01

 呼吸が出来ない。フロイドは息苦しさに目が覚めたが、目も開かない。顔の上に何かが乗っているらしい。片手でそれに触れると柔らかい感触がした。触ったとたんに動き出したそれに驚き思い切り握りしめ、顔から引き剥がそうと腕を引く。

「いってぇ!」

 びんっと髪を引かれ、痛みから声が出た。やっと目を開けると、丸い頭のぬいぐるみのような、しかし見慣れた片割れにそっくりの小さな物体が見える。

「……ジェイド?」

 小さなぬいぐるみのようなジェイドはやはりぬいぐるみらしく、表情が変わることもなければ、中身は綿なのかとても軽い。頭から足先まで二十センチ程しかないが、しっかりとオクタヴィネルの寮服を着ていて、帽子まで被っている。短い腕をパタパタと振っているが、この小さなジェイドがフロイドの髪の毛を掴んでいるのか動かれる度に痛みが走った。

「痛いっての。オレも放すから髪の毛放してくんね?」

 言葉は通じるらしく小さなジェイドは暴れるのを止め、髪の毛を放した。フロイドは大人しくなった小さなジェイドをゆっくりとベッドの端に置き、上半身を起き上がらせる。ジェイドのベッドに視線を向け存在を確認すれば、いつもと同じようにジェイドが眠っていた。じゃあこの小さなジェイドのようなぬいぐるみはなんなんだ。

「ジェイドじゃねーの?」

 フェルトで作られたような小さなジェイドの頭を軽くつつきながら問いかけると、小さなジェイドはこてん、と首をかしげた。あざとい。恐らく夢か何かだろう。

「ね、まだ夜中だしオレ寝るけどちっこいジェイドも一緒に寝る?」

 今度はコクコクと頷いた小さなジェイドを潰さないようベッドに横たわる。顔にすり寄ってきた小さなジェイドを片手で包み込むようにして優しく撫でながら眠りについた。


・・・


「フロイド!」

 ジェイドの叫ぶような声に飛び起きると、小さなジェイドがまるで頭突きかと思うほどの勢いでフロイドの胸の辺りに飛び込んできた。抱きとめることなど出来るはずもなく衝撃に咳き込む。柔らかいはずの体にこんなに威力があるとか知らねーし。朝から最悪じゃん。
 小さなジェイドはフロイドの胸の辺りに抱きついたままぷるぷると体を震わせていた。夢じゃない。ベッドの横に立っているジェイドの顔を見上げれば困惑した目で見つめ返される。

「なにこれ」
「僕にもわかりません」
「ジェイドじゃねーの?」
「見た目は僕なのですが……」
「アズールに見せればなんかわかるかもよ」
「そうですね」

 そう言い合ってフロイドは小さなジェイドを体から引き剥がすように引っ張った。ジタバタと暴れる小さなジェイドから手を放すとさっとジェイドから隠れるように布団の中に潜る。

「……ジェイド何したの?」
「何も?ただ中身がどうなっているのか気になっただけです」
「えぇ……ちっこいジェイドかわいそーじゃん」

 怯える小さなジェイドを布団ごと抱き締めると、ジェイドは「おやおや」と言いながら楽しそうに笑った。

 それからアズールに小さなジェイドを見せると、ジェイドから分離した心の一部みたいなものだと言われた。誰かのユニーク魔法かと考えても魔法の痕跡は感じられない。何か魔法薬を被ったのか?けれど昨日はそんな面白そうな事件は全く起きなかった。ジェイドは何かを知っているのか、ただこの状況が楽しいのかニコニコと笑っている。

「原因はわかりませんが、おそらくそのうち消えるでしょうね……ええい!鬱陶しい!」

 アズールが気になるのか小さなジェイドはずっとアズールの頭や肩を跳ね回っていた。しかしついにアズールが声を上げるとぴゃっと飛び上がりそのまま床に落ちる。フロイドが拾い上げてやるとぎゅっと手に抱きついてきた。

