忍くん家にお邪魔します


本日は久々の待ちに待った休日。今日こそは家でゴロゴロして休日という休みを満喫しようと思っていたのだが。いざ休みを迎えてみると驚くほど何もすることが無くて、妙に落ち着かない。簡単に言ってしまえば。

「暇だ……」

ソファに身を沈めながら考える。そもそも休日って何をする日だ。それすらも忘れているような気がする。いや、家でゴロゴロと言えば以前の私なら難なく過ごしていたはず…あいつらのせいか。

「すごく暇だ」

考えてみれば、ここ最近探したりツッコんだり止めたり連行したり…腰を下ろす間もなく延々と働き続けていたような気がする。忙しいのに、仕事をしているのに身体が慣れてしまっているのだ。これはまずい、このままでは休日を謳歌できない。

「本当に大丈夫かな…」

これからの自分が思いやられて、深い嘆息を零す。取りあえずこのまま考えていても無駄に疲れてしまうだけだ。重い体を持ち上げてリビングを出る。たどり着いた階段の下、段の続く上を見上げて、大きな声をだすため、すぅっと深く息を吸いこむ。

「忍ー!!」

ドンガラガッシャン

そんな騒がしい物音が二階から聞こえてぎょっとする。あの子一体なにしてんだ。すると慌ただしい足音と共に返事が返ってくる。

「な、なんでござるか?!」
「あそぼー?」
「拙者只今取り込み中でござる!!」
「お願いー暇なんだー」
「むむ……今行くでござる!!」

その言葉に密かにガッツポーズを取る。なんだかんだ姉に弱い優しい弟である。そそくさとリビングへ戻りテレビの下から、ずっと放置してあったテレビゲームを引っ張り出す。丁度コンセントを差し込んだ時、パタパタと階段を下りてくる音がした。

「忍、ゲームしよう!!」
「良いでござるよ」
「あれ、どっか出かけるの?」

振り返って初めて、休日にしては身だしなみの整った姿に気が付く。今日は外へお出かけだろうか?

「にしし、まだ秘密でござる」
「なに、その勝ち誇った顔」

どやぁと腰に両手を当てて笑った弟に眉を寄せる。

「直にわかるでござるよ」
「そうか〜じゃあ早速やろうよ」

きっと隊長殿や鉄虎くんとかが迎えに来るのだろう。あまり気にしないことにして、ゲームの電源ボタンを押した。操作方法、覚えているかな?





「忍!!そっちのコイン取って!!」
「む、無理でござるファイヤーでござる!!」
「わけわからん、あぁああ火柱ぁああ!!」
「お、お姉ちゃんが死んだぁああ」
「後は……頼んだ兄弟」

ついでに言うと私は死んでいない。私がコントロールしていた髭のキャラクター残機が0となってしまった。あとは忍が操縦する緑の帽子に託すしかない。リモコンを置こうとした丁度その時、ピンポーンと軽快な響きのインターホンが鳴る。

「あ、来たんじゃない?」
「むむむ、コヤツ、出来るでござる」

どうやら忍はボスとの戦闘に夢中のようだ。前のめりになってテレビを睨む弟、その隣をそっと立ち上がり受話器を取りに向かう。

「もしもし」
「え!?……あ…あぅ、え」
「……どちら様ですか?」

受話器越しから聞こえる小さな嗚咽。思わず目を細める、あれ、これ危ない人来たのかも?この弱気な声、よく来る鉄虎くんや千秋先輩じゃない。

「あ、あの!!」

それにしても、なんか聞き覚えがあるような……

「此方に武士はいらっしゃいますか!?」
「うちは昭和と平成生まれしかおりません」
「あ、そうではないのですっ!!あの…」
「はぁ…」
「に、忍者の子はこちらでしょうか!?」
「うちの先祖は百姓です」

トコトコと戦闘を終えた忍が歩いてくる。きっと忍に用がある人だとは思うんだけど、どこの馬の骨とも知れない人に、うちの忍を渡すわけには……

「……もしかしてお姉さまですか」

おねえさま?

「……司くん?」
「おはようございます!お姉さま!」
「おぉお来たでござるか?!」

その瞬間勢いよくリビングから飛び出して玄関へと駆けていく忍の背中を、唖然として見つめる。え、司くんと出かけるの?どこへ?

「全く持って嫌な予感しかしない」

ガチャリと玄関の扉が開けば、その瞬間聞こえた「どうぞでござる」と「お邪魔致します」その言葉に背筋が凍る。同時に先程の騒音に合点がいった。掃除していたのか、家で遊ぶから。……家で、遊ぶから?

