ナマエは久しぶりの休みに特にやることもなくベッドで寝転びながら暇を持て余していた。そんなところにやってきたのがエルヴィンで、わざわざ私室に出向いてくるなど今までなかったものだからそれは驚いた。ついに壁でも壊されたのかと慌てて体を起こすが彼の口から出てきた言葉に思わず力が抜ける。
休みのところを悪いんだが、と前置きした上でエルヴィンは淡々と要件のみを述べていく。プライベートだともう少し可愛げがあるが生憎今は完全に仕事モードなのだろう。ぼんやりとそんなことを考えていると聞いているのかと問いただされて慌てて思考を切り替える。


「ナマエには午後から104期訓練兵の実地訓練に教官として参加してもらいたい」

「え!?嫌だよ!無理!」

「悪いがこれは決定事項だ。今すぐ着替えてくれ」

「私は今日休みなのよ?それに教官なんて…もっと適役がいるでしょ?」

「休みはまた別の日に調整しよう。頼む…他に予定が合うものがいないんだ」

「…卑怯だよ、そんな顔」

「さて、どんな顔かな?」

「(白々しい…)…わかったわよ!着替えるから出て行って!」


今更着替えくらい、と伸びてきた腕を叩き落としてエルヴィンを追い出すと鍵を閉める。時計を見るともうすぐ訓練の始まる時間で、もうちょっと余裕をもってくることは出来なのかと文句を吐きながら慌てて着替えた。いつの間にか机に置かれていた紙の束を手に取ると今日の訓練内容にざっと目を通して早足で部屋を出る。

実地訓練とは言わば立体機動の訓練のことだ。兵団内にある巨大樹の森に見立てた林を実際に立体機動で駆け回りその使い方を体で覚える。懐かしいな、と思いながら外へ出ると訓練兵はすでに整列していてナマエが姿を見せると一斉に敬礼をする。片手を上げてそれを直させるとこほんと咳払いをひとつして声を張り上げた。


「本日訓練を指揮することになりましたナマエ・ミョウジです。調査兵団で分隊長をしています。本来の教官がこれなくなったので急遽代役としてきました。皆緊張せず、いつもどおり訓練に励んでください」


ざわ、と一瞬どよめいたがすぐにそれはおさまった。各自立体機動を装着し、ナマエの合図でそれぞれがガスの音とともに空へと飛び立つ。全員が森に入ったところでナマエもガスを吹かしながら後を追った。1人1人の動きを観察しながら邪魔にならないようにその周りを飛んでいく。的確なアドバイスしながら自由に飛びまわるナマエの動きはまだ訓練兵になって間もない者たちから見てもとても美しく思わず見とれてしまう程のものだった。


「!…ジャン・キルシュタイン!前を見なさい!」

「え?…ぅおッ!」


慌てて体勢を崩した彼の前には気づけば大木が迫っていて、このままではぶつかってしまう。今の勢いだと軽いけがでは済まないだろう。ナマエはガスを吹きながら急いでそこへ向かうと寸前で彼と木の間に己の体を割り込ませ自分の体をクッションにしてその身を守った。年下とは言え男の体で押しつぶされ、それに立体機動の勢いも加われば相当な圧力となる。何とか衝突は免れたものの、自分と硬い木の間とで挟まれた小さな上官の姿にジャンは顔を青くした。何とか下に降り木にもたれながらずるりと座り込むと目の前で慌てふためくジャンの頬を叩く。


「どういうつもり…?」

「は、…お、俺…」

「訓練だからと気を抜いていれば今のような事故にもなりかねない。集中しなさい」

「す、すみませんでした…!」

「わかれば、良い。悪いけど訓練は中止…みんなに伝えて」

「ナマエさんは、…」

「私のことは良い。早く行きなさい」

「はっ!」


ジャンが飛び立つとナマエはずきりと痛む肩に手を添える。折れてはいないだろうが咄嗟に体を割り込ませたために変な体勢で押し付けられたのだろう。エルヴィンに怒られるな、とため息をつき目を閉じるとナマエの意識は遠のいていった。