予想外な言葉



「名前さん?」

「え?安室さん?」

思いがけない人物に会い、心は踊る。こんな所で会うなんて奇遇ですね、とコンビニ内でお互いカゴをぶら下げてこんばんは、と頭を下げる。

「スーツ姿の安室さん、初めて見ました」

「今日はクライアントと会う予定でして、毛利先生に倣ってスーツを…。名前さんこそいつもよりお洒落な格好をされていますね」

「実は合コンの帰りでして…」

「…合コン?」

「はい!数合わせで行っただけだったので、私は一次会で抜けさせてもらったんですけど」

安室がこちらのカゴの中をチラっと見たのがわかった。酒缶とつまみが入っているのを見られバツが悪そうにカゴを背中に隠す。

「実は、話を聞くのに夢中であまり食べられなくて…」

「夢中…?」

何故か眉を寄せる彼。別に言い訳をする必要は何もないのに気づけばその理由を口にしていた。

「車好きな方たちだったようで、つい聞き入ってしまいました」

スポーツカーに乗る安室だ。きっと彼も車に詳しいはず。今度ポアロで会った時に少しでも話のタネになれば…なんて下心の元で聞いていたなんて口が裂けても言えなかった。

「だからその…呑み足りなくて…」

「なら一緒に呑みませんか?」

「え?」

「実は僕も仕事が終わって家でゆっくりしようと思っていたところなんです」

ほら、と彼が自分の持っているカゴの中を見せる。同じ様に入っている酒缶とつまみに可笑しくて笑った。

誰もいない夜の駐車場。二人で縁石に座り缶の蓋に指をかける。プシュッと飛沫を上げて中からシュワシュワと聴こえる炭酸音に喉が鳴る。

「乾杯っ!」と缶を当て、ゴクゴクと呑む姿を見て「いい呑みっぷりですね」と彼は笑った。

見慣れないスーツ姿の彼をチラリと横目で見る。いつもポアロではカウンター越しの対面で会話することが多かったため、隣に座る彼に少々緊張してしまう。縁に口付ける下唇。缶を傾け、喉に流し込む度に動く喉仏に思わず釘付けになる。

「ん?なに?」

缶から口を離し、彼の目が私を捉える。その瞳を間近で見る度胸はなく、誤魔化す様に酒を流し込んでから小さく笑った。

「しゅ、就活生…みたい、です」

うそ、めっちゃ仕事出来るビジネスマンに見えます。

「あー…やっぱり少し着せられてる感出ますかね?」

困った様に笑う彼に、あぁなんでそんなこと言っちゃうかな、私のバカー!と心の中で己を詰る。

「で、でもカッコいいです!」

「名前さんだって、今日はすごく可愛い格好してる」

ゴホッと酒が変なところに入る。口隅に溢れた酒をハンカチで拭いながら、落ち着け、落ち着くんだ、とおちゃらけた返しをする。

「W今日はWってなんですかも〜」

「そうですね。あなたはいつも可愛いです」

あわあわあわ。お世辞だとわかっていても心の中は大慌てだ。本当にそう思ってくれてるかどうかなんてわからな…

「夢中で話を聞く時に可愛く頷く姿を彼らも見たと思うと正直面白くないです」

聞き間違い、じゃ…ない。耳が燃えるように熱い。な、なんて返したらいいのだろう。

「今日どなたかと連絡先を交換しました?」

熱が冷める間もなく彼は手に持っている酒缶に視線を落とし、ふとそんなことを訊く。伏し目がちの睫毛がなんだか色っぽかった。

「実はスマホを家に置き忘れて」

パッと彼が顔を上げる。少し驚いた顔をしている彼に困った様に笑いながら「それもあって先に抜けさせてもらったんです」と赤い顔を隠すようにヘラヘラと笑った。

「やる気ゼロですよね。相手方に悪いことしちゃいました」

ハハハッと乾いた笑いで誤魔化す。こてん、と肩に乗る微かな重み。彼の頭だと気づいた時には目玉が飛び出るかとおもった。

「あ、あああ安室さん!」

こちらに寄りかかっている彼に戸惑う。

「よ、酔ってしまったんですか?」

「酔ってしまったみたいです」

クスクスと笑う彼に揶揄われているのだと気づき頬を膨らませる。

「私はあまりそういったことに慣れてません。…ので、その…勘違い、します」

「どんな?」

「えっ⁉︎ど、どんなですか?」

「はい。どんな勘違いをするんですか?」

「…き、なの…かなー…って」

「あの…」

「は…はい…」

「もう一度、言ってください」

「えぇ⁉」

「お願いします。聞こえませんでした」

「だ、だから!好き、なのかなー…って…」

「はい」

「はいって…あの、」

「合ってます」

W合っているWっていうのはつまり…つまりはその…彼も自分と同じ気持ちと思って良いってことで、今のは告白ととっても…

「名前さん」

「は、はははい!」

「もう合コンは行かないって約束して」

鎖骨に彼の吐息が掛かる。熱が篭ったそれは体がトロトロに溶けてしまいそうだった。いつも爽やかにニコニコしている彼からこんな色っぽい一面があるとは想像もしておらず、いや!カッコいいとは思っていたけれど…

「僕以外の男とこうして酒盛りするのも禁止」

「あ、あむろさ…」

「夢中になって話を聞くのも僕だけにしてください」

「ちょっと待っ…」

「そんな着飾った姿も、酒に酔った無防備な口も、笑うと出るえくぼも、他の男に見せたくない」

「こ、こ、こっ…」

やばい、言葉が出てこなくてニワトリみたいになってしまっている。どこから応えていけばいい?まず私も好きですから言った方が…
肩に乗っている彼の頭がもぞりと動く。ビクッと体が過剰に反応してしまう。

こんな彼を知らない。積極的でちょっと意地悪で、なんなら少し束縛強めなことを彼が言うなんて予想外だ。

ぐるぐると目が回る。そんな自分をお構いなしに彼は名前の耳に唇を押し当て「返事は?」と低く囁かれる。

右手を勢いよく上げ、元気よく「はい!!」と色気も何もない返事をしたのだったーー…。


おわり
2020.10.31
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