モテ男にインタビュー


「名前殿!!」
「どうした忍、そんな怖い顔して」
「未成年の喫煙・飲酒はだめでござるよ」
「おい誰だ、忍にデマ流した奴」

“なまはげ”だとか“ババア”なんかはまだいいが、ありもしない事実をでっち上げられるのは不本意だ。勿論ババアやなまはげも至極不本意であるが。とにかく信用に関わることはやめてほしいのだ。

突然朝の教室に飛び込んで来るや否や、顔を真っ青にして私の肩を掴んだ忍。よくもまあ1人で3年生の教室に来れたもんだと、感心していたのもつかの間。必死そうに詰め寄ってくる忍を抑えていると、横からくすくすと誰かが笑いを零すのが聞こえた。

「なに、あんたタバコとかしてたわけぇ?」
「げぇ、瀬名お前いたの」
「なにその反応、チョーうざい」
「いや、悪かった。よりによって一番面倒なのがいるもんだからつい」
「それ謝る気あんの?」

横でふるふると怯えた子犬の如く震えている忍をなだめるために背中をポンポン叩きながら、空いている片手を使ってカバンを漁る。机に腰かけたまま帝王の様にこちらを腰に手を当てながら睨んでくる瀬名は気にしない。触らぬ瀬名に祟りなしだ。

「まぁまぁ忍、これでもお食べ」
「これは、なんでござるか」
「忍者の非常食」

魔法の飴だ。……なんて本当のことを言ってしまえば、ただののど飴なのだが。引っ張った手の平に袋を開けて中身の球体を転がしてみれば、忍はそれをまじまじと見つめてからぱくりと口に放り込む。

「これは……な、スカスカするでござる!」
「でしょう」
「うはっ、舌がすぅっとするでござるよぉ!!」
「そうそう、面白いでしょ」

はふはふと熱いものを食べているかのように息をしてみたり、難しい顔をして口を手のひらで押さえてみたりと、彼の反応も中々面白い。前に翠に棒付き飴を与えた時のことを思い出す。今の1年生は飴を与えると面白い反応をしてくれるようだ。

「名前殿これはなんでござるか!?」
「ははは、なんだろうね〜」
「名前殿〜……」

そうして切なそうな瞳で見つめてくる忍は中々あざとく可愛い。頬杖に足組みと見事なお嬢様ポーズでこちらをつまらなさそうに見つめている瀬名は可愛くない。彼の趣味は「後輩いびり」と中々趣味の悪いものあるが、確かに忍にこんな表情をされては後輩をいじめてみるのもそう悪くない、なんて邪な考えが脳裏を過ぎった。

「で、その後輩はなにしにきたわけ?」

ここは1年が気軽に遊びに来て良い場所じゃないんだけど。瀬名の放った低い音の一言、目の前の忍の肩がビクリと跳ねた。怯えた瞳が恐る恐ると振り返り、睨みつけるような鋭い瞳の瀬名へと向けられる。

「えぇあっ、その……っ」
「ああ、いいよこいつの言葉は気にすんな」

すっかり委縮してしまったのか瀬名から目を離せない忍のフードを捕まえて、自分が座っていた椅子に座らせる。椅子の上で丸まった姿は、恐怖に縮まる小動物そのもので、せっかく飴を使って落ち着かせたところなのにと頭を抱える。

「ちょっと瀬名。お前もっと優し言い方出来ないの?」
「だって本当のことでしょ?」
「難儀な性格してんな。後輩なんだしもっと可愛がりなよ」
「俺が可愛がるのはゆうくんだけだから」

そういえばそうだった。コイツゆうくんにしか興味ないんだった。憐れむような視線を、口角を下げているムスッとした瀬名に送れば「なに」と不機嫌そうな声が返ってきた。そのゆう君に向けている愛情をもう少し他に回せないものか。そうすればゆう君も他の子も万々歳なのに。相手によって分配されるツンとデレの比率の偏り方がえげつない。此奴の愛は本当になあ………。

「歪んだ愛め」
「なんか言った?」
「いえなにも」

物凄い圧と共に振り返る瀬名の視線を巧みに交わし忍に向き直る。

「嘘、絶対なんか言ったでしょ」
「ところで、忍。何しに来たの?千秋か?」
「ちょっと名字」
「いいよ忍、煩い狂愛病患者は無視して」
「さっきよりもひどくなってるよねぇ?」

そうは言ってもやはり気になってしまうのか、私の後方の瀬名に心配そうな視線を頻りに送りながらも、忍がおずおずと「実は……」と口を開く。その言葉に私も瀬名も衝撃のあまり停止することになるのだが、そんな石化していられる暇もないようで

“モテる男とやらにアドバイスを聞きたいのでござる”

「まぁ、場違いだよな」
「ほんと、それ」
「どうした皆で集まって。お、仙石!良く来れたな!」

丁度近くのドアからうんざりとした顔の羽風と、そんな彼に迫る我らが隊長が現れた。後輩を見つけるやいなや、全力疾走ポーズで此方に駆けてくる隊長。よくもまああんな元気があるものだ。解放された安堵からかふぅっと息を漏らした羽風にお疲れと声をかければ、いつものチャラい笑顔を向けられた。

