二日目


チュン、チュンと窓の外から聴こえてくる小鳥のさえずり。ベッドで横向きになって寝ている安室の顔は不機嫌に眉を寄せている。

何故、このような顔になっているかというと昨晩に遡る。

食材と三日間必要最低限なものを購入し、夕飯を済ましたところで彼女に眠気の限界が来ていた。安室が風呂から出た時にはソファーで既に船を漕いでいた。

「あの、ナノカさんそこで寝ると風邪を引きますよ?」

変声期を迎える前の声に未だ違和感を感じる。

「うん…」

どっちが子供だかわからない。
半分寝ている彼女を起こそうと彼女の肩に触れる。己の小さな手が視界に入る。肩から手を離し、手の平を見つめる。

明日には元の世界に戻れているのだろうか。こんな訳の分からない事態にどう対処していいのかわからない。

はぁ、と肩を落とす。

「っ!?」

突然ふわっと体が上がり安室はギョッとする。背中に当たる微かな柔らかい感触に慌てた。

「あ、あの!」

ジタバタと手足を動かすが子供の力ではビクともしない。「んー…」なんて覇気のない返事が代わりに返ってくる。

「僕はソファーで寝ますので!」

下ろしてください!と言っている間にも足は寝室へと向いており「はいはい…」と遅れて返事が聞こえてきたと思ったらそのままベッドに倒れるようにして横になる。ポスッ、と体がベッドに沈む。