「もー、アズール。ちっこいジェイドがかわいそーじゃん」
「僕が悪いんですか?」
「アズールもジェイドも意地悪だよね〜今日はオレと一緒に来る?」

 小さなジェイドはコクコクと何度も頷いた。まばたきすらしないはずの両目が輝いているように見える。なんかちょっとかわいいじゃん。

「置いていけと言っても連れて行くんでしょうお前は。くれぐれも問題を起こしたりしないでくださいね」
「僕もフロイドが連れて行くと言うならそれでかまいませんよ」
「やったー!」

 小さなジェイドを持ったままフロイドは腕を思い切り持ち上げる。小さなジェイドは両腕をパタパタと振っていた。

 小さくともやはりジェイドの一部であるからか、授業中はもちろん昼食や部活動でも何事もなく一緒に過ごした。ただ、さすがジェイドというべきか、植物に興味を示してはじーっと見つめている。とりわけキノコには興味津々でフロイドが声をかけなければずっと観察していそうだった。

「ちっこくてもジェイドなのはわかったけど、部屋にキノコとか持って来んなよ」

 気まぐれで寄った植物園からの帰り、小さなジェイドはフロイドの言葉を聞いているのか怪しいほど、周囲を気にしてはキョロキョロと見回している。鏡舎から校舎までの道は朝も歩いたが、その時は普通にしていた。何かあるのかとフロイドも周囲を見回すため肩に乗っている小さなジェイドから目を離した瞬間、小さなジェイドは肩から飛び降り購買部や校舎へ続く道の方へ駆け出した。

「え?なに?」

 驚きながらも腕を伸ばしただけで簡単に小さなジェイドを捕まえることができた。小さなジェイドの足では百歩歩いたところでフロイドの歩幅から逃れることは出来ない。
 ひょいっといとも容易く捕まった小さなジェイドはバタバタとフロイドの手の中でもがいた。何があるんだと道の先に目を向けると、ちょうどそちらから誰かが歩いてくる。

「ん?フロイドか。その手に持ってるのは……ジェイドか?」
「あっ、ウミガメくん」

 トレイは購買部の大きな紙袋を抱えながらもフロイドに歩み寄る。小さなジェイドはついさっきまで暴れていたのが嘘のように微動だにしなかった。

「こいつジェイドの心の一部なんだって」
「へぇ。ジェイドの」

 よく見ようとでも思ったのかトレイが小さなジェイドに顔を近づける。すると小さなジェイドはフロイドの手から抜け出し目にも止まらぬ早さでフロイドの背中に張り付いた。え?なに?なんなの?フロイドの脳内は「は?」の一言で埋め尽くされる。

「怖がらせたか?ごめんな?ええと、食べられるかかわからないがお詫びにクッキーをもらってくれないか?」
「ちっこいジェイドはほぼぬいぐるみだし食べ物は……」

 フロイドの言葉を遮るように小さなジェイドはさっとトレイの前に飛び出した。トレイは地面に片膝をつき、制服のポケットから取り出した包みを小さなジェイドへ渡す。小さなジェイドは小さな両腕でその包みを大事そうに抱え込んだ。その包みには見覚えがある。最近、いつもジェイドが持っているのと同じだ。

「許してくれるのか。ありがとう」

 にこりとトレイに笑いかけられた小さなジェイドは包みを抱えたまま地面を見つめるように顔をうつむけている。これはもしかして、もしかすると。もじもじしている小さなジェイドを後ろから見下ろしながらフロイドはある考えが頭に浮かんでいた。

「ねえ、ウミガメくん。今日ジェイドに会った?」
「ジェイド?いいや、会ってないぞ」
「ふーん」
「何かあるのか?」
「別に〜」

 トレイは不思議そうにしながらもフロイドと小さなジェイドに手を振り、ハーツラビュル寮へ戻っていく。小さなジェイドは遠ざかるトレイの背中をじっと見つめていた。

「……ウミガメくんのこと好きなんだ?」

 ぴゃっと小さなジェイドは飛び上がった。図星らしい。けれど小さなジェイドは首を横に振っている。それはどこか必死なようにも見えた。

 その日の夜、フロイド側にある机の上に小さなジェイドがトレイからもらったクッキーの包みが置かれていた。小さなジェイドはジェイドが部屋にいないのを良いことに勝手にキノコの図鑑を引っ張り出して来てはそれを眺めている。
 フロイドは包みを手に取ると、ベッドの上に座り、クッキーのひとつをつまみ上げ口に放り込んだ。サクサクと音を立てながら咀嚼していると、音が聞こえたのか小さなジェイドは本を放り出し、フロイドへ駆け寄って来る。小さなジェイドは床の上でぴょんぴょんと飛び跳ね、体全体を使って不満を表しているようだった。そんなにショックだったのだろうか。小さなジェイドは何も食べられないのに。

