よろしく


綺麗なブロンドの髪。透き通る青い瞳。形の良い唇がバーボン、と口遊むように呼ぶーーー…



「なぁ、なぁ、この女ってあんたたちのなに?」

丸テーブルを囲んでそれぞれ椅子に腰を下ろしてる最中、自分を指差しそう口にする。記憶を失ったにしては嫌にあっけらかんとしているその言い方に三人は眉を寄せる。

ライは足を組み、椅子の背もたれに身を預け面倒臭そうに目を閉じていた。スコッチは未だ彼女のこの話し方に慣れないのかポカンと口が少し開いている。仕方がなくバーボンがその質問に答えた。

「仕事仲間です」

「どんな?ヤバイ系?」

「記憶がないにしてもその頭の悪い話し方なんとかなりませんか?」

ライが車の中で喋るなと言ったのはスコッチと合流して、情報を整理してから纏めて話した方が効率的だったから。しかし今バーボンは別の理由で喋るな、と言いたくなる。

「ストレートすぎだろ。言われ慣れてるからいいけどよ」

「言われ慣れてる?妙な言い回しをしますね。いったい記憶はどこまであるんです?」

「この女の記憶は何もない」

椅子に胡座を掻いて彼女はそう言った。ベルモットが渡した服はジーパンにTシャツとシンプルなもので、その座り方をしても何の問題もないのだが、思わず眉を寄せてしまう。アマレットはそんなはしたない座り方をしない。

「ますます気に入らんな」

同じことを思ったのかライは閉じていた目を開け、そう口にする。眉間のシワは未だ寄ったままだ。ゆらゆらと漂う紫煙がこの部屋の雰囲気をより悪くさせているように見えた。

「銃の扱い方まで忘れてるとか言うなよ?」

「あぁー…この女の銃ってどれ?なに使ってた?」

「これだ」

ライは腰からハンドガンを引き抜き、テーブルの上を滑らすように彼女の元へスライドさせる。カラカラと回って手元にたどり着いたそれを彼女は慣れた手つきで手にする。バーボンとスコッチに緊張が走る。

「この使い方ならわかるよ」

「随分都合の良い記憶喪失だな」

「まぁな。これ使っていいの?」

「元はお前のだ。持ってろ」

「サンキュー」

彼女は嬉しそうに銃を腰とジーパンの間に差し込んだ。

「で、も一つ聞きたいんだけど…」

「なんです?」

「こいつの名前なに?」

三人はまた閉口する。やはり記憶喪失にしてはどこかおかしい。己の名前まで忘れているならまず最初に知りたいのはそこだろう。今度はスコッチが口を開いた。

「アマレットだ」

「アマレット?メンバー全員が酒の名前?」

「ある程度、この組織に信用されたらコードネームが与えられるんだ」

スコッチの言葉に「へぇ」と彼女は感心したように頷いた。視線はそのままスコッチに注がれた。

「あんたなんて人なんか殺した事なさそうなのにな」

スコッチの指先がピクリ、と動く。それは彼がWいい人Wだからそう思ったのか、はたまた別の理由でそう言ったのかは定かではないが、言われた彼の心中は穏やかではなかった。

「そこそこ腕の立つメンツってわけだ」

これからよろしく、と彼女は笑った。





艶かしく聴こえてくるシャワー音。何が悲しくて眉間にシワを寄せた野郎達で聴かねばならないのか。風呂に入っている彼女に三人はその場を動く事なく腕を組んで閉口していた。

今までのアマレットなら部屋は別だ。だがまだ記憶がないのと、言動に違和感を感じるメンバーを一人には出来なかった。


皆、彼女が以前のアマレットではないことに気づいている。

ライが起こしたあの行動で確信した。あのハンドガンはライのものだ。それを彼女は扱ったことがある、W使えるWと言った。自分がアマレットの教育係りだったからよくわかっている。アマレットはあの銃を使ったことがない。

適当なことを言ったのか?

しかし彼女がハンドガンを手にした瞬間セーフティの位置を目視していた。あの手つきは手慣れていた。以前のアマレットには似つかわしくない動き。

アマレットは多少の銃の心得はあったがその程度で、組織の一員とはいえ銃に関してあまり詳しい人ではなかった。


彼女はいったい…



W女みたいじゃないかっ…!W



以前はまるで男であったようなそのセリフにバーボンは眉を寄せる。


今後の動向を注意深く観察する必要があった。




2020.5.4
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