狼だって絆されて

「なんだ、それで結局おごったのか」
「しょーがねーだろ」

ったく、遠慮せず全員ガツガツ食いやがって。そう言つつお好み焼きを作る手を止めない影浦を見て、なんだかそれが妙に面白く思えて荒船はふっと息を零した。

「お前もなんだかんだめぐに甘ぇよな」
「あ?おめーと一緒にすんな。モンペ野郎」

数カ月前、人混みをかき分けた先、大泣きしているめぐが視界に入ったときは、荒船もぎょっとした。元来泣き虫であることは知っていたが、人前でああも派手に泣いてしまうのは珍しい。彼女が泣き出したことに驚いたのは、泣かせてしまった張本人である影浦も同じだった。嗚咽の止まらないめぐがユズルに連れて行かれるのを傍目に見送り、話したことが2人の脳裏に蘇る。

(めぐ、やっぱり影浦隊には合わなかったか?)
(っチ……)

わかってましたと言わんばかりの荒船の発言に無性に苛立ち舌を打つ。なんせ影浦にめぐを泣かせるつもりは微塵もなかったのだ。ならば、なぜめぐが泣いてしまうほど威圧的にまくし立ててしまったのか。その理由は単純で、彼女のように気の弱い年下への扱いがわからない、ただそれだけだった。影浦の周りにはユズルや光のように鋼の心を持った年下が多い。めぐのような人種と深く関わることは初めてだったのだ。そもそも影浦は、本当に彼女がわざと撃っていないということはサイドエフェクトによって気づいている。多少の苛立ちはあったが、責め立てるつもりはなかったのだ。

「でも珍しいよな、お前があんだけ他人のこと構うのも。ただ単に、腹が立っただけじゃないんじゃないのか?」
「うるせぇ」
「はは、こりゃ図星か」

そう言って笑う荒船を、いつもの鋭い瞳で睨みつける。荒船の言う通り、影浦もめぐに少し他とは違う感情を抱いていた。ユズルが連れてきた小さな少女、彼女には見覚えがあった。前に荒船が一緒にいるのを何度か見かけたことがあったのだ。荒船に対する怒った顔や嬉しそうな顔、コロコロと表情を変える彼女。色々覚えてはいるが、特に人懐っこい犬のような印象が強くあった。影浦の周りにはあまり見ない性格だからかもしれない。

(……めぐ、挨拶して)
(雛森めぐです……。えと…よろしくお願いします)

初めて隊に来た時。目があった瞬間、あからさまに怯えられたのをはっきりと思えていた。サイドエフェクトからも、その恐怖や怯えといった感情がぐさぐさと肌に刺さり、無性に苛立ったことをよく覚えている。ユズルの野郎、なんて厄介なのをつれてくるんだ。初めこそ、そう思っていたが、それはだんだんと変わっていった。荒船に向けられていた人懐っこい感情が、すぐに影浦にも向けられるようになったのだ。元々負の感情を受け取りやすい性質ではあるが、好意を感じ取れないわけではなかった。荒船が可愛がっている気持ちが少しわかる気がした。密かにそう感じた影浦ではあったが、絶対口になんか出さない。

「お前もあいつに毒されたか?」
「んなわけあっかよ」

あの騒動の後、作戦室にてあった彼女は、案の定、影浦の方を一向に見ようとしなかった。ソファの上で縮こまる小動物のような姿。コンビニで買ってきたお菓子を、彼女の前の机にドサッと置いた。

もしかしたら荒船の言うとおりかもしれない。懐かしい記憶を思い出しては、密かにそう思ったのであった。
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