「食べないで置いとくだけとかもったいねぇじゃん」

 飛び跳ねるのを止めた小さなジェイドはぶるぶると体を震わせたかと思えば、唐突に鳩尾目掛けて頭突きをかましてきた。予想だにしていなかったその攻撃を避けられるはずもなく、思いっきり正面から受け止める。倒れはしなかったが軽く前屈みになりながら、片手で鳩尾を抑えた。クッキーを落とさなかったのは偉いと思う。

「お前そんな跳べんのおかしいだろ!?」

 まだ怒りが収まらない様子の小さなジェイドは今度は反復横飛びのように左右に飛び跳ねながら攻撃を繰り出そうとしている。そんなに怒ることぉ?やっぱウミガメくんのこと好きなんじゃん。

「ごめんって……明日またウミガメくんにもらいに行くんじゃだめ?」

 小さなジェイドは少しだけ考えるそぶりを見せ、渋々と頷いた。表情は変わらないはずなのにまだ不満そうに見える。食べ物横取りされたジェイドにそっくりじゃん。おもしろ。


・・・


 それから一週間程。小さなジェイドはトレイに会うたびにお菓子をもらい、そのお菓子をフロイドが食べてはまたお菓子をもらうことを繰り返していた。それをジェイドに伝えたとき、いつものように「おやおや」と言って笑うジェイドが悲しげだったことをふとした瞬間に思い出しては少しだけ面倒くさい気持ちになる。

「ウミガメくんはさ、面倒じゃねーの?ちっこいジェイドに毎日お菓子用意すんの」
「面倒だなんて思ったことはないよ。それにフロイドが食べてくれてるなら無駄になってないだろ」

 今日も小さなジェイドはトレイからもらったお菓子の包みを大事そうに抱き締めている。アズールの言っていた通り、小さなジェイドは消えかけているのか前より色素が薄くなった。そのうち体の一部が透け始めるはずだ。

「……あのさぁ、本当にいいわけ?」
「……なんのことだ?」
「オレが何も知らねーと思ってんの?そろそろ腹立ってきたんだけど」
「おいおい、本当になんのことだ?」
「ジェイドのことに決まってんでしょ」

 低い声で唸るように言葉をぶつけると、トレイはぎゅっと眉間にシワを寄せた。なんでお前が傷ついたみたいな顔してんだよ。毎日毎日ジェイドにお菓子を渡すぐらいには気に入っていた癖に、ジェイドが会いに来なくなったらそれまでってこと?自分からは会いに行かないわけ?それならジェイドの代わりに小さなジェイドへお菓子をあげてるのはなんで?
 もう一言か二言ほど文句を言ってやろうと口を開くと、ぽすっと柔らかい何かが足に触れる。自分の足を見下ろせば小さなジェイドがぽすぽすと足を叩いていた。トレイを庇おうとでもしているのだろうか。

「……ちっこいジェイドに免じてオレはもうウミガメくんには何も言わねー」

 まだフロイドの足を叩こうとしている小さなジェイドを持ち上げ、振り返ることなく歩き出した。こんな気分でラウンジの仕事とかまじねーわ。


・・・


 ついに小さなジェイドの体が透け始めた。机の上で丸まるように体を縮めている小さなジェイドの両腕はもうない。ベッドに腰かけたまま、ジェイドが寂しげにその姿を眺めていることにフロイドは気づいていた。腹が立つ。自分の片割れと言えど頭に来る。

「ジェイド〜」
「どうしましたフロイド」
「何か隠してるでしょ」
「……なんのことでしょう?」

 誤魔化すように笑うジェイドにイライラが募っていく。トレイからもらったお菓子の包みを腕で抱き締めることが出来なくなってから、小さなジェイドは包みに寄りかかるように残っている体のどこかでずっと包みに触れているようになった。

