裏切り
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射線が切れてることを確認しながら逃げていたつもりだったのに、もう一人いたことに気づかなかった。逃走中、相手の撃った弾が土手っ腹に穴を開ける。
物陰に隠れて暫くやり過ごしていたが出血が酷くて動けなくなっているのをバーボンが見つけてくれた。いつも世話になってる医者が捕まらなくて、最悪なことにバーボンがスマホで医者と電話しながら腹に入ったままの弾を抜き、縫合までした。
そのまま気絶して、丸一日死んだように寝る。起きるとバーボンが額にあったタオルをちょうど取り替えるところだった。
「起きました?」
「ばー…ぼん…?」
「お水、飲みましょうか」
バーボンが吸い飲みを持ってくる。先端を口に咥えさせるとゆっくり水を飲ませてくれた。こくん、とゆっくり飲み込むと「ん、上手に飲めましたね」なんて小さい子を扱うように頭を撫でる。あれ、あなたもっと冷めたいイメージがあったんだけど…
てっきり今回の失敗について嫌味の一つや二つ遠回しで言われると思っていた。看病だって自分でせず、医者のところに任せると思っていた。無理ならキールかスコッチあたりに頼むと思ったのだ。
ぼんやりと天井を見つめる。
今、何時だろう。窓がないからわからない。するとひょこっとバーボンが顔を覗かせる。
なんでそんな嬉しそうな顔で見下ろすの?ちょっと怖いんだけど。
「スープ飲めそうですか?」
こくり、と頷くと彼は背中に手を回し体を少し起き上がらせてくれた。
浅皿に入ったスープは薄い黄金色。
スプーンで掬って、それを口の前に運ばせてはコードネームの口の中に入れる。具は一切入ってないのにそのスープは様々な味がした。わざわざ、作ったのだろうか。というか具がないならさっきの吸い飲みでよかったのでは?
その後は汗を掻いた体を温タオルで拭いてくれたり包帯を変えたり色々介抱してくれた。
甲斐甲斐しい彼に、背を向けてハンドガンの整備をしているバーボンに何故だか問う。
不思議そうな顔で、座ったまま上半身だけをこちらに向ける。椅子の背もたれに腕を乗せ、そこに顎を乗せた。
「覚えてないんですか?」
こてん、と頭を傾ける彼にえ?と今度はコードネームが不思議そうな顔をする。パチリ、と目を瞬かせるとやれやれ、とため息をついて彼は体をまた前に戻してしまう。
「貴女のこと調べさせてもらいました」
落ち着いた声で話すその背中にドキリ、と心臓が音を立てる。
ヤバイ、もしかしてNOCなのがバレた?
なら何故生かしたりなんか…。いや理由なんて一つに決まってる。このまま拷問されて、情報を引き出すつもりなのだ。
「まぁ…安心しました。薄々はそうでないかと思ってましたから…」
体は動きそうになく、舌を噛もうとしていたコードネームはその言葉に動きを止める。
「……え?」
彼は立ち上がり自分が眠るベッドに腰掛ける。
「あぁ、その顔は僕のことは全く疑ってなかったんですね。なら尚更…組織の人間に心を奪われるなんて…」
ダメじゃないですか。とぎしり、と古いマットレスが沈む。彼の言っている意味が分からずただただ困惑している自分を他所に彼の顔が近づいてくる。
「…ねぇ?」
互いの吐息がかかるほどの至近距離。胸が高鳴っているのは正体がバレてしまったのではという恐怖心から。
唇が触れるか触れないかの距離で彼はフッと笑った。唇に柔らかくかかった吐息にゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
「苗字名前、さん?」
再度舌を噛もうとすれば彼の親指が口の中にねじ込まれ、阻止される。
あぁ、この男に…殺される。
そう思った。目を瞑り覚悟を決める。
「っ!?」
優しく触れた唇に名前の目は大きく開かれたーー…
彼女は覚えていない。生と死の狭間で秘めていた気持ちを彼に告げていたことを。
W愛してる…愛してるの…バーボンW
血塗れの手でバーボンの服を握りしめ、キスまで迫ったことを、彼女は覚えていないのだーー…
おわり
2020.9.28
いいね♡
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