事の始まりは西暦2205年。歴史の改変を目論む“歴史修正主義者”によって過去への攻撃が始まり、対峙する時の政府は時間遡行軍を追伐するために“審神者”なる者達を派遣し、すべての歴史の守りとしたのだった――
歴史修正主義者を名乗る時間犯罪者たちは、過去へ時間を遡り、正しい歴史の修正を標榜し“時間遡行軍”を編成。未来から歴史を改変するべく無限に兵力を輸送し、過去に送り出していた。号して八億以上の圧倒的な軍勢、それはこれまで八島が産んだ人よりも多い軍勢である。
圧倒的な戦力差、勝敗は火を見るよりも明らかであったが、時の政府には一つ勝算があった。
それこそが、審神者なる者の“物の心を励起する技”である。眠っている“物”の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与える者たちの力。唯一の勝利への希望である、審神者となる者達を、政府は血眼になりながら探し求めた。
審神者となるためには3つの力が必要であった。
ひとつは物の心を目覚めさせる“霊力”
ふたつに物を制御、支配するための“神力”
みっつに邪気に対抗する“鬼力”
この全ての力が一定の基準値を満たす者でないと審神者にはなれなかった。誰もが内に秘めているこれらの力。されど、この3つの力全てが基準値を上回ることは、極めて難しい事であった。条件が揃っている審神者適合者を見つけることは、なかなか容易なことではなかったのだ。
ある時、時の政府は逸材を発見した。人並み以上に……否、今までに見たこともない程の莫大な“神力”を持つ少女だ。これだけの力があれば、術式においても、この娘に敵うものはいなくなるだろう。しかし、彼女は審神者となるには致命的な欠点があった。審神者として最も重要な、物を目覚めさせる力の“霊力”がほとんどないのだ。基準値を明らかに下回る霊力に深い嘆息をつく政府。大変惜しいが、これは使い物にはならない。誰もがそう思った。
しかし、どういうわけなのか、時を同じくして似たような少年が2人現れた。莫大な霊力を持つが鬼力がない、莫大な鬼力があるが神力がない少年たち。このような偶然が果たして起こり得るのだろうか、もしかしなくとも、これは天からのお告げなのかもしれない。政府は考えた、この3人を一つの本丸の審神者にしてみてはどうだろうかと。それぞれが足りない力を補いつつ、誰よりも莫大な力を発揮した時、彼らはきっと……
*
「は……?」
山姥切国広は困惑していた。ぱちぱちと瞬きをしてみても、目の前の光景は変わらない。自身は初期刀になる刀、次に目を覚ますときは、めでたくも自分が初期刀として選ばれ、顕現された時だということを彼は知っていた。しかし、目の前にいるのは審神者であろう娘と、刀を腰にした長い黒髪の青年。刀剣男士同士だからか、彼の正体がそれだということは、その出で立ちと雰囲気からなんとなく察することができた。ここで山姥切の中に疑問が生まれる。何故初期刀であるはずの自分より先に、刀剣男士がいるのだろうか、と。
「山姥切国広、よろしくね」
しかし、目の前の審神者は、こちらが顕現時口にするはずだった自己紹介の言葉すら忘れるほどに動揺しているにも拘わらずに、にこにこと屈託のない笑顔を浮かべている。今の摩訶不思議な現状が、さも当然といったように平然とした様子で、その白くか細い手を、こちらに差し出してくるのだ。
「あ、あぁよろしく……」
なんとなく直感した。おそらく自分は一風変わった審神者に選ばれてしまったのだと。
「鯰尾藤四郎です、“また”よろしくお願いしますね」
審神者の隣にいる長い髪を束ねた刀剣男士が、そう言ってこちらに手を伸ばしてくる。この刀剣男士、鯰尾藤四郎は相当な練度であると、対面した瞬間本能的に察してしまう。どこか自分とは違う、威圧感のような強者独特の何かを感じ取ったのだ。しかし、交わった手のひらの温もりからは、自分を迎えようとする優しさしか感じ取れない。矛盾ばかりでそろそろめまいがしそうだ。山姥切国広は現実逃避するように、自身の薄汚れてしまった布を目深に被る。
ちゅんちゅん、晴れ渡る雲一つない青空の下、どこかから他人事のように鳴く雀の鳴き声が聞こえた気がした。
――これは、出来損ないだったはずが、誰もが思いもよらない奇跡から審神者として生きることになった少女と。そんな彼女を支えたい刀剣男士たちが奮闘するとある本丸の物語である。