同じ書き出しから書いてみた

Twitterでフォロワーさん主催の、『こんな話いかがですか』さんからお題をお借りして、同じ書き出しからかいてみようという企画に参加させて頂いて書いたお話です。


「やあ、また会ったね」という台詞で始まり「笑顔からこぼれ落ちる涙が光を纏って美しいと思った」で終わります。 (Sebastian)

「やあ、また会ったな」

それは僕と彼女の間での決まりの挨拶のようなものだった。
軽い調子のその言葉を紡ぐまでに、今の僕は実際どれ程の時間を有したのだろう。
最後にその姿を目に留めた時からすっかり伸びた彼女の豊かな髪が、夕日に照らされて朱く染まっていた。一人でじっと遠くの景色を見下ろす表情がやけに大人びて見えて、声を掛けるのに躊躇ってしまった。
五年生の時の一連の出来事があってから、僕はそれまで通りの学生生活というものを送ることが出来なかった。それは自分がしでかしてしまったことの罪深さや、必死で止めようとしてくれた転入生とオミニスへの罪悪感と、アンが僕の元を去ってしまったという喪失感からだった。
授業以外の殆どをあの暗い地下聖堂で過ごし、時々そんな僕を見兼ねた転入生とオミニスに連れられて三本の箒にバタービールを飲みに行ったりもした。
それでもずっと僕の心の奥底には鉛が沈んでいて、君の笑顔を視界の端に映す度に焦がれて目頭が熱くなるのに、声を掛ける気分にはなれず、これが贖罪だと自分に言い聞かせた。
勝手に君と離れる選択をした僕に抱くのは怒りか、呆れか、直接尋ねる事が出来ないままホグワーツを卒業した。

「またって、何年ぶりだと思ってるの⋯?」

此方に背中を向けたまま振り返らない彼女の、悲痛な涙混じりの声に胸が締め付けられる。肩が小刻みに震えていた。僕は堪らず彼女の元へ駆け寄り、その小さな身体をこの身で包み込む。

「ごめん、」
「・・・許さない。もう勝手に離れないで、ずっと傍にいて」

そう言って僕を見上げた君の無理矢理の笑顔からこぼれ落ちる涙が、光を纏って美しいと思った。


「今世紀最大の一大事だ」で始まり「暖かで優しい感情を貴方が教えてくれた」で終わります。(Ominis)

今世紀最大の一大事だ。
まさか自分が彼女とダンスパーティに行く日が来ることになるとは思わなかった。

「あのね、私と一緒に踊ってくれる⋯?」

彼女に対する自分の気持ちがとっくにセバスチャンやアンに抱くものと異なっている事はわかっていた。
ただ一歩踏み出したいと思う度に皮膚の下を巡る醜い血の流れを感じ、俺を踏み留まらせていた。ゴーントという名は心を暗く惨めな場所に縛り付ける。
しかし先程の言葉を告げる彼女の声があまりにも弱々しくて自信が無さそうに震えていたるのだから、断るなんて到底出来なかった。彼女の泣き声を聞くのは、何よりも辛い。
――ステップを踏む度にふわりと柔らかな風が吹き、ライラックの優しく甘い香りが鼻を擽る。

「ありがとう、オミニス」

穏やかな声で俺の名前を呼ぶ彼女は、今どれほど美しいのだろう。俺はその姿を直接見ることは叶わないが、時折周りから聞こえてくる感嘆の溜息やひそひそ声がそれを教えてくれる。
なにより、彼女の弾んだ息遣いや肩に触れる優しい手が、明明と彼女の気持ちを伝えてくれた。

「お礼を言いたいのはこっちの方だ。俺も、本当は君のパートナーになりたいと思っていた・・・ありがとう」
「どういたしまして」

ふわりとまた花が舞う。暖かで優しい感情を君が教えてくれた。


「ねえ、秘密の話なんだけど」という台詞で始まり「静かで優しい夜だった」で終わります。(Sebastian)

「ねえ、秘密の話なんだけど・・・」

僕の耳元に唇を寄せて来た彼女の声はとても弾んでいる。揺れる髪から彼女が身に付けている香水なのか、ラベンダーの香りがした。
周りに聞こえないようにと普段より幾らかトーンを落とした声は少し大人っぽいのに、秘密の話だなんて随分と可愛らしいことを言うもんだ。
「ああ、なんだ気になるