運命のくじ引き 「もう本当生意気なんだけど!!」 「生意気じゃなきゃこんな変人揃いのユニットの専属勤まらないですよ!」 そもそもあなた以上に生意気な人いないと思うんだよな。そんなことをいうなんて自殺行為、私にはできないのだけれど。 「名前〜」 「お姉さま!!」 背後から聞こえてくるバタバタという足音と、明るい声。こんなときは次に何が起こるか、この身体で嫌と言うほど経験してきた。対策として足元にぐっと力をいれる。 「そりゃ〜」 「うわっ!!」 ところが背中に来た予想以上の衝撃に、足に込めた力も空しく足元を崩してしまった。前へと身体が傾いていくことにもヒヤッとしたのだがそれ以上に 「ちょっと……くまくん」 そのまま瀬名先輩の胸にダイブする。これが何よりもヒヤッとした。上から降ってくる瀬名先輩の不機嫌極まりない声を無視して凛月が抱き着いてくる。3人固まっているこの光景、傍から見たら奇妙な集団にしか見えないのだろう。 「凛月……」 「おはよ〜ダメでしょ俺心配したんだから」 「おはよう、本当にクマになった?」 最早イノシシにでもなったんじゃないか。中途半端に地に残った片足が苦しくなり、凛月の体重もろとも自分の体重を前の人物に預ける。万が一これで彼に避けられようものなら、私は硬いコンクリートと熱いファーストキスを交わすことになっていただろう。 「ふぁ……。名前に会ったら増々眠くなってきた」 「よせ、私は抱き枕じゃないんだぞ」 「俺はあんたたちのベットじゃないんだけど」 あと重いんだよね。そう言い私の肩を両手で押す先輩だが、あまり意味がない。司くんが小言を言いながら凛月を引きはがそうとしているが、凛月はうんうん唸って全くはがれる気配がない。 「ちょっとくまくんいい加減にしてよー」 「えぇーやだぁー」 「おい凛月、名前がつぶれるだろ」 そこで空かさず登場した保護者におぉと密かに歓声を零した。いとも簡単に凛月を私から引きはがし、その手際の良さに感動すら覚えた。どういう策を使っているのか今度教えてもらおうか。 「ありがとうございます衣更先輩」 「いや、こっちこそ悪いな。こいつの世話いつも大変だろ」 「いえ、主にお姉さまが請け負っているので問題ありません」 「問題大ありだわ」 爽やかな笑顔浮かべて何とんでもねぇこと言ってくれてんだ、この末っ子ちゃんは。凛月が剥がれたことによって、ようやく身体の圧迫感がなくなり身体を上に伸ばす。眠そうに目をこする凛月は本当に眠たそうに見える。ギリギリ開いているような目が心配になって、思わずその頭をなでると彼は猫のように目を細めた。 忘れかけていたがまだ時刻は早い。学校がある平日ならともかく、日曜日の今頃、彼は布団の中で丸まっているはず。そんな風に眠たそうなのは無理もないだろう。 「おはようございます、お姉さま」 「あら、歪みない眩しい笑顔だこと」 向けられたあどけない笑顔は、彼の元来童顔である顔を引き立てて一層可愛らしく見せた。 「お姉さま、皆さまとの集合場所に貴女がいなかったので私はとても心配したのですよ。お姉さまに何かあったのではないかと……」 「あ、ごめんね」 だから凛月もさっきあんなことを言ったのか。確かに何も言わずにホッケ達のとこに駆け込んだのは悪かったかもしれない。悲しそうに伏せられた司くんの目に、ふと罪悪感を覚える。 「もしまたお姉さまが野郎共に攫われでもしたら」 「ん?」 「私は今度こそ朱桜家の全戦力を持って祖奴らにあってしかるべき制裁を……」 「やめて御曹司パワー本当に底なしなんだから」 しかるべき制裁の域をはるかに超えてしまいそうで怖い。 「お姉さま、さてはわかっていませんね」 「え、何を?」 「私がどれだけお姉さまを心配しているのか」 「あぁ〜わかるようなわからないようなわかりたくないような」 「私だけじゃありません!瀬名先輩だってお姉さまが心配で心配で!!