「秘密でござるじゃないよ」

こちとらまだ部屋着なんですけど。慌てて開きっぱなしの扉を閉める。言ってくれさえすれば着替えたのに!!忍の馬鹿!!そう思ったってもう手遅れだ。廊下を歩く2つの足音が近づいてくる。

どうやらゆったりとした休日を送るのに、今日は向いていないらしい。





忍が初めに自室に入ってくれて助かった。こっそり隣の自室に飛び込んで、急いで着替える。

「忍ー、何か飲み物持ってこようかー?」

こんな台詞言ったのは何時ぶりだろうか。基本人見知りとコミュ障を兼ね揃えた弟は、友達を作ることが苦手で、ましてや家に連れて来るなんてそんなの夢の又夢のような話だった。高校入って初めて招き入れた友人が司くんだった、というのも意外過ぎるというかアレな感じだが、そこはこの際どうでもいい。忍が家に友達を連れてきた、その事実が私にはとても嬉しかったのだ。

「お、お姉ちゃん……」

ところが中から聞こえたのは震える弟の声。

「忍?」
「ど、どどどどどどどど……」
「……入るよ?」

中で機械の壊れたような声を出す忍、不穏な気配を察知してゆっくりとドアノブをひねって中に押す。そこで目に飛び込んできたのは思いもしない光景で。顔面蒼白で手を震わせて私を見上げる弟と、にっこり微笑んだまま首を傾げる司くん。中央に置かれた子テーブルの上にあるのは……

「なんですこれ?」
「金の延べ棒ですね」

この間、他所のお宅にお邪魔する際には何か手土産があった方がいい、と鳴上先輩からadviceを頂きまして。お姉さま、ご受納頂ければ幸いに存じます。そうして背筋を伸ばして綺麗に御辞儀をした司くん。横の忍は今にも泣きそうな顔で口をパクパクさせている。なるほど、司くんも忍とは別の意味でコミュ障なようだ。

「大変恐縮ですが、お持ち帰り下さりますようお願い申し上げます」
「なんと!!お気に召しませんでしたか!?」
「重いんだよ、重量的にも価値的にも」
「重い……」
「そうそう、100円程度のお菓子とかでいいんだよ、ほら忍がビビってるでしょ」

私の身近にいる1年生はどうも世話が焼ける。

「取りあえず、2人とも下においで」

目に見えないと不安でしょうがない。手招きをすると、急にバネにでも取り付かれたかのように忍が飛びついてくる。申し訳なさそうにしている司くんの頭と同時に双方を撫でれば、急に明るくなる2人の表情。なんだろう、2人に尾っぽが見えたのは気のせいか。





「確かに下においでとは言ったけどさ」

2人で遊んでくれていいんだよ?なんで私を挟んで彼らは会話をしているのだろうか。これではゲームはおろか身動きすら取れない。

「早く髭のおっさん操作したいのですが」
「や、やっぱり友達と2人で話すのは緊張するでござる」
「なのでお姉さまが間にいれば完璧かと」
「ははぁ、さては君達、私を受話器かなんかと勘違いしてるな」

テレビで流れる軽快な音楽をそのままに、コントローラーを諦めて机に置く。

「わかったどうぞ会話を」
「それでは……」

落ち着いた面持ちで、今日は天気がいいですね的な典型的な挨拶から始めた司くん。そこでふと気が付いたのだが、外で買い物でもしてくれば良かったのではないか。・・・いや、御曹司と庶民の男子がショッピングでもしたら庶民側(忍)のガラスハートが衝撃のあまり粉砕する危険性が。

「あ、そうだ何か飲むでござるか?」
「あ、じゃあ私持ってくるよ」
「大丈夫でござる!!司くんも麦茶飲めるでござるか?」

はい、司くんの返答ににっこりと口角を上げて、後ろのキッチンの方へ駆けていく忍。いつもより機敏で浮かれた足取りが面白くて、私まで笑ってしまう。よほど司くんが遊びに来てくれたことが嬉しかったのだろうか。ところで今更なのだが

「忍って朱桜殿じゃなくて、まんま司くんって呼ぶよね」

うちの弟は、基本〜殿って呼ぶはずなのだけど。なぜ司くんは特別なのだろうか。

「愚問ですねお姉さま」
「そうなの?」

それだけ仲が良いということだろうか。

「将来お姉さまが朱桜家に嫁いだ場合、混乱するからに決まってます」
「恐らく有り得ないのでご心配なさらず」

絶対と言い切れないことに内心恐れを抱いてしまう。余裕そうに微笑んでいる司くん、彼が何を考えているのかわかりたくない。そう思いながら麦茶を取りに向かった忍が戻ってくるのを待っていた。


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