合流しましょう 「鳴上先輩、お姉さまは大丈夫でしょうか」 「どうかしら……泉ちゃんに捕まってないといいけど」 「ふ……ふぁ、名前まだ?」 「う〜ん、やっぱりあいつらに付いていくべきだったか」 「そうだねぇ。ま〜くんがいてくれたのは良かったけど、まさか名前があっちにいるとは……」 遊園地、入り口の少し外れたところで4人集まって話を始める。彼女たちを待ち始めて何分、そして瀬名先輩が離れてから何十分が経過しただろうか。 「そうなんだよな。俺もあっち側に名前がいるって知ってたなら、確実にあっちに行ってたんだけど……」 「え、何それ浮気?」 「北斗はともかく、あいつら何しでかすかわからないからな。ってか浮気ってなんだよ」 「だめだよまーくん。名前は俺のお嫁さんになるんだからねぇ」 「お前、まだその話……」 「凛月先輩!!それは聞き捨てなりません!!!」 突如、凛月の目の前に飛び出して、大きな声を上げた朱桜。その剣幕に、先ほどまで眠そうに目を伏せていた凛月が目を見開き、うわっと声を上げる。 「お姉さまが凛月先輩などと結婚したら、確実にお姉さまが貧血で倒れてしまいます!!」 「あのさぁ、俺、自分のお嫁さんの血無くなるまで飲むほど馬鹿じゃないんだけど……」 「違います!!一番危険なのはstressです!!」 「えぇ〜?俺そんなセっちゃんみたいに面倒な性格してないよ」 「oh……凛月先輩も瀬名先輩のcrazyなことに気が付いていたのですね」 開園時間が迫ってきているためか、辺りのざわつきは増してきている。人気の遊園地なだけあって、並ぶ人の列には、子供から老人まで幅広い年代層の姿がうかがえた。 「そういえば鳴上。お前は最初から知ってたんじゃないか?」 「あら?なんのこと」 先ほどまで喧嘩腰であった朱桜も、今となっては先輩の話題で、うんうんと凛月の話に頷いている。そこでふと鳴上に視線を移す。彼は手鏡を上方に持ち上げ、髪を整えている最中だった。 「お前、ここについたとき迷わず名前に連絡しただろ。もしかしたら最初からあいつがtrickstarといるって知ってたんじゃないかなって」 「ふふ、それは女の感よ」 「……そうか。でもあの先輩、本当に行かせて良かったのか?」 * 一時間くらい前、集合場所である遊園地の入り口前を目指す途中のこと。瀬名先輩と鳴上が時計台の下で話しているのが見えた。彼らはknightsの1年、朱桜司を待っていたのだ。 「すみません、先輩方お待たせしました」 「遅〜い!!全く後輩のくせに遅刻とか生意気なんだけど」 「瀬名先輩、お言葉ですが約束よりも5分早い……」 「俺より遅かったからそれは遅刻なの〜、なるくんなんて30分前からいたんだからね」 「それは……大変申し訳ありませんでした」 相変わらず面白いチームだなと3人の会話を耳にしていた。それと同時に面倒なメンツの中に飛び込んじまったなと、内心ため息をもらす。俺だけtrickstarじゃないか。すると突然「あれ?」と凛月がこぼした。 「名前は?」 「おや、皆様と一緒ではなかったのですか?」 「なるくんどこかで待ち合わせしてるんじゃなかったの?」 「いえ、司ちゃんと一緒だとばかり…」 「私は、てっきりお姉さまを瀬名先輩が連れまわしているのではないかと心配していたのですが」 「ちょっと、かさくんお話しようか」 そこで、初めてチーム全員名前の居場所がわからないことを知ったknights御一行。横で眠たそうに欠伸をしている凛月にお前は知らないのか、と聞いたところ、「いや」と短い返事が返ってきた。 「困ったわ……どこかで迷子になってないといいんだけど」 「大丈夫でしょ、あれでも一応高2なんだし」 「でも、こんな馴染みのない土地で女の子1人なんて……」 「声をかけてくだされば私がお供したものを……」 「阿保ガキと末っ子じゃ増々心配になるでしょ」 3人はそんな話をしながら目的地へと足を進める。