「ちょ、ちょっとっ、ナノカさん!」

スー、と既に寝息を立てている彼女に信じられない、とわなわなと口を開ける。

ハァ。と子供らしからぬ重い溜息を吐き、安室はポツリと呟く。

「今、下されても困る…」

まぁ、無理もない。夜勤明け。訊けば看護師の仕事をしているという。明日は朝から出勤なんだとか。

買い物からの帰宅後、眠そうな彼女に寝なくて大丈夫なのかと尋ねれば、夜勤慣れした体を一旦リセットするには日中に寝ないで無理に夜まで起きているのだと言う。

本当だろうか。本来ならば安室と今日過ごした時間帯に一度仮眠を取ったいたのではないだろうか。

仕方ない。今日だけだ。タイミングを見計らって抜け出せばいい。

などと思っていたのが甘かった。

終始腕でがっしりと体をホールドされ、解こうとしたら足を絡ませてきた為安室は抜け出すのを諦めた。

お陰でこちらが寝不足である。

ピピピッとスマホの目覚ましが鳴ると彼女は手探りでスマホをタップし目覚まし音を止める。そのまま起きるのかと思いきやその手はまた安室を抱きしめ、寝てしまう。

「ナノカさん」

もう起きる時間だ。気を使わずに存分に起こしに行ける。

「ナノカさん、起きてください」

「んー…あったかい…」

「…っ…」

すり…と首後ろに顔を埋められる。微かな息が頸に当たる。安室は無理やり体を捩り、彼女の頬を軽く抓った。

「いたたた…」

「起きてください、ナノカさん」

怒った口調でもう一度言う。漸く彼女は目を薄く開き、安室を見た。

「おはようございます」

少し掠れた声で彼女も「おはよう…」と言った。





「お世話になる分、ご飯は僕が担当します」

「透くん、料理も出来るんだねぇ」

そういえば昨日も手伝ってくれたっけ、と欠伸をしながらぽりぽりとTシャツの下から手を入れお腹らへんを掻いている。ちらりと見えるおへそに安室は盛大な溜息を吐く。

「ちょっと、そこへ座ってください」

「え、なになに?」

半分寝ている彼女の手を引っ張り無理やり座らせる。膝を抱えて座る彼女に対し、こちらは正座で向き合う。

「残り二日、お世話になるので多少のことは我慢しますが、貴女も一応女性なんですからそういった行動は控えるように」

眠そうに瞬きを繰り返し、こてん、と頭を傾ける。それに安室は眉を寄せる

「わからないようならこのまま説教が続きますが…」

わかりましたか?と少し強めな口調で言えば彼女は「…わかりました」と素直に頷いた。

「では時間もないでしょうから準備して頂いて結構です」

「はい…」

「ってちょっと…!」

何を理解したのか、さっそくその場で着替え始めた彼女に安室は大きく息を吸った。

「服は脱衣所で脱ぐ!」



彼女はだいぶ朝が弱いようだ。安室のことを認識はしているようだが普段無意識にしている行動をそのままにしているようだった。

漸く洗面所へ向かい、大人しく準備している姿を横目に入れ、安室はキッチンを見上げる。

昨夜も思ったが届かない。だいぶ不便である。椅子を持ってくるのも一苦労だ。二つ横に並べてなるべく移動し易くする。昨日買った食材を冷蔵庫から取り出し火をつけようとしたところで彼女の手が重なる。

「慣れてても火と包丁を使う時は十分気をつけて」

先程の寝ぼけた姿とは打って変わり身なりを整えた彼女がそこにいた。低く、けれど優しく耳元で囁くその声に安室は動きを止める。

「……はい、気をつけます」

何故だかそう素直に応えていた。




「わー!ちゃんとした朝食なんていつぶりだろう!透くんありがとう」

ダイニングテーブルに並べられている料理を見て彼女は表情を輝かせる。

いただきます、と二人で手を合わせる。料理を口に運び美味しい、と嬉しそうな顔をして食べる彼女に安室も満足そうに頬を上げた。

「昨日も思ったけど透くんは料理上手なんだねぇ」

「お世話になっているのでこれぐらいは」

「あんまりその辺は気にしなくていいんだからね」

「そういうわけにもいきません」

ぴしゃりと言い放つ安室の言葉に彼女は困ったように笑った。

「わかった。でも火と包丁は念のため私がいる時だけって約束して?」

無理もないか、と安室も苦笑いを浮かべる。自分は彼女から見て子供なのだ。心配するのは当たり前。ここは家主に従うのが正しいだろう。

「わかりました」

「その分お昼は私が朝、透くんの分作っておくよ」

「いえ、その辺はご心配なく。朝食を作る時にお昼の分も作り置きしておきますから」

「すごくない?私が透くんの歳の時そんなこと出来なかったよ」

僕もです。とは言えず苦笑いで返す。食後にコーヒーはどうかと訊けば彼女は嬉しそうに頷いた。




出勤する彼女を玄関まで見送ると彼女は手を出して、と言ってきた。

「はい、これ。私のスマホと家の鍵」

鍵はスペアだけど、と普通に渡してくる彼女に安室は目を見開く。

「いいんですか?」

「うん。パソコンも自由に使っていいけど、あんまり変なのは見ちゃダメだからね」

「僕がいうのもなんですが信用しすぎでは?」

「これでも人を見る目には自信があるの」

笑って安室の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「鍵は渡したけど、一人での外出はなるべく控えて。どうしても出るときは暗くなる前には必ず戻ってくること」