「それで、こうして先輩の教室に出向いたわけでして……!」
「といってもな……」

どいつもこいつもここは曲者だらけだし、強いて言うなら羽風が一番モテるのだろうが、それは女たらし故であって。あんな不埒な輩のアドバイスを、無垢な忍に聞かせていいものなのだろうか……いや

「いいはずがない」
「それなら羽風が一番適役なんじゃないか?」
「千秋この野郎」

なんでこいつはよりによってこんな時のみ話を聞いているんだろうか。

「おーい羽風!!」
「ちょっ、待て千秋」
「ん、どうした?」
「いいのか?アドバイザーが羽風で?」

手を大きく掲げて離れていく羽風を呼ぼうとする千秋に心臓が飛び跳ねる。慌てて千秋の堅の良い肩を掴んで、力目一杯にこちらを向かせる。真剣な面持ちで問いかけているであろう私とは対照的に、目前の千秋はきょとんとしている。

「ん?適役じゃないのか?」
「歩く18禁羽風だぞ?」
「そこがモテるんじゃないか」
「うちの忍に色気はまだいりません!」

すると千秋もはだんだんと難しい顔つきになっていき、目を右往左往させて考え込んでいる。どうやらこいつにも考えがあるようだがこれは譲れない。プロデューサーとしても先輩としても、まだ忍には純粋なままでいてほしいのだ。

「仙石もそろそろ新たな一面を持ってもいいんじゃないか」
「なんだ、君は流星隊をお色気チームにでもしたいんですか」

ただでさえ、最近肌色が増えて来てひやひやしているというのに。

「いらないから!プリキ○アみたいなセクシー衣装チェンジとか絶対許さないからね?」
「な!!なんで俺がこっそり計画していたショーのサプライズ内容を知っているんだ?!」
「はあ!?する気だったの!?」
「だがこればかりは譲らないぞ!!仙石も楽しみにしてるんだ!!」
「んだとやるか」

気合を入れるように、両の腕の袖をググっと上に上げた。





わちゃわちゃと騒ぐ自身のユニットの先輩2名、言い争っているその2人の熱は忍が困惑している間にも段々とヒートアップしていき、今やもはや止めに入る隙すらなくなってしまっていた。名前に座らされた状態のまま、どうしていいかわからず呆然とその姿にを見つめていた。

「大変だね、あんたも」

自分はどうすればいいのだろうか。しかしここで何も言わずに帰ってはいけない、それだけは何となくわかっていた。視線を送るがこちらを見向きもせずににらみ合う先輩達を、暫く様子を見守ってみようななんて考えていた矢先、ふと隣から笑い交じりの声が聞こえた。

「っへ……」
「いきなり夫婦漫才初めてさ、しかも論点180度変わってるじゃん」
「……あ、そぅ……で…ござるな」

隣のきつそうな先輩がどこか面白そうにに視線を送る先。今にも掴みかかりそうな、いや、もうすでに掴みかかっている名前と、その手を抑えながらも必死に抗議している隊長。そういえばこの2人がこうしているのを見るのは久しぶりな気がする。弐か月前程、高峯殿にグラビアの仕事が来た以来だろうか。いつもこうなった2名を止めに入れるのは秘儀手刀を持つ奏汰のみ、しかしここの教室に彼はいない。2人の喧嘩を止める者はここには誰もいないのだ。

「羽風のとこ、俺が連れてってあげようか」
「へぁ!?」
「モテる男のアドバイス欲しいんでしょ」

別に親切心とかじゃないから。このままあそこで夫婦喧嘩続けてたらあんたも俺も迷惑でしょ。解決しないとずっとこの繰り返しだし。椅子から立ち上がった泉が威圧感をそのままに歩み寄ってくる。その申し出はありがたいのだが、先程怒られた恐怖心が忍の中で蘇り上手く口を動かせない。

「どうすんの」
「あ、その…拙者……」

喉が塞がったように声が出ない。こういう時、忍は自身の気弱な性格と人見知りがひどく憎たらしく思えるのだった。品定めするかのような瀬名の鋭い視線が真っすぐと向けられいて、どうしていいかわからず思わず俯いてしまう。その時

「おい瀬名なにしてんの?」
「仙石大丈夫か!?」
「うちの子いじめないでくれる?」
「はぁ!?」

途端背中に感じる暖かい手のひらのぬくもり。顔をのぞき込むようにして心配の声をかけてくれる隊長、先程まで話しかけてくれていた泉との間には、自分よりも細く小さい背中が壁となるようにして立ちはだかっていた。

「はぁ、じゃないよ。忍が怯えてるだろ」
「それはそいつが……」
「忍がなんだって?この子のせいにする気?」

真横で繰り広げられる討論に目が点になる。「まじでモンペなんだけど!?」そうして叫んでいる泉にああ、申し訳ないことをしてしまったと、今は心の中でしか謝ることができない忍。これではまるで

「仙石、どうした?どこか痛いのか?」
「隊長殿……」
「どうした」
「その……それが」

「忍を怖がらせないでくれる?」
「だから……!」

冤罪でござる
冤罪なんだけど!!

その声が綺麗に重なるのは3秒後のことだった。