ー触れる指先 01ー


トムはとても不思議な子だと、ティナは常々そう思った。しかし、自分に向ける視線は慈愛に満ちていてとても優しい。
そんなトムが言うから今まで一口も口をつけることをしなかったこの施設の食事もティナは静かに取り込んでいる。それらを取り込み体は回復の兆しを見せていた。

そして変化はもう1つある。溢れんばかりのティナの美しさが回復とともに輝きを取り戻し神々しさと無垢な危うさから施設の人間は庇護欲を掻き立てたティナは孤児院で一番の有名人になっていた。
シスター達はティナを見るたびに優しくその頭を撫でて愛情を注ぎ、トムの所為で近づくことすら難しい子供達は遠巻きにその姿を目に焼き付けていた。
今まで蔑まれ嘲られ嬲られてきたティナは最初のうちこそ困惑したがトムの支えもありその環境に慣れつつある。
これらは全てトムのお陰。トムが私を認めてくれたから。トムが守ってくれたから私はふつう≠ニしてここで生きることが出来ている。彼の言うことを聞いていれば酷いことをされる事は無いし、周りは与えられたことの無い愛情を惜しげと無く与えてくれる。

ティナの中でトムは絶対的なものにまで確立されていた。トムの側にいる事に心地よさを感じ最早離れることなどできないだろうとティナはそう思った。

それと同時にトムの中の力にティナは気づき始めていた。ティナを囲むシスターや遠巻きに顔を赤らめ見つめる子供達を見る瞳は時折恐ろしいまでの冷淡さを見せ、それは時々実害として彼らに降りかかった。トムは何もしていない。何もしていないが彼が何かしたのだという確信をティナは持ち始めていた。

その事をシスター達に尋ねると、彼女らは口を揃えて
「トムくんはむつかしい子なのよ」
と、微笑んだが張り付いただけのその笑みに嗚呼、これは誤魔化されていんだなとティナは感じた。
だから、ティナはそれ以降トムの事を誰かに聞くのはやめた。
いつか彼が話してくれる事だと、そう自分を納得させて記憶の奥の方にしまいこんだ。





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