別人


W兄がいたの、唯一無二のW

ある日アマレットは酒の席でぽつりとバーボンにそう溢した。

琥珀色のウイスキー。バーボンが入ったグラスの縁を指先が這う。弧を描くように触れる指先。中に入っている氷が月のように丸く、とっぷりと浸っている。

バーボンの中に、月が染み込んでいくーー…






「どうした、不機嫌そうな顔して」

下唇を出しながら眉間にシワを寄せて部屋に入ってきた彼女に対し、丸テーブルで銃の整備をしていたスコッチはそう声を掛ける。今日はライもバーボンも出払っていた。

「ベルモットに無理やり風呂に入れられたんだよ」

言われてみればいい匂いがする。だが何故そうなったのだ。

記憶は以降変わらずこの調子だ。男勝りな喋り方に歩き方。以前のアマレットでは考えられない程ガサツな性格。しかし荒々しい性格とは裏腹に仕事の面では目を見張るほどの器用な一面もあった。

ここ数日、行動を共にして仕事には支障ないと判断し、その事を上に報告。翌日さっそくベルモットから連絡があり、今日彼女を連れて任務に行ったのだ。

「風呂?なんで?」

「面倒くさくて2日入ってないって言ったらバラの風呂に沈められた」

「…風呂は入れよ」

「女ってすげーな。いつもあんな風呂に入らなきゃダメなの?」

「それはベルモットだけだと思うけど…風呂は入れ」

「女の体ってつくづく大変なんだな…。トリートメントにボディクリーム、それに爪の手入れ…」

恐らくベルモットに綺麗に磨かれたであろう自身の爪をマジマジと見つめた。ハァ、と次には呆れ顔でため息を吐く。

「全ての女性がそうだと限らないだろ。だけど風呂は入れ」

「…まぁな」

煮え切らない、といった感じに生返事をする彼女にスコッチも片眉を上げる。

「何か気になることでも?」

「いや、この二週間経たずで髪がパサついてきて…軋むし、よく絡むようになったから…」

「確かに前のアマレットの髪は艶があって綺麗だったな。それに香水もつけてた」

「まじかぁ、流石に女モノの香水はまだ抵抗あるわぁ」

腰に挿していた銃を引き抜きゴトッ、と重みある音を立ててテーブルの上に置く。ため息を吐きながら椅子に腰掛け、かちゃり、と慣れた手つきで解体し始めた。

「そのオイル貸して」

「あぁ」

せっかく風呂に入り、爪まで綺麗にしたのに彼女は気にする風もなくオイルの臭いを部屋に充満させる。

「・・・・」

「・・・・」

カチャカチャと互いに無言で整備している中、少しして彼女が口を開いた。

「なぁ、スコッチ」

「なんだ」

銃に視線を落としていたスコッチは彼女を見る。しかし目は合わず、彼女は視線を落としたままポツリと言葉を落とした。

「こいつ処女なのかな?」

カツンッ、と指がオイル缶に当たりテーブルの上に盛大に溢す。

「おわっ!」

「あー!なにやってんだよ!もったいねぇ」

「お前が変なこと訊くからだろ!」

慌てて缶を元に戻し、彼女がやれやれと洗面所からタオルを持ってきて投げて渡す。

「じゃあ訊き方変えるよ…恋人はいたのか?」

ふわりと舞ったタオルを片手で受け取り、彼女の言葉に方眉を上げる。

「恋人?」

「そ。いるの?いないの?」

「いや、わからないな。そういう類の話はしなかったし…気になるのか?」

すると彼女はうーん、と悩ましげな声を上げながらテーブルに戻ってくる。

「ベルにさ、この女の役割を訊いたんだ」

「役割?」

バラバラになった部品を今度は綺麗に組み立てていく。アマレットの指なのに、その手つきは男のそれだった。

「俺たち基本フォーマンセルなんだろ?それにしては随分非力だし、筋肉もないうえ肺活量も弱い。だから仕事の時何してんのかなって」

それはまるでこの体では肉弾戦は向いていないとわかっている口調だった。

Wあんたなんて人なんか殺したことなさそうなのになW

彼女は鋭い洞察力をもっている。
しかし以前のアマレットはどうだっただろう。そこそこ持ち合わせていたとは思うがここまでではなかった気がする。

まるで別人だ。

そしてアマレットはあまり周囲に気持ちを打ち明けない人間だった。この組織にいて自分のことをベラベラと話す人間はそうそういないが、それでもスコッチは彼女のことをなにも知らないのだと今さらに気づく。

「…ベルモットはなんて?」

「まぁ…探り屋のバーボン?と組んで情報収集が殆どだったって。ターゲットに近づいて誘惑してる間にバーボンが情報を盗んだり、逆もしかり。今回ベルと行った任務もそんな感じだったから納得はした」

スコッチは怪訝そうな顔で彼女に尋ねる

「で?何がどうしてそれが恋人がいるかどうかに繋がる?」

「だって、気になんじゃん。さすがに男とするのは正直抵抗あるし」

それはターゲットとの間に体の関係があるのかを訊きたいということだろう。

「女だったらいいと…?」

「キールとか…タイプだ…」

しみじみ言う彼女にそうなんだ、なんて相槌打ってこの会話に花を咲かせるつもりはなく、スコッチは一旦冷静になる。彼女と話していると時々男子高校生を相手にしている気分になる。

「すまん。その辺に関しては全くわからん」

「そか。まぁ、いざとなったら蹴り上げればいっか」

どこを…とは敢えて訊かない。

「女なんだから少しは恥じらいくらいもてよ」

いったいいくつだよ、と以前のアマレットにだったらこんな言い方をしない。記憶のない砕けた性格の彼女の方が話しやすいなんて皮肉なものだ。

「俺?今年じゅうさ…いや、十八だよ」

「……は?」

アマレットはとうに二十を超えている。それが十八?通りで言動が少し幼いと思った。だが、それなら彼女は十八で銃の扱いが出来るということになる。

「アマレット、ここに来る前は何をしてた?」

「え?ここ来る前?暗殺家業を営んでたよ。親父が仕事と言ったらそれしか出来なくて…」


お袋は死んでて、妹がいる。


彼女は、そう言ったーー…





2020.9.13
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