この歳でまさかそんな注意を受ける日が来ようとは思いもしなかったが、子供らしくそこは素直に頷いておく。

「私もあんまり遅くならないようにするけど何かあったらこの病院で働いているから必ず連絡して」

渡されたメモを受け取り、住所と電話番号が書かれたそれを眺めているとスッと彼女の手が安室の頬に触れる。すり、と親指の腹で涙袋より少し下の部分を優しく撫でた。

「ごめんね、私のせいであんまり寝れなかったね。ちゃんとこのあと寝るんだよ」

くしゃり、とまた最後に安室の頭に手を乗せて撫でたあと彼女は「行ってきます」と笑顔で仕事に向かった。

撫でられたところを手で触れる。久々に頭なんて撫でられた。自分が子供だから今のような行為も、無防備な姿を晒すのもわかる。しかし…

「調子が狂うな…」

眉を下げ、困ったように笑いながら零した言葉は誰の耳にも届くことはなかった。





まぁ、これくらいの寝不足なら問題はない。それよりも警察に保護される前に色々とこちらも調べなければならない。

といっても昨日の時点でほぼ答えは出ていた。

此処はもう自分がいた世界とは違う。建造物など、一見同じように見えるが名称が若干異なりそれがなんだがちぐはぐで可笑しく、違和感が凄かった。


テーブルの上には彼女が置いていってくれたお金がある。どれぐらい必要かわからなかったのだろう。ぽんっと置いてある一万円に苦笑いする。

向こうでのお金が使えるかわからなかったから正直助かるが、少しでも彼女の負担にならないようにしなければ。

見知らぬ子どもを、しかも住居侵入罪を犯した人間を彼女は不本意であったにしても家に置いてくれた。

悪用されるなど微塵も思っていないのか子供だと思って油断しているのかスマホもこうして貸してくれる。

お人好し、なのだろうな。

まぁ、お陰でこの世界のことをいち早く知ることが出来たわけだが。

自分のスマホを取り出す。相変わらず圏外のままだ…

「ん?」

ずいっとスマホ画面を近づける。

「日付が一日、戻ってる?」

一週間進んでいた日付は一日前に戻っていた。ついに壊れてしまったのか。それとも違う世界にいるせいでバグが起こっているのだろうか。

まぁ、繋がらないスマホを眺めていてもなにも解決策は見出せない。

「出かけるか」

取り敢えず本当に米花町がないか確認しよう。

昨日彼女に買ってもらった黒い帽子を被り、玄関を閉めて安室は外に出る。

この低くなった目線にも慣れてきた。しかし今まで自分一人で出来ていたことが人の助けがないと出来ないというのはなんとも歯痒いものだった。

スマホの地図アプリを活用し、現在位置を確認しながら安室は電車に乗り、まずは本庁を目指したーー…




ふぅ、と安室は一息つくため公園のベンチに座る。帽子を被っていても真夏の日差しはキツい。

結論から言ってやはりここは安室の知る世界ではなかった。ハロと住んでいたアパートは違う建物になっていたし、米花町や、杯戸町までもが存在しなかった。本庁にも侵入してみたが、安室が知る人物は一人もいなかった。

たった一日しか経っていないというのに長い時間をここで過ごした気になる。

ハロは、大丈夫であろうか。
風見が様子を見に行ってくれていればいいが…。

このまま誰にも連絡が取れないとなると潜入捜査はどうなる。自分と連絡が取れなくなったことで組織から疑われることもあるかもしれない。今までのことが全て無駄になってしまう。

「本当は、死んでたりしてな…」

ハハッと乾いた笑いが出る。ぽたり、と汗が頬を伝って手の甲に落ちた。

今までのことが全て夢で、これが現実なのだろうか。

いや、と安室は頭を横に振る。しっかりしろ。二十九年間生きていたことは紛れもない事実で、自分は降谷零だ。現実逃避をしている暇なんてない。元の世界に戻る方法をなんとしてでも見つけ出さなければ。

もう少し探るか、とベンチから下りる。瞬間ぐらっ、と体がよろめいた。ベンチに手をつき、なんとか耐える。

なんだ…?