「ちっこいジェイドに消えて欲しくないんでしょ」
「いいえ。そんなことありません」

 何でもないことのようにジェイドは笑った。へったくそな笑顔だ。すっげぇ辛そうに笑ってる自覚ねぇだろ。

「最近ウミガメくんに会った?」
「なぜトレイさんと会わないと行けないのですか?」
「気持ちを自分から切り離して満足した?」
「……ええ、もちろんです」
「ちっこいジェイドはさ、ジェイドのウミガメくんが好きって気持ちでしょ」

 ジェイドは口を固く引き結び黙り込んだ。ここは否定しないんだ。

「オレはジェイドが誰を好きになるとか別にどうでもいいけど、それでジェイドが損なわれるのは黙ってらんない。ジェイドが自分でやったんだとしても」

 どこか呆然とした様子のジェイドの隣にフロイドは座った。小さなジェイドがまるで心配しているかのように頭を持ち上げて二人を見ている。

「前からウミガメくんが好きなことは知ってたんだよね〜。ジェイドめちゃくちゃ顔に出てたし」

 ジェイドはなにも言わない。ただ、膝の上でぎゅっと手を握りしめている。

「ちっこいジェイドが来てからさ、ジェイドそういう顔しなくなった。ウミガメくんにも会ってないんでしょ?気持ちを切り離してみてどうだった?」
「……最初は上手くいってました」

 ようやく口を開いたジェイドの声は少し震えていた。「うん」と一言だけ相づちを打ち静かに続きを待つ。ジェイドはひとつ深呼吸すると再び口を開いた。

「トレイさんへ会いたい気持ちや周囲の人たちへの嫉妬がなくなって、厄介なものから解放されたって嬉しかったんです」
「うん」
「けれど……また……」
「……好きになっちゃったんだ?」

 ジェイドは無言でゆっくりと頷いた。相変わらず両手は膝の上できつく握り締められている。こてん、とジェイドの肩に頭を乗せると気が逸れたのかその手が少しだけ緩む。

「それさぁ、ウミガメくんに言った?」
「……いいえ」
「気持ち切り離すのはフラれてからでもよくね?オレはそもそも気持ち切り離す必要ないと思うけど」
「……ですが……」

 またジェイドは両手を握り締めた。もー!頑固!頭を肩からどかしたフロイドが呆れたようにうつ向くジェイドから視線をずらすと、ぽてぽてと二人に歩み寄る小さなジェイドが目に入った。

「え!?ジェイド!見て!」

 フロイドはジェイドの肩を叩いた。無くなっていたはずの小さなジェイドの両腕が薄ぼんやりとではあるが復活している。ジェイドもそれがわかったのか「え?」と間抜けな声を上げた。

「これジェイドにウミガメくんが好きって気持ちが戻ってきたからじゃないの!?」
「え、いや、ですが……取り出した気持ちは消えてなくなるだけのはずで……」
「でもジェイドの好きって気持ちは無くならなかったじゃん!もうじれったいからちっこいジェイド連れて今からウミガメくんの所行ってきて!」

 フロイドはジェイドを無理やり立たせ、その手に無理やり小さなジェイドをねじ込むように持たせた。小さなジェイドは透けている両腕をバタバタと動かしているが気にとめている場合ではない。この勢いのままジェイドに告白させねばとフロイドは面倒くさい気持ち半分、片割れを思いやる気持ち半分で動いていた。

「ちゃんとウミガメくんに好きって言うまで戻ってきちゃダメだから」
「そんな……フロイド……」
「アズールに助けてもらうのもダメだからね!?」

 そう言いきって部屋のドアを閉めた。珍しく本気で弱った顔をしたジェイドを閉め出したことに少しも胸が傷まなかったわけではない。けれどここでフロイドが引いてしまった方がずっと嫌な思いがついて回る気がした。


・・・


「フロイド……フロイド……」

 ジェイドを待つ間に眠ってしまったらしい。名前を呼ばれながら体を揺すられ、ゆっくりと目を開くと顔を真っ赤にしたジェイドが困惑したようにフロイドを必死に起こしていた。