忘れ物なんて安っぽい虚言まで吐いて探――フガッ!?!」 「え、なに?かさくん口が裂けそう?それは大変だねぇ。お兄ちゃんが抑えてあげる」 一瞬何が起こったのかわからなかった。とりあえずわかったのは「瀬名先輩」と司くんが口にした途端、凄まじい速度で何かが横を通り過ぎて、あっという間に司くんの口を封じてしまって、その蓋となったのは瀬名先輩の手で…… 「ンンンンンンン!!?」 「え、なに言ってるかわからないんだけど?しゃべれなくなっちゃったのかな?」 そりゃ口抑えられてんだから 喋れるわけないのに。 「まさに鬼畜」 「名前もやってほしい?」 「瀬名先輩まじ天使女神やだ素敵」 「ふふ、そうそう。かさくんも余計なことはいわなくていいの、わかるよねぇ?」 ……そうして今、もう一つ分かったことがあるのだが。 「司くん、めちゃくちゃ苦しんでませんか?」 徐々に青みがかっていく顔色に、違和感を覚える。あれ?司くん大丈夫?目がアイドルらしからぬ方向に行ってしまいそうだけど。 「瀬名先輩、本当にまずそうですよ?!」 ようやく解放された司くんが、ふらふらとこちらに歩いてくる。慌ててその華奢な身体を支えると、「美しいriverが見えました」と司くんが呟いた。弱った背中をトントンと叩くと、肩をぎゅっと掴んでくる仕草に、ふとうちの弟を思い出した。 「ところで司くん」 「な……なんでしょうか?お姉さま」 「川の向こうに誰かいた?」 「こん棒持った瀬名先輩と普通の凛月先輩が10人ずついました」 「dangerous」 とにかく、その川の正体は増々得体のわからないものになってしまったが、恐らく三途の川ではないだろう。彼がその川を渡る前でよかった。 * 「混んでるねー!おっ!ホッケ〜あの建物キラキラしてる!!」 「おい明星、あまり離れるな。迷われたら今度こそ面倒だ」 「確かにこんな混んでる中、この大人数だとちょ〜っと行動しづらいわねぇ」 遊園地の中は想像以上に人が多くて、油断してしまえばすぐに人の波に呑まれてしまいそうだ。人が苦手な忍なら、人酔いで確実にまいってしまうだろう。 「名前大丈夫か?」 「大丈夫大丈夫、これでも目は良い方だから」 「名前は俺たちと違って背も小さいからねぇ……。あまり離れないでね」 「さっきから凛月。私のことを子ども扱いしてません?」 私を挟むようにして凛月と真緒の幼馴染コンビ2人が横に立つ。おかげで人にぶつかることはなくなったのだが、心なしか凛月が徐々にこちらに迫ってきている気がする。 「そんなことない。じゃあはぐれないように首輪する?」 「子ども扱いよりひどかった。どこいった人権」 彼は一体私を何だと思っているのか。謎である。 「何か良い方法ないかしら?」 「グループに分かれて行動するのはどうでしょう?」 「そうね、そうしましょうか。スバルちゃん達もそれでいいかしら?」 何やら前方を行く4人がわいわいと盛り上がっている。真くんもホッケと一緒に着ぐるみを見て楽しそうに笑っているから可愛らしい。そう思った瞬間視界の端でフラッシュがたかれた気がしたが、気のせいということにしておこう。 「ねぇ名前ー!!」 「ん?」 「はい、どれか引いて」 「なんだ、藪から棒に」 スバルが差し出してきた白く細い紙切れ。見た感じくじのようだが。 「罰ゲーム……?」 「ほら早く」 「はい」 スバルの楽しそうな顔と勢いに負けて、不信感を抱きながらおずおずと内の一本を引っ張り抜く。そのくじに書かれていたのは数字で、増々状況が分からなくなってしまった。 「なんだった」 「……2」 2、それは私が知っている限り、運が悪い数字だとか縁起が悪い数字だとかないはずなんだが。その数字を聞いた途端前、方にいた4人がぴしりと固まる。 