「……良く出来たんじゃない」
雛森めぐと絵馬ユズル。彼女たちが姉弟弟子であることを知っている人間は、その2人の様子に密かに疑問を抱く。姉弟子であるはずの雛森めぐは、目をキラキラさせながら話しているのに対し、弟弟子である絵馬ユズルは、それをよくやったと褒めている。普通、逆なのではないのだろうか、と。
「やったあ!」
「良かったね」
身長もユズルの方が大きくなってしまった今。実際はめぐの方が2歳も上であるわけだが、きっと知らない人が見たら、兄妹弟子と勘違いしてしまうのだろう。しかし、当の本人たちは、それが当たり前とでもいう様に、訓練の度に繰り広げられているこの光景。周りの人々も口を挟むことはしなかった。訓練の度隣同士で仲睦まじいその姿が、毎回訓練の定番の光景となっていた。しかし……
*
「光ちゃん、ユズルは〜?」
「んぁ?来てないぞー」
ソファに悠々と座ってゲームをしている光ちゃん。まじか、今日ユズル来てないのか。慌ててポケットの中のスマホを確認すれば「今日訓練いけないから、よろしく」との素っ気ない新着メッセージの通知が来ていた。今日は1人なのだと認識した途端に重くなる胸を抑えながらも、とぼとぼと訓練室へと向かった。
「127人中30位……」
いつもなら調子が良ければ10位ぐらい、普通でも20位ぐらいはいけるのに。理由は何となく予想ついていた。隣の席をそっと見れば、あまり面識のない人物がいる。いつもは見慣れた顔があるというのに。隣にユズルがいないことでこんなにも影響が及んでしまうのか。と、弟弟子にこんなところでも依存してしまっているのを感じて頭を抱えたくなる。
「奈良坂先輩〜!」
「日浦」
その言葉に振り返る。後ろの方で、よく1位を取っている三輪隊の奈良坂先輩に駆け寄っていく那須隊の日浦さんの姿があった。彼女たちも師弟関係らしく、こうした合同練習の際には、よく一緒にいる所を見かけていた。
「先輩!順位、前より3位上がりましたよ!」
「よくやったな。しかし、油断するなよ」
「えへへ、もちろんです!」
にこにこと笑う日浦さんは物凄く嬉しそうで、それを見守る奈良坂先輩の表情は優しくて穏やかだ。師弟仲睦まじく、心温まる光景なはずなのに。なぜか胸がぎゅっと締め付けられてたまらない。足が縫い付けられたように動かなくって、瞳までもがその光景に釘付けになっている。
(鳩原さん鳩原さん!)
(え?)
(初めて的に全部当たりましたよ!)
(ふふ、良かったね。いつも頑張ってるからだよ)
めぐ
あの人が優しい声で、ポカポカとひだまりみたいに暖かい笑顔を浮かべながら、私の名前を呼ぶ。そんな映像がよみがえる。しかし、それをこの目で再び見ることはきっと叶わない。私にはもう、日浦さんのように報告をできる師匠なんていないのだ。鳩原さんに自慢するだって、笑いかけてもらうことだって、名前を呼んでもらうことだって。もう何一つ、できやしないのだ。頬を伝う生ぬるい感覚。一筋の涙に気が付いて、慌てて小さく仕切られた狙撃用ブースに隠れるようにしゃがみ込む。
「おぉ〜。みっけた」
誰にも見られてしまわないように。なのに、そんな私の思惑とは裏腹に、無慈悲にも背後から聞こえた聞き覚えのある呑気な声にびくりと肩が跳ねた。それと同時に頭をポンポンと優しく撫でられる。独特な訛りの仕方のせいか、聞きなれた声のせいか、それが誰なのかはすぐに分かって。
「めぐどうしたんー。こんなところで丸まったりして」
「隠岐せんぱい……」
「最初、アルマジロかと思いましたわ」
これは観念するしかないようだ。不思議がる声に、意を決して立ち上がり、振り向こうとする。その刹那、グイっと頭を下に押しやられて驚く。思わず頭を抑えれば、頭に乗っているサンバイザーに気が付いて、これを乗せられたのだとようやく理解できた。
「前向かんでええから。そのまま歩き」
「でも……」
「うちの作戦室珍しく誰もいないはずやから。おいで」
「新作ゲーム、この前イコさんが買ってきてたみたいやから、久々に遊びましょ」どこか楽しそうに弾む声で話しながら、ぐいぐいと私の腕を強引に引っ張っていく。導かれるままについていく。そっか、私にはまだ、こんなにも優しい師匠がいてくれるんだ。つくづく私は人運に恵まれているんだなと思えば、再び目頭が熱くなってしまった。
作戦室に入れば、生駒隊の人が勢ぞろいしていて、話が違うと怒る私。隠岐が弟子泣かしたとか隠岐が誘拐したとか騒ぐ声。顔を青くする隠岐先輩。そんなふうに一波乱あるのは、また別の話である。