熱中症か?いやでもこまめに水分補給はしていたし、他に当てはまる症状は出ていない。

今日はもう帰ったほうが良さそうだな、と考え改め安室の足は駅へと向かった。



普段の体であればあれぐらいの移動距離なんて何の問題もないはずなのに…。思った以上に子供の体は体力を使うらしい。家に着く頃にはふらふらだった。

玄関を開け、靴を脱いだ途端に目眩が起こる。立っていることが出来ず体はその場でへたり込んでしまう。ここに来る前に起こった目眩と似ている。

体が熱く、息苦しかった。
ドクッ…!ドクッ…!と心臓が脈を撃つ。

「ハァッ、ハァッ」

だ、めだ…意識がっーーー…

霞む視界の中、これで元の世界へ帰れたりするのだろうかとぼんやり思う。

W行ってきますW

あぁ、でも彼女に礼ぐらいは言いたかった…と、安室はゆっくり目蓋を閉じたーー…








消毒液の臭いで目を覚ます。薄らと目を開けると白い天井が見えた。

「あっ、目が覚めた?」

ナース服を着た女性が安室に気づき、顔を覗き込んでくる。ここが病院なのだとすぐに理解した。

元の世界に帰れたのだろうか。

点滴されている腕を見る。小さいままのそれに眉を寄せ、目を閉じる。

看護師が点滴の量を確認したあと「ちょっと待ってね、今多田野呼んでくるから」と部屋を出て行ってしまう。

その名を聞いてやはり元の世界ではないのだな、と安室は眉を落とす。

「透くん!」

駆け寄ってきた彼女はそのままぎゅっと安室の頭を抱えるように抱き締めた。

「ごめん!やっぱり一人にするべきじゃなかった」

本当にごめんね、と弱々しい声が頭上に降りかかる。

「ったく!あんたは何年看護師や・っ・て・ん・の!」

パシッと持ってるカルテで一緒に入ってきた先程の看護師が彼女の頭を軽く叩く。バツが悪そうに彼女は体を離し、叩かれた頭を手で押さえている。

「先輩、無理言ってすんませんでした」

「とても救急外来にいた人間の対応とは思えない」

「それを言われると胸が痛いっす」

「ほら、あんたまだ仕事残ってんでしょ。もう小児科来るのはそれが終わってからにしな。後輩に示しつかないよ」

それに彼女は「はい。言う通りにします」と先輩と呼ばれる看護師に頭を下げてから安室に顔を向けて「また来るね」と頭を撫でた。

撫ですぎじゃないだろうか。
文句を言える立場ではないからなにも言わないが。

「新出先生にも謝っておきなさいよ。時間外で診てもらったんだから」

「はい、この後行ってきます」

「あとそんな情けない顔で入院患者さんとこ行くんじゃないよ」

ワンピース姿の先輩に対し、ツーピースに分かれ下がパンツスタイルの彼女の尻をバシッと叩く。「はい!」と言って彼女は部屋を出て行った。

たくっ、たまにアホなんだから、とその先輩は呆れたように彼女が去った場所を眺めながらそう呟く。

目を丸くしてそのやりとりを見ていると先程と打って変わり、穏やかな表情を安室に向ける。

「目眩や吐き気はない?」

「ありません」

「熱は下がったけど、ここでもう少し大人しく寝ててね」

「あの…」

「なに?」

「ナノカさんが僕をここに?」

「そうよー、もう大変だったんだから。外来が終わって帰ろうとしてた小児科の先生ひっ捕まえて、お陰で私まで残る羽目になって」

「すみません」

「君が謝る必要はないわ。体調の変化を見抜けず君を一人にしたあの子に責任がある」

「…厳しいんですね」

「ふふっ、看護師にはね、こんな女が沢山いるのよー。まぁ、今更私が怒ったくらいじゃあの子なんとも思ってないから安心して。救急外来ではもっと厳しくしてたし」

ふふっ、と途端看護師は可笑しそうにクツクツと笑い出した。

「男の影がないと思ったらこんな可愛いボーイフレンドがいたなんて驚きだわ」

じゃあ、点滴が終わる頃にまた来るわね、とその看護師は部屋を出て行く。

ポスッと脱力するように安室はベッドに身を預ける。

やってしまった、と安室は自己嫌悪に陥る。体が縮んだ分今まで蓄積していた疲労が一気に来たのだろう。大人の体であれば問題なかったことが子供の体になり、その限界が来た、というところだろうか。そこまで考慮していなかった。

元の世界に戻りたい一心で変に焦り冷静さを欠くなど…。それが命取りになることを己は知っている筈である。

彼女は安室の目の下のクマに気づいていた。助言を無視した挙句体調管理まで怠るなんて。

さっそく負担をかけてしまった、と後悔するように拳を握った。






「ナノカ先輩もう上がっていいですよ?」

「いや、いい。最後までやってく」

電子カルテに顔を向けたまま淡々と答える。すると後輩があっ、と何かを思い出したように口を開いた。

「そういえばさっきの先輩凄かったですね」

子熊を守る母熊のようでした、という訳のわからないことをいう後輩にナノカは遠い目で電子カルテを見る。

「あんな新出先生も初めて見ましたし」

たまたま近くにいた後輩がその時のことを思い出しているのかしみじみと言う。いつも優しくて穏やかな先生と言われている新出先生だが、安室を抱え気迫迫る表情で走ってくるナノカを見て血相変えて逃げたのだ。何故逃げるのか。後に訊けばナノカの顔が怖くて咄嗟に逃げてしまったと言う。必死に追いかけ、やっと事情をわかってくれた先生は顔を引き攣らせながらもちゃんと診てくれた。

