Largo


黒い瞳




ヒューズが死んだ。


正確には殺された、だ。

彼の人柄に惹かれた者は多く、葬式には多くの参列者がいた。本日は憎らしい程の晴天で。まるで明るい彼を表しているみたいだった。
実際、あの世で「しょうがねぇな」などと笑っているのかもしれない。

本当に、よく晴れた日だった。

彼の補佐官をしていたエナン・ガーネットは涙するわけでもなく、哀悼の意を表するわけでもなく、ただ立っていた。

何も読み取れぬあの表情で、ただただ、柩を見ているだけだった―――……





東方司令部から中央司令部へ移動してから2週間が経過した。

「本日付けで軍法会議所からこちらの勤務となりました」

エナン・ガーネットです。と敬礼する彼女を皆で見つめた。ロイは彼女に軽い挨拶をし、空いているデスクへ座るよう指示した

ドサッと軍法会議所で使用していたものを置くとテキパキと机に収めていく。

「ちょ、ちょ、ちょっ!どうするつもりなんスか大佐ぁ」

そろりと大佐に近づき彼女には聞こえないような小声でハボックは耳打ちする。
そろそろと他の者たちも同じように近寄ってくる。

「俺いやですよっ空気悪いまま仕事するの」

「クール役はホークアイ中尉で十分です」

「冗談通じなそうだしな」

「な、なんだか怖いですよね」

「お前ら寄るなっ」

シッシッと野良犬を手で追い払うように野郎を散らす。
渋々自分たちのデスクへと戻っていく部下たち。

もう仕事に取り掛かっているエナンを四人はそろりと見ては互いにため息をつく。しばらくしてやっと仕事に取り掛かった。

今だ居心地悪そうな彼らを尻目にロイはちらり、と彼女を盗み見た―――……


葬式の日、アームストロング少佐を人気のないところへ呼び出し事件のあらましを聞いた。

誰にやられたのか。
何故、狙われたのか。

彼はヒューズの死についての直接的な質問には一切答えなかった。

そこでロイが次に質問したのはエナン・ガーネットについてだった。

「彼女を…疑がっておるのですか…?」

心外とでもいうように弁護しようとする少佐。自分より一年も前から彼女のことを知っているのだ。情が移っていて当然である。

「参考までにだよ少佐。このあと彼女にも聞きに行く」

少佐には悪いがその嘘で渋々口を開いてくれた。

彼の話しによればその日ガーネットを目撃したのはヒューズ以外に兄弟の幼なじみとアルフォンス・エルリックのみ。

エドワードが入院している病室まで送ってもらうと彼女はすぐ帰った、とヒューズは少佐に話している。アルフォンスが目撃したのはそのすぐ後だ。

それきり彼女の目撃証言は誰からも得られていない。軍部にも顔を出していなかったという。

つまりヒューズが殺された時間、彼女にはアリバイがない。

彼と一番近しい人物からまず疑うのが事件解決の糸口なのに。なのに、エナン・ガーネットに関しては軍はノータッチなのだ。取り調べもしなければ、素性も洗い直さない。葬式で涙一つ流さない、無表情の補佐官を見て彼女を疑うものは多かった。

そんな彼女を引き抜いたのだ。部下たち含め騒がれるのは当然である。

それでも傍で観察する必要があった。

“エルリック兄弟”

“賢者の石”

“中佐を殺害したと思われる者達”

“目星はついているがどこの誰だかもわからない”

少佐がくれたキーワード。
そしてヒューズの残した“軍がやばい”

それが彼女を差しているとは限らない。けれど複数の中に彼女がいる可能性はある。ヒューズの死に、関わっている可能性がある。


逃がすものか。


例えそれが昔の友人に似ていようが構わない。


もしヒューズを手にかけていたとすれば尚更だ。


決して赦すものか。



「…………」

パサッと目の前に一枚の紙が横切り、現実世界に引き戻される

「眉間にシワが寄ってますよ」

中尉の言葉で初めて気づく。目つきが鋭くなっていること。自然に溶けていく眉間のシワと警戒心。やれやれ、と己にため息をつき、ロイは渡された書類に印を押す。


ギュッと押された用紙は少しひしゃげた―――……



終わり
更新2012.5.31

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