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まだ空が暗いうちから祖母の家へと向かった母と弟を見送ってナマエも身支度を整えると家を出た。今日から調査兵団での仕事が始まる。

兵団側の厚意で住み込みで働けることになり、小さな麻袋に収まる程しかない生活用品を持って兵団までの道を歩いていく。悪いことをしているわけではないのに何故か何時もより人の目が気になった。体を縮めて逃げるようにしながら兵団へ向かう足を速めた。


「ナマエさん!」

「!……あ、」


門の前まで行くと一人の女性が駆け寄ってきた。彼女はニファといってナマエとさほど見た目は変わらないように見えるが歴とした調査兵団の兵士だ。余談だがナマエの初仕事の日に初めにスープのおかわりを申し出たのも彼女である。


「また会えて嬉しい。私のこと覚えてる?」

「もちろん、覚えてる」

「良かった。団長からね、貴女を案内するように言われてるの。今日からここに住むんだし、兵団内のことある程度わかっておいた方がいいでしょ?」

「あ、よろしく…お願いします」

「うん、よろしくね」


ニファの後ろについて兵団内に入る。中は構造こそシンプルだが思ったよりもだいぶ広くすべて覚えるのにはしばらくかかるだろう。とりあえず用意してもらった自室と仕事場になる調理場への道だけ何度も往復し頭に叩き込んだ。


「わからないことがあったら私でも、通りかかった人とか誰でも良いから聞いてね。ナマエさんのことは皆に伝わってるからちゃんと教えてくれるよ」

「うん、ありがとう」

「あ、仕事は明日からでいいって。今日はゆっくりしてね。兵団内も今案内したとこだったら自由に歩き回って良いから」

「うん」

「……あのね、こんなこと言ったらあなたのお母さんや他の調理員に失礼かもしれないけど、来るのを楽しみにしてたの」

「え…?」

「あなたのスープとっても美味しいから。明日からご飯が楽しみ」

「…ありがとう、その…嬉しい。頑張ります」

「ふふ、…改めてよろしくね」


差し出された手を慌てて握る。それから仕事に戻ると言うニファを見送って部屋に入った。どうやら掃除をしてくれたようで埃などは見当たらない。
部屋の中にはベッドと机、それに洋服がしまえるクローゼットなど充分すぎるものがあった。しかし自分の部屋など持ったことがないから何となく居心地が悪い。そわそわしながら意味もなく部屋の中を歩き回ったあと、ようやくベッドの端に落ち着き小さく息を吐いた。