「フロイド……起きてください……」
「え……なに……?ジェイド、ウミガメくんと話したの?」
「話しました……それで、その……」

 元々赤かったジェイドの顔がより赤くなっていく。すべてを察したフロイドはがばりと勢いよく起き上がった。

「ウミガメくんもジェイドのこと好きだって?!」
「……はい」
「よかったじゃんジェイドー!」
「うぅ……嬉しいのですが……まだ信じられなくて……」

 ジェイドは喜びと困惑と照れから頭が混乱しているのか「うう〜」と唸りながら床に座り込む。フロイドはにやにやと笑いながらそんなジェイドに抱きついた。

「うだうだしてたのが馬鹿みたいでしょ?」
「……そうですね」
「何をしても何を感じてもジェイドはオレの片割れで、それは変わらないんだからさ……もう自分の一部無くしちゃダメだよ?わかった?」
「ええ、わかりましたよフロイド。……もし僕がトレイさんにフラれたら慰めてくださいね」
「えー?」
「そこはいいよって言ってくれるのではないのですか?」

 二人して床に座り込み、何でもないようなことを話して気持ちが落ち着いてきたのかジェイドは小さく笑みを浮かべた。そういえば小さなジェイドがいない。部屋の中を見回してもその姿は見当たらない。

「ねー、ちっこいジェイドは?」
「消えてしまいました。でも……きっと僕の中に戻ったんだと思います」

 そう言いながらジェイドは自分の胸を両腕で抑えた。本人が言うならそうなのだろうと、寂しさを覚えながらも笑った。帰れてよかった。

「よかった。よかったねぇ、ジェイド」
「はい。ありがとうございます、フロイド」


・・・


 翌日、同じベッドで眠った二人は笑い合いながら挨拶を交わした。いつもと同じように朝の支度をするが、小さなジェイドはもういない。たった数週間だけ、けれどその数週間で慣れた存在が居なくなるのはやっぱりどこか寂しい。海では突然居なくなることなんて普通なのに。陸に来て自分が変わったことのひとつだろうか。

「ちっこいジェイド居なくなってなーんかつまんね」
「おやおや、昨日はあんなに喜んでくれていたじゃありませんか」
「そーだけど。それとこれとは別」
「まあ確かに小さなものがチョロチョロ走り回っているのを見ているのは少し楽しかったです」

 ジェイドと並んで廊下を歩きながら愚痴を溢す。その時、後ろから誰かがジェイドを呼び止める声に足を止めた。振り返ればトレイが手に何かを持ちながらこちらに走ってくるのがわかる。

「ウミガメくんじゃん」

 ちらりと隣に立つジェイドを見れば、いつもと同じ笑みを顔に浮かべながらも耳を赤くしていた。え、おもしろ。思わずにんまりと口角が上がっていく。

「ジェイド!フロイドも、朝から呼び止めて悪いな」
「いいよ〜。それよりウミガメくんどうしたの?ジェイドに会いたかった?いってぇ!」

 思い切りジェイドに脛を蹴られ、叫び声を上げる。蹴られた脛を庇うようにしゃがみこみ、ジェイドを見上げれば澄ました顔で笑っていた。耳は赤いし、蹴り飛ばしたのお前だろ。何か?みたいな顔が腹立つ。

「フロイド、大丈夫か?」
「ウミガメくんからもジェイドに言ってやってよ〜」
「そんなことよりトレイさん何かご用ですか?」

 そんなことよりってなんだよ。ギロリと睨み付けても目の前のトレイにいっぱいいっぱいなのかジェイドは笑みをはりつけたままだ。内心焦りまくっていることが見てとれ、まあ許してあげてもいいかなという気になってくる。忘れねぇけど。

「二人にこれを見て欲しくてな。朝、部屋の前で見つけて……」

 そういってトレイは何かを包み込むようにして閉じた両手を差し出した。フロイドは立ち上がり、ジェイドと並んでその手を凝視する。トレイがゆっくりと手を開くと、ぴょこりと小さなジェイドが顔を出した。
 小さなジェイドは前より一回りほど縮んでいる。でも確かにあの小さなジェイドだ。フロイドは思わず大きく息を吸い込み、そして叫んだ。

「まだいるじゃん!!!」