陸.黒刀剣の到来

一振目、歌仙兼定。
初期刀として顕現された。身体的・精神的暴力有。夜伽命じ不明。手入れ放棄有。政府機関により保護。審神者によ強力なる術式での強圧があったとみられている。捜査時、歌仙以外の刀は確認できず。当本丸の審神者は逃走中現在も行方不明。

二振目、小夜左文字。
初期段階に鍛刀された。身体的・精神的暴力有。夜伽命じ無。手入れ放棄有。政府機関により保護。重症状態での度重なる出陣。その中でも特に出陣が多かった刀とみられている。審神者の身柄確保済。

三振目、三日月宗近。
後期に鍛刀された。身体的・精神的暴力無。夜伽命じ有。手入れ放棄無。政府機関により保護。本丸では身体的暴力等があったとみられているが、当刀は入手困難な刀のため、重宝されていた模様。出陣や手入れ放棄はなかったが、強制的に夜伽を命じられていたとみられている。審神者の身柄確保済。

四振目、鳴狐。
初期段階に鍛刀された。身体的・精神的暴力有。夜伽命じ無。手入れ放棄有。政府機関により保護。度重なる身体的・精神的暴力の苦痛により、お供のキツネ共々喋ることが困難になってしまった模様。審神者の身柄確保済。

以上、刀剣四振を、〇月〇日辰の刻をもって、審神者空〇〇本丸預かりとする。

……唖然。

「何がちょっとだ、くそオヤジ」

送られてきた書面を、パンッと勢いよく机の上に叩きつける。脳裏をよぎるのは数刻前のおっさんの台詞。

“少々、問題のある刀でな”
“……まぁ、暫くしたら現状報告寄越せよ”

押し寄せてきた刀剣達をなだめた後、おっさんの言葉通りに、部屋の書机に重なってある書類の中から、近侍の鯰尾と共に例の書面を見てみたわけだが。さて。一体どこが “ちょっと” 問題のある刀なんだろうか。

「中々のブラック本丸ですねぇ」

頭を抱える私の横で、呑気な鯰尾の声がする。

「私、まだ審神者初めて一か月も経っていないんだよ……。一度に、しかも四振って……」

なんでこんな重い役。愕然として頭を抱える。

「んなこといったって空は、審神者歴だけで言ったら歳の割には長い――」
「そうだけど……!!」
「小夜は、既にいる本丸も多いだろうし、出来立ての本丸に白羽の矢が立つのも無理はないと思いますけどね」
「まぁ、そうよね……」

小夜左文字、短刀であるあの子は、顕現するために必要とする霊力が少ない。資源も多く必要としないため、比較的簡単に顕現することが出来る。そのため初期から彼のいる本丸は数多い。それがために、ブラック本丸と言われるところではぞんざいに扱われてしまうケースが極めて多いのだ。それは短刀に限らず脇差しや打刀にも該当する。さらに言えば、入手が容易であるために、既にいる本丸が多く、運良く破壊される前に保護できたとしても、引き取り先が見つかりにくい。まさに負の連鎖である。

「まぁ、顕現する霊力もいらないし、それで刀剣男士増えるならいいじゃないですか」
「……」
「空……」

何も、応えることができなかった。本来であれば経験しなくてもいいような……いや、するべきじゃない辛い思いをしてしまった彼らを迎え入れることが嫌なわけではない。寧ろ、今まで苦しんできた彼らを助けてげたい、守ってあげたい。その思いは紛れもない本心である。しかし、一方で私にそんな大それたことができるのであろうかという不安。ましてや、彼らを傷つけてしまった審神者と“同じ力”を持つ私に、そんな権利があるのかという疑問が、胸の中でぐるぐると、渦を巻いては私の胸を容赦なく締めつけていく。

「……自信、ないや……」

上手く笑うことができなかった。伏せた目の先で、鯰尾が静かに近寄ってきたのが分かった。何も言わない鯰尾は、きっと私の迷いも不安も見透かしているのだろう。

「大丈夫ですって。俺達がついているんだし。それに、空は俺が守ってあげますから」
「……ふふ、なにそれ」

鯰尾らしくない、真剣な言葉に思わず小さく笑う。穏やかな笑みを浮かべている鯰尾を、柄にもなく少しカッコいいと思ってしまった。

「そうそう、空はそう言って笑ってないと。こっちが調子狂うじゃないですか」
「なにその、人がいつも笑ってるみたいな言い方」
「何があっても、俺は空の味方ですから。だいじょうぶ。空は呑気に笑ってるだけで良いんですよ」
「また、そう言って馬鹿にする」

頬を膨らます。その裏で胸が温かくなっていることを隠しながら。いつの間にか、先程まで胸中に渦巻いていた負の感情も、何時しか霞んでいた。あははと呑気に笑いながら鯰尾が、暗い夜の景色が広がる縁側へ続く扉を開いた。

「そうと決まればさっそく皆に話しに行きましょう。朝よりは心の準備ができるはずですから」
「わかった」

穏やかな気持ちで頷く。こうさせてくれたのは、紛れもない、今目の前で私に微笑みながらついておいでと待ってくれている鯰尾だ。

「鯰尾」
「ん?どうしました?」
「……ありがとう」

お礼を言うことがなんだか照れくさくって、少し目をそらしてしまうのはどうしてなのか。多分それは、私がこの刀と共に過ごしてきた時間の長さや、親しさの証なんだろうと、そう悟る。ちらりと見た鯰尾は、僅かに驚く素振りを見せてから、中性的な顔を幸せそうに破顔させた。その背中に、突如舞った桃色の花びらに、思わず笑いそうになってしまったのは内緒だ。
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