凛月は早い時刻で眠たいせいか、少しおぼつかない足取りで後ろにゆっくりと続く。それでも名前のことが気になったのか、女子の声がすると、しきりにその方向に振り返っていた。 「あれ、どうしたのセっちゃん?」 突然足を止めた真ん中に立っていた人物。凛月の言葉に両端の2人も不思議そうな顔で振り返る。 「……忘れ物」 ぽつりとつぶやいた先輩の表情は、全く焦りの色を帯びてはいなかった。「あんたたち先行ってて」そういうと同時に、踵を返して速足で元来た道を戻っていく。 「……鳴上先輩」 「いいのよ、ふふ…そっとしておいてあげましょ」 「あのセっちゃんが忘れ物……」 「にわかには信じがたいですね」 * 思えばあの時、どうして誰もスバル達と名前が一緒にいるんじゃないかって思わなかったんだろうか。 「ふふ、きっとそれだけ名前ちゃんが傍にいることが当たり前になっているってことね」 「そうか……そうだな」 確かに、俺もだから思いつかなかったのかもしれない。 「ってか、俺口に出してたか?」 「ふふ、どうかしら?」 「それにしても、trickstarの方々とお姉さまが一緒にいることが分かった今。お姉さまの身が心配ですね」 「う〜ん、そうだねぇ、まぁ大丈夫でしょ。心配になって探し行っちゃうくらい大事ってことだろうし」 「ですが……」 心配して名前を探しに戻ったのに関わらず、彼女が贔屓している真が共にいたなんて知ったら、あの人だったら名前を吊るしそうな気がするんだが。 「……やっぱり俺探してっ…」 「あぁ〜ま〜くん抜け駆けは無しだよ」 「ばか、そんなんじゃねぇよ」 今まで朱桜と会話をしていたはずの凛月の制止の言葉に、駆け出そうとしていた足を止められる。丁度そこで見知った明るい声が聞こえたような気がした。 「リ〜……サリー!!!」 「あら、あれはスバルちゃんじゃない?」 鳴上の視線の先、そこにはいつも通り元気にこちらに手を振るスバルと、なにやらげっそりしている真、そこにお茶を指しだす北斗がいた。 「やっほやっほ〜名前のいう通り、ここにいたんだね〜!!」 「ああ、それで名前はどうした?」 「あぁ…それが」 少し困ったようにスバルが後ろを振り返った。その場にいた全員がつられるようにしてそちらに視線を向ける。 「い、痛い痛い瀬名先輩痛い!!」 「もうあんなこと言えないように、この悪い口に叩き込まないとねぇ?」 「痛い!こんな引っ張ったら裂けて化け物の仲間入りしちゃうってイタタタタ」 「俺と一緒は嫌だってこと?」 「先輩それもう自分が化け物だって認めて…痛い脇腹までつままないで!!」 頬を摘ままれて肩に手を回されているその様子、一見仲のいいカップルにも思える。だが自分たちの目にはカツアゲのように見えるのは、先輩が纏っているどす黒い雰囲気が原因か。痛い痛いと悲痛な叫び声に北斗は「さっきからあの調子だ」とため息をこぼした。真の顔色が悪いのはこのせいか。 「お姉さま!!」 「あ、名前〜」 そんな嬉しそうな声の2人が、修羅場の中に問答無用で飛び込んでいく。いつの間にか開園していた遊園地の長い行列はすでに動き出していて、高い壁の向こうからは楽しそうにはしゃぐ人たちの声が聞こえた。 (ああ、胃が痛くなりそうだ) わんちゃかと騒ぐKnights5人とスバルを見て、心の中でぽつりとつぶやいた。 「そうだな……でもまぁ、たまにはいいだろう」 咄嗟に見た北斗は、真っすぐと5人を見ながらふっと息を零す。その横顔は口元が緩んでいた。 「…そうだな、ところで北斗」 「なんだ」 「俺、なんて言ってた」 「……?胃が痛くなりそうだ?」 「そうか」 今度から口を塞ぎながら考え事をするようにするか。そう心の中で決心した。 |