PROLOGUE


今日も天気は晴天だ。玄関の扉を僅かに開けて外を覗き見ると、そこには綺麗な青空が広がっていた。隙間から流れ込んでくるひんやりとした風がとても心地良い。

「忍ー、そろそろ出るよー」

木製の階段を見上げ、上でドタバタ騒がしい音を立てている弟に声をかける。「待ってほしいでござる」と焦った声が返ってくるので、ため息を零しながら廊下の壁に寄り掛かり、スマホを取り出そうとかばんに手を突っ込んだ。

そこで左手に付けていたブレスレットが、かちゃりと音を立てる。内ポケットからスマホを取り出すとそこでブレスレットも露わになり、きらりと朝の陽ざしを反射してきらめいた。

あの寸劇から時はあっという間に過ぎ、早くも1か月が経過しようとしていた。初めは家に大事に保管していたのだが、ある日瀬名先輩から「付けてこないの?」と威圧的な問いを受けてから、なるべく付けていくようにしていた。あんな先輩ではあるが仮にも異性からの贈り物なので、身に着けているだけで少し緊張してしまう。しかも時折この光を帯びた水色の球が、瀬名先輩の瞳に見えるので心臓に悪い。

あの時もらった凛月のクマのぬいぐるみは部屋にあるし、司くんからのネックレスは御曹司つかさ様からのプレゼントと言うこともあって、汚さないように大切に保管してある。

そういえば……





「嵐ちゃん……これは?」

「ふふふ〜驚いたかしら?遊園地のチケットよ!近いうちに皆で行きましょう」





あのチケットもうそろそろ期限が……雷に打たれたように即座に履いていたローファーを脱ぎ捨てて階段を駆け上がる。「お待たせしたでござる」と降りてきていた弟をギリギリ避け、彼のうおっと驚く声も気にせず、フローリングの上を音を立てながら自室に勢いよくつっこむ。

「お、お姉ちゃん!!?どうしたでござるか!?」
「ごめん、先行ってて!!」
「探し物でござるか!?拙者も手伝うでござるよ!!」

待っていてくれた姉を置いてくなんて出来ないでござる。そう言って白い歯を見せ眩しい笑顔で隣に立つ弟。そういえば最近笑顔が明るくなってきたな。前はこう、女性的な隠すような笑い方が多かったのだが。隊長殿、守沢千秋のおかげだろうか。探し物をする手を止めて整った弟の顔を凝視する。

「ん、どうしたでござるか?」
「……いや、忍もかっこよくなったなって思って」
「んなっ、ななな突然なにを言うでござるか!!」

美形だらけの学校に生活していて目が肥えてきている所為で危うく忘れかけていたが、透き通るような白い肌に、つり気味の大きな瞳、少し紫がかった黒髪、我が弟ながら忍はとても美人である。自分と同じ血が流れているなんて、にわかには信じがたい。

「うん、やっぱりイケメンだ」
「ひっ、そそそんな見ないでほしいでござる!!」

……とは言っても。やはりこう耳を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにカエルの如く退いた彼の姿は可愛いらしくて。顔つきや身長なんかは大人になりつつあるが、内面はまだやはりピュアなままで、まだ手のかかる弟のままである。くすりと笑いながら、机の引き出しを開ける。そこには想像通り数枚のカラフルなチケットがあり、すぐさま右下の有効期限を確認する。

「間に合った……」

まだ、期限は切れていないようだ。ほっと安堵の声を漏らす。好奇心を込めた目の忍がひょこっと引き出しの中をのぞき込んだ。その控えめに机の端に置かれた指先は綺麗で、やはり彼と私は血が繋がっていないんじゃないかって思ってしまう。……でも

「忍も私も小さいからな」
「お姉ちゃん、それは禁句でござる」
「うん、やっぱり忍は私の弟だ」
「急に何を言い出すでござるか。拙者の姉君は例え天地がひっくり返ろうとも名前お姉ちゃんだけでござるよ」

ぷくっと童のように頬を膨らまして怒った顔をする忍は、次の瞬間唖然とする私を笑わせようとしているのか、にかっと目を細めて笑ってみせた。その表情、やはり隊長殿と笑い方が似てきているようだ。あまりの可愛いさに思わず抱きしめたものの、忍もやはり男の子。私の腕はギリギリ彼の背中を包むのに、弟の手は簡単に私の背中に回ってしまう。

「まぁ……」
「どうした」
「お姉ちゃんが、このまま勢い余ってお兄ちゃんになってしまわなければ、でござるが」
「貴様よろしい。お姉ちゃんが年上への態度を教えてあげよう」

どうやら大きくなってしまったのは、身体だけではなかったようだ。いたずらにきゃあーと言って部屋を飛び出した弟を衝動的に追いかけようとするが、何とか踏みとどまって遊園地のチケット9枚をカバンに入れて駆け出す。弟はすでに家を出たようで、窓の向こうから早く早くと忍が目を輝かせて2階の私を見上げていた。

「忍ー!!!」
「なんでござるかー!!」
「28って何曜日だっけ!?」
「次の月曜日でござるな!!」

チケットの期限はギリギリなようだ、危なかった。今日気が付いてよかったと安堵の息が再び零れる。とりあえず行くとしたら土日かな。しかし手元にあるのは9枚とKnightsメンバーだけでは多い枚数。日程を含めてとりあえず今日、皆に相談しようかな。

「そうか、ありがとう!!」
「いーえでござる!!」
「でもね、忍。ごめん!歩いて学校行こう!!」
「了解したでござる!!突然の首絞めは無しでござるよ!!」
「了解でゴザル」





「一生のお願いです、一緒に遊園地に行ってください」

頭を深く下げる。頭を下げた先で困惑しているのはTrickstarの4人。とりあえずどうした?と焦ったように近寄ってくる真緒。目を丸くしているホッケと真くん。楽しそうと喜んでいるスバル。反応は様々だった。

「本当にごめんなさい」

これは決して楽しいお誘いではないのです。

誰かの息を飲み込む音が聞こえる。あの名前が真剣に頭を下げてる?そんな真緒の言葉は聞こえなかったことにしておこう。はしゃいでいるスバルに最早聞く耳はないようだ。実は……と私が目を伏せながら話し始めるのを神妙な面持ちで三人は見ていた。

(ふふ、これでゆうくんと一緒に……)

そんな声が聞こえた気がして寒気がしたのは、恐らく気のせいじゃないはず。私のために嵐ちゃんが贈ってくれたチケットは、「瀬名泉のゆうくんのラブラブ大作戦計画」が幕を開ける切っ掛けとなってしまったのだった。


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