同じ書き出しから書いてみたA

Twitterでフォロワーさん主催の「#同じ書き出しから書いてみたHL」に参加させて頂いた時に書いたお話のまとめAです。
今回お借りしたお題:あなたに書いて欲しい物語3


「愛したこともないくせに」で始まり、「そっと立ち止まる」がどこかに入って、「優しいままではいられない」で終わる物語
(Sebastian×転)

愛したこともないくせに、どうして愛を語れよう。
 魔法に長け、自身は悩みなんて一つも持っていないかのように平然とした顔で、皆の悩みを解決していくお人好しの転入生。それがきっと大半が私に抱くイメージだ。古代魔術という特殊な力を持っていたって、恋もまともにした事のない平凡な一人のこどもだというのに。
「どうかしたのか」
 もうすっかり耳に馴染んだ声が聞こえてそっと立ち止まる。振り返るとカフェノワールの瞳と目が合った。
「セバスチャン、」
 名前を呼ぶと、彼は口元を少し緩めて微笑んだ。それが視界に映るだけで胸が痺れるような心地がする。
「下を向いて、珍しく落ち込んでる様に見えたから心配したけど、元気そうだな」
 そんな優しい事を言う男の子に鼻の奥がツンとして、愛しさが込み上げてくる。けれど同時に、もっと自分のことを見て欲しい気に掛けて欲しいという、泥水のような淀んだ弱々しい感情も湧いてきてしまう。
 彼の事が好きだと分かるのに、この感情を愛と呼んで良いか分からない。けれど彼の瞳が自分以外の誰かを写すのは嫌だった。
 だから私はこれを私の愛とすることにした。ただ優しいままではいられないのだ。


「涙が頬を伝う」で始まり、「全ての出会いには意味があるらしい」がどこかに入って、「何度だって伝えるよ」で終わる物語(Sebastian×転)
※本編エンド後ネタバレ

涙が頬を伝う。この一年間、出会ったばかりの頃には想像もしていなかった幾つもの問題を共に乗り越えてきた彼女が、泣いている姿を見るのはこれが初めてだった。
 綺麗に立ち並んだ墓標のうちの一つの前で、僕達は肩を並べて座り込む。彼女の手の中には、白い薔薇の花束。尊敬する恩師に贈りたいのだと言って、此処へ来る前に寄った店で購入したばかりのものだった。
 花屋に入るのは気恥ずかしく僕は店の前で待っていた。一人で入った彼女が少しの時間を掛けた後、その両腕に抱えて出てきた折目のひとつもない美しい包装紙に包まれたそれは、それはとても美しかった。僕が先生も喜ぶだろうと言えば、彼女は蜂蜜色の瞳を細めて柔く微笑んでいた。
 全ての出会いには意味があるらしい。彼女と、この土の下で眠っている彼の出会いもまた、意味があったに違いない。
 そっと彼女が腕をのばし、その美しい花束を石の袂に添えた。微かに震える背中を僕はただ静かに摩る。そうする事で君は一人ではないと、僕は何度だって伝える。


「彼は消えたいと言った」で始まり、「泣くこともできなくて」がどこかに入って、「それが君にふさわしい終わり方」で終わる物語(Poppy×転♂)

彼は消えたいと言った。ディリコールのようにぱっと、或いはデミガイズの様に誰の目にも触れないように。最初にそう言った時点で最早意味もなさないのに、心配させまいとしたのか彼はいつも通りの笑顔を私に見せようとして、失敗して変な顔になっていた。
「は、は・・・」
 彼もそれが分かったのか、力無い笑い声を漏らすと私から目を逸らして頭を垂れてしまった。綺麗な旋毛が見える。
「きちんと泣くこともできなくて、可哀想な人」
 彼は変わらず俯いたまま。こうして落ち込む理由はきっとあのスリザリンの二人の所為だ。それが分かっていて、あの二人にも目の前のこの人にも腹が立つ。
 苛立ちのままに旋毛をぐ、と人差し指で押すと彼は大きく肩を跳ねさせた。まんまるく見開いたパフスケインのような双眸が、その内にまた私を写す。
「そんなに悩んで禿げちゃえば良いよ」
 それが貴方にふさわしい終わり方。


「変わらないものが欲しかった」で始まり、「手のひらから零れ落ちた」がどこかに入って、「どうか気付かないで」で終わる物語(Sebastian)

変わらないものが欲しかった。僕の全てを捧げて貫き通せるものが。もう既にひとつは生まれながらにして手にしていた筈なのに、いつの間にかするりと手のひらから零れ落ちてしまった。それは鼠色の鉛に変わり、僕の身体を重くしていく。
「また此処に居たんだ」
 地下聖堂の暗い雰囲気には似つかわしくない、澄んだ声が響いた。何故かお菓子の箱を沢山抱えた転入生が入口の格子の前に立っている。
「どうしたんだ、それ」
 到底一人で食べ切れる量ではないそれに、僕は一旦腹に沈む鉛を忘れて口角を上げる。
 皆からのお礼だと笑い返してきた彼女の言葉に納得する。折角綺麗に結われていただろう髪も所々乱れ、ローブも埃だらけだった。皆のお願い事を聞く為に今日も慌ただしくホグワーツ中を駆け回っていたらしい。ずしり、と身体がまた重くなったような心地がする。
「・・・僕の頼みも聞いてくれるか」
 当たり前のように隣に腰を降ろし一緒に食べようとお菓子の包みをひとつ差し出した彼女にそう問うと、一瞬の迷いも見せずに勿論という答えが返ってきた。
「頼みってなあに?」
 首を傾げ此方を見上げる瞳に、この鉛をぶつけるのは躊躇われた。言葉に詰まる。その顔が少しでも歪む様を目にするのが恐ろしかった。
「いや、今は大丈夫なんだ。ありがとう」
 僕のこの気持ちに、君はどうか気付かないで。








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