「あらら」 「だから名前に引かせるのはまずいって……こいつ運から見放されてるんだから」 「まぁ、お姉さまですから」 「どういうことなの」 人のこと言いたい放題…… それが各グループの人数であると教えられるまで、もうしばらく言いたい放題言われることになった。じゃんけんで勝った瀬名先輩が今まで言見たこともないような本気の顔してくじを選ぶ中、真くんはその様子を酷く怯えた目で見守っていた。 * 「氷鷹くんとペアで良かったー!」 「俺も見知った人物で安心した」 くじ引き中は、魂が入っているか不安になるくらい真っ青になっていた真くんも、今となってはにこにこと心底嬉しそうにホッケと話している。若干心配なペアもいるが私には関係のないことだ。そう……。 「嵐ちゃん、水を差すようで悪いのですが」 「あら名前ちゃん、どうしたの?」 どうしたの?じゃねえよ。いじめ?いじめなの?先程の出来事を振り返ってみよう。くじを持った嵐ちゃんは私をいないかのように通り過ぎて真緒にくじを差し出した。てっきり自分も引けるもんだと思っていた私は、くじを引こうと中途半端に手を伸ばしたまま、フリーズして立ち尽くしていたのだ。 「私だけ、ぼっちなんですが」 「ふふっ、問題ないわよ」 「いや、あるわよ」 ぼっちで遊園地とか、この大人数で来ておいて?いやいやいやいや。 「確かに、悪かったよ。2なんて相手によって最悪になっちゃう数字引いちゃって」 「もう、それは済んだことでしょ?」 「運が全くない阿保で悪かったよ」 「それは、引かせた私たちにも責任があるわけで……」 「悪かったからぼっちにはしないでよぉおおお!!」 どうせならあんな数字が出るくじじゃなくて、みんなみたいにクマさんとかハートが書かれた可愛いくじだ良かった。ドキドキ感があって、なによりボッチじゃないくじが良かった!!! 「え、名前1人なの?」 「凛月……」 「じゃあ俺名前と回りたいー」 「本当!!?」 凛月は星の書かれた紙をペラペラと弄びながら近づいてきた。その表情は眉をひそめていて機嫌が悪そうに見える。だが孤独感に絶望しかけていた私の中では、そんなことどうでもよかった。迷わずその無防備な胸に飛び込む。 「あぁ、そうじゃないのよ!!名前ちゃんは特別なの!!」 不意に嵐ちゃんの大きな手がポンと私の頭に乗る。「先に言っておくべきだったわね。ごめんなさい」と申し訳なさそうに眉を下げた彼に思わず首を傾げた。 「グループ分けするとなると、名前ちゃん略奪戦が起きちゃいそうだし、一部の子が心配して楽しめなくなりそうでしょ?」 だから、名前ちゃんには4つのグループを回ってもらおうと思うのよ!!それなら皆平等で文句ないでしょ。そう言って微笑む嵐ちゃん。 「なんだ、良かっ……良かったのか?」 「ふふ、スバルちゃんたちと話し合ってそうなったのよ。せっかく来てくれたtrickstarの子たちとも楽しんでもらいたいしね」 「えぇ〜」 ぷくっと頬を膨らませた凛月。それほどペアが気に食わなかったのだろうか……いや確かにその気持ちわからんでもないけど。視界の奥、凛月のペアの人はくじを見つめて呆然と立ち尽くしていた。 「そんなむくれた顔しないの凛月ちゃん。何も2人で動かなきゃいけないわけじゃないんだし。最初は私たちと一緒に回りましょ?」 「それなら安心かも」 「ほら泉ちゃん!行きましょー!!泉ちゃん!!泉ちゃん!!」 「うるさいなー…分かった行くから。名前連呼するのやめてよ、ウザい」 そうして渋々と瀬名先輩が動きだし、つられてみんなが別々の方向を向いて歩いていく。なんだかんだ言って先輩も仏頂面してはいるけど、嫌なわけではないようだ。司くんも何だかんだ話せているみたいだし。ゆっくり遠ざかる背中に少しだけ寂しさを覚える。 「名前ちゃん、僕たちも行こう」 その声に咄嗟に振り返る。そこには私を見つめて優しく笑う2人がいて、私に向かって手を差し伸べてくれていた。うるっとくるのを飲み込んで、大きく頷いて駆け寄った。 |