電話
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夜、布団に入りウトウトし始めたころにブブッとスマホが短く震えた。
メールだ。もう眠いし見るの明日でいいかな…
「・・・・」
あー…でも急ぎの用かもしれない。
迷った挙句名前はスマホを手に取る。暗闇に慣れた目は急に明るくなった画面にすぐ様対応できず、目を細める。
ん?
ん〜?
送られてきたメッセージと送り主の名に一気に目が覚める。
最近やり取りをするようになった意中の男性からだった。
【今、電話してもいいですか?】
確認するように顔を近づけ、何度も何度も読み返し見間違いではないことを確かめる。
返信を…
は、はやく返信を打たなければ。
「だ…だいじょうぶ…ですよ、と」
緊張で指先が震える。送信をタップし、「お、送ってしまった」と何故か正座して電話を待つ。
すぐに掛かってきた電話。安室透の名前が表示され、それだけでもすごく胸が高鳴った。
「も…もしもし、」
《名前さん、夜分遅くにすみません。もしかして寝てましたか?》
いつもより低く、耳元での彼の声は電話だとまた違って聞こえた。
「いえ、起きてました」
そう応えると彼がクスッと笑った。
《声が眠そう》
クスクス笑う彼に口元が変にもにょもにょしてしまう。バレてしまった恥ずかしさと、緊張とで上手く笑えない。
何だろう。この男性特有の笑うと喉仏が震える感じがもろにわかるというか…それがまた名前の心を擽るというか。
《おやすみのところすみません》
電話に出てくれてありがとうございます。と彼は言った。私こそ、メッセージ嬉しかったです、とこのまま素直に返せたら少しは可愛げがあったのかもしれない。口は未だ変にもたついて、心に思っただけで、上手く言葉にすることが出来なかった。
「い…いえ…」
もっと気の利いたこと言えないの?と自分自身を詰る。
「それで…あの、どうされましたか?」
彼も家にいるのだろうか。やけに周りが静かだ。
《あなたの…声がききたくて》
はっ……
スマホを持ったまま固まってしまう。
え?聞き間違い、じゃないよね…
冗談?え、冗談?笑い飛ばすべき?
それとも私も声が聞けて嬉しいですって正直に言う?
「わっ…え、…はっ…」
上手く処理されないまま口から出た言葉はなんとまぁ中途半端なもので。
こちらが困ってることがわかったのか彼はまた小さく笑った。
《冗談です》
笑ってる、けど。
少し…寂しそうに聞こえたのは私の都合の良い耳のせいだろうか。だけど、電話に出た時から元気ないな…って思った…り
「あ…あの…安室さん」
《はい》
「きょ、今日は確か満月でして!」
名前はベッドから降り、カーテンを開ける。
「とっても、綺麗だとききま、し…た」
見慣れた白い車が家の前に停まっており、見間違いかと二度見する。
「そ…れで…」
送ってもらったのはたった一度だけなのに…
「あの…」
スマホを耳に当てたまま彼が車から降りてくる。心臓が痛いぐらいに跳ね上がった。
空を見上げた彼に名前は問う。
「見え…ますか?」
《はい》
短くそう応えただけだったけど、少し嬉しそうな声に聞こえたのは彼の横顔がそんな顔をしていたから。
「明日もポアロ…ですか?」
《はい》
「何時からいますか?」
《15時には入ってます》
「会いに…行ってもいいですか?」
質問ばっかりだ。本当はどうして家の前にいるんですか?とか。どうして会いに来てくれたんですか?とか。訊きたいことは山ほどあるのに…
《はい》
優しく、そう応えてくれた彼に名前の頬は上がる。「また明日」と彼に告げると耳元で《おやすみなさい》と囁かれたその声に名前の目尻は嬉しそうに下がった。
結局彼はこちらを見ることなく帰ってしまう。走り去る車を見つめ名前は思う。
明日、勇気を出して告白してみよう。
そう胸に誓い、明日を待ちわびて眠りについたーー…
終わり
2020.9.18
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