なお揃い
はめられた、そう気づいた時には手遅れで。にこにこと並んでいる緑川と米屋をギロリと睨んでやるが、一向に目が合う気配はなかった。全くそんなの気にしてないとでもいうように「頑張ろうねよねやん先輩」だとか「勝とうぜ」だとか和気あいあいとした様子で会話している。解せぬ。
「ちょっと出水」
「なんだよ」
「あんたなんでパーだしたわけ?」
「は?知らねーよ」
ハイタッチなんかしている仲良し組とは対照的に、私と出水の間はかなり離れていた。横目に出水の顔を見上げれば、つり目がこちらを睨むように見下ろしてくる。そのせいで余計に募る苛立ちを吐き出そうと深い嘆息をついた。
「まじで使えない」
「あ!?お前だってパー出しただろ!」
「なんで常に米屋にべたぁっとくっついてる癖にこういう時だけ息合わないの?一緒にグーだしなよ」
「くっついてねぇし、そもそも息とか関係ないし」
「ほんとバカ」
「んだとこら」
再度深く息を吐く。後悔の念がじわじわと込み上げてくるがここまで来てしまった以上、もう手遅れであることは承知していた。廊下で緑川と会った時、「南さん、遊ぼうよ」その誘いに対して、丁度暇していた私は「いいよ」と、ちゃんと話も聞かずに二言返事で返してしまった。これが事の発端だった。
「大体、お前なんで来たんだよ」
「だって出水いるなんて知らなかったから」
「緑川あいつ……」
知っていたならば間髪入れずに、ごめん今忙しい。と嘘を吐き捨てて、くるりと華麗なターンで太刀川さんのいびきが響く作戦室へ逃げ帰っていただろう。やったあ、と万歳している緑川に付いていく先。「お、緑川捕まえて来たか」と笑う米屋と、その横で、ぎょっとした表情の出水がいる、なんて想像もしていなかった。なんとなく状況を察した私は、そこで「まじか」と苦い声を零したのだった。
「大体、こんなメスゴリラじゃなくても、もっといいヤツいただろ」
「あ?んだと雑魚狐」
「あーあぁ。こんなことなら俺が探しに行っておけばよかったわー」
「聞けおい」
どうやら2対2で試合をしたかったらしく、メンバーを探すべく放浪していたらしい緑川。恐らく出水がいることを言わなかったのは彼が確信犯だったからだろう。まんまと乗せられ付いて来てしまったわけだが、まだチャンスがないわけじゃなかった。あそこでグーかパーのチーム分けで、出水以外と共のチーム、つまり三分の一を当てなければいいわけである。そうすれば、憎しき出水をフルボッコにできる、ストレス発散にもってこいの展開になれたのだ。しかし、残念なことにもう結果は出てしまっている。
「いっそもう3対1にしない?私1人でもいいけど」
「おぉ、いい度胸じゃねぇか。ぼこぼこにしてやる」
「ぼこぼこにされるの間違いでしょ」
「ほら行くぞ2人とも」
「そーだよ。そんな喧嘩しなくても、俺がちゃんと2人のこと倒してあげる」
出水と睨み合っている間に足を進めていたのであろう2人は、いつの間にかブースの入口前に立っていた。どや、と効果音が付きそうな程、挑発的な笑みを浮かべた緑川。その後ろで、つんつんと指先で米屋が隣のブースを指して早く入れと合図をしている。
「言ってくれんじゃん、緑川」
「へぇ……その台詞、覚えておいてよね」
「よし南、絶対あのチビ負かすぞ」
「わかってらぁ」
トリガーを起動して、入隊当初、絶対嫌だと散々駄々をこねて拒絶していた隊服へと換装する。相変わらずナンセンスな隊服である。今ではもう慣れてしまったが、未だにダサいと思う気持ちは変わらない。「入って5分間は作戦会議だからな」米屋が叫ぶ声にひらりと手を上げて、自分のブースへと足を踏み入れる。
「足引っ張ったら承知しないから」
「あ?こっちの台詞だわ」
「いざとなったら、あいつらごとハチの巣にしてやるから」
「お前こそ今の台詞、自分で自分の首絞めることになんねぇよう気をつけるんだな」
入る直前、いやらしく笑った出水と目が合った。嫌なものを見てしまった。1人だけのブースの中で、大きく舌打ちをした。
「……よねやん先輩」
「なんだ」
「あの2人ってちょろいよね」
そんな会話がなされているなんて知らないで。
*
「で、どうするよ」
室内に低音の声が響く。間違いない出水の声だ。室内に取り付けてあるモニターをいじりながら、どうしようか作戦を考える。
「うーん、緑川はすばしっこいし、米屋もリーチ長いし……。できるだけ間合いとって戦いたいかなぁ」
「ポジションの相性的にも、そっちの方が有利だな」
アタッカー対シューター。近距離と中距離。距離が離れていた方がこちらにとって有利なのは、手に取るようにわかった。しかし、そんなこと向こうだって重々承知しているはずだ。どうにかして距離を詰めて来るだろう。
「別れて戦うか?」
「緑川の機動力やばいからなぁ、隙つかれて2対1されたときが怖いよね」
「そんななるか?」
「グラスホッパー怖い」
以前の模擬戦で、緑川にグラスホッパーでピョンピョンと囲まれるピンボールを食らった時には、正直リバースするかと思った。あれは目が回って敵わない。私の覇気のない台詞に何かを察したのか、ため息交じりに「はいはい」と返事が返ってくる。
「じゃあ連携して戦うんでいいんだな」
「不快だけどそれで」
「おまっ……助けてやんねぇぞ?」
向こうからしたら、シューター2人が連結して弾をビュンビュン飛ばしてくるのは嫌なはず。だから、バラバラで攻めてきた方が都合がいいはず。おまけに隊を同じくして、トリオンも多く球数の多い私と出水だ。揃わせないようにするのが妥当だと思う。向こうが一緒に来るのか、ばらけてくるのかはわからないが、不意打ちしてくる可能性は十分にある。
「とりあえず、いつも通り私前衛で良い?」
「おうよ。後ろは任せとけ」
「じゃあ決まり」
「おう」
「先に出て暴れておくから、出水は隠れながら合流して」
モニターを操作して、4人で対戦が何時でも始められるように準備する。申請が来ていたステージ内容を確認すれば、案の定、転送位置はバラバラな設定だった。機動の高い向こうが有利な気もするが、こちらは同じ隊なので、ハンデということで見逃してやろう。最も、好きで同じ隊のこいつとチームになったわけではないのだが。時計を見れば5分会議の時間も残りわずかであった。立てた作戦は、作戦と呼ぶには少々緩いものだが、太刀川隊は隊長があんなかんじなので、いつも割とこんな感じである。こんなのでも作戦と呼べるチームなのだ。
「あっ、なぁ南」
俺、いいこと思い付いた。部屋に響いた出水のその声。部屋の向こうにいる彼はきっと意地悪い顔をしている。簡単に分かってしまった自分に、嫌気がさした。
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