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はっと気が付いて目を開ける。見慣れない天井に違和感を覚えながら体を起こすと、薄暗い部屋を見回してようやくそこが自分の家ではないことを思い出した。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。ちらりと覗いた窓の外ではすっかり日が沈んでいた。


「あれ…?」


ベッドから立ち上がると腹の上から何かが滑り落ちる。拾い上げるとそれは薄いブランケットで、広げた拍子にふわりといい香りがした。誰がかけてくれたのだろう。ナマエは首を傾げながらそれをキレイにたたむと身支度を済ませそっと部屋を出る。仕事は明日からで良いと言われたが、夕食の片付けにでも間に合えば手伝おうと昼間の記憶を頼りに薄暗い廊下を歩いていった。

調理場に続く扉を開けて入ると中には誰もいなかった。片付けも、翌日の仕込みまで全て済んでしまっているらしい。何となく肩を落としながら、それでも中に入りランプに火を灯す。明日からここで正式に働けるのだ。そう思うと嬉しくて自然と頬が持ち上がる。今から部屋に戻ったところでどうせ寝られないだろうし、ならば掃除でもしようかと道具を手に取ると同じようなタイミングで渋い音をたてながら静かにドアが開いた。


「……ナマエ?」

「あ、…団長、さん…」


顔を出したのはエルヴィンだった。大きな目を少し見開いて驚いたような顔をしながら食堂へと入ってくる。


「明かりが漏れていたから誰かと思えば、…やはり君だったか」

「す…すみません…」


ナマエは少し気まずそうに視線をそらしながら何となく手に持ったブラシを背に隠しもう一度小さく謝る。


「怒っているわけじゃないんだ。しかし、仕事は明日からのはずだろう?こんな時間にどうしたんだ?」

「そ、その…待ちきれなくて…」

「…ふっ、…はは…そうか」

「はい…あの…でも、やっぱり部屋に戻ります。夜中に物音立てたらうるさいだろうし…」

「兵舎とは離れているし多少の物音は大丈夫だろう。君がしたいようにすればいい」

「ありがとう…、ございます」


取ってつけたような敬語にエルヴィンは思わず苦笑する。以前自分の話しやすいようにしてくれて構わないと言ったことは忘れてしまったのか、或いは母親にきつく言われたのかもしれない。それにエルヴィンが団長なのだと知ってしまった今、同じように言ったところでおそらく口調を崩してはくれないだろう。隠しておくことなど出来なかったことはわかっている。しかし、出来ればナマエとは対等でありたかったと、そう思う心も確かにエルヴィンの中にはあったのだ。