「あんな小さな体なのに疲労と睡眠不足だなんて、最近の子供って大変なんですねぇ」

「ほら、無駄口叩いてないで206号室の検温行ってきて」

それに後輩は「はーい」と覇気のない返事をしたあと、仕事に向かった。

ナノカは見ていた電子カルテから顔を離し、小さく溜息を吐く。

疲労と睡眠不足…か。

Wえっ?過労?W

Wうーん、大人に見られる症状だから疲労と睡眠不足にしたけど、過労に近い症状だよねW

先程先生から訊いた話を思い出す。幸い他に大きな病気も見つからなかったため、点滴が終わったら帰っていいと言われたが、ナノカは深刻そうに眉を寄せる。

休憩中に病院から自分のスマホに電話を掛けてみたが繋がらず、嫌な予感がしたため一度様子を見に帰って正解だった。

玄関で倒れている彼を見つけた時はゾッとした。意識を完全に失っており、呼吸も浅く、脈も不安定。熱は高く、体も震えていた。

それ以降の記憶はぶっちゃけない。彼を車に乗せ、急いで病院に向かったであろうことはなんとなく覚えている。

救急外来時代の先輩が小児科にいてくれて助かった。あのままだったらきっと皆に迷惑をかけていただろう。既に掛けてしまった人には申し訳ないが…。お陰で冷静になれた。もう迷わない、とナノカは婦長へ電話を掛けたーー…





私服に着替え安室がいる病室を訪れる。カーテンを開けると彼は起きていた。血の気が戻っている顔色を見てナノカは安心したように目尻を下げる。

ナノカに気づくと彼は申し訳なさそうな顔で「あの、ナノカさん…」とか細い声が口から出る。

「ちょっとは気分楽になった?」

彼の言葉を遮り、具合はどうかと尋ねる。

「はい…あの…」

「ねぇ、透くん」

喋らせないナノカに彼も薄々感づいたのか次には黙ってナノカを見つめた。少し覚悟があるように見えるその顔に、聡い子だな、と改めて思う。

この判断は間違っているかもしれない。
でも、もう少しだけ君がどんな子なのか、私は知りたいと思った。自分の直感を信じたかった。

だから…

「もう少しだけ一緒に暮らそうか、透くん」

彼は驚いたように目を見開いたーー。






君のことをもっと良く考えるべきだった。慣れない環境でストレスもあったろうし、気を張って、ナノカにまで気を使って、朝ご飯まで作ってくれて…

W三日、だけでいいんです。あとは自分でなんとかしますW

出来るわけないじゃないか。
なにも持たない子供が、残り二日で何かを見出そうとするなんて不可能だ。

倒れていた彼は帽子を被っていた。脱ぎ捨てた靴を見るに外に出ていたのだろう。どこに行っていたのかはわからない。けれど、気軽に遊びに行くような子にも見えなかった。

もしかして、何かを探してるの?

彼はナノカのスマホを必死に見ては何かをずっと検索しているようだった。申し訳ないが履歴を見させて貰ったがその履歴は消されていた。

ナノカに知られたくないことがあるのだ。でも、ナノカを利用しなければその探し物とやらは見つけられないのではないだろうか。このまま警察の所へ行くのを匂わせればナノカの元を離れ、彼はまた別の家に転がり込むのだろうか。安全な人かもわからない、知らない誰かの家に。

それなら、と君の探し物が見つかるまで、君に付き合おうじゃないか。


それまで、君のそばにいる。


「まずはお布団!買いに行こう!」


未だ驚いてる顔のまま固まっている彼にナノカはそう微笑み掛けた。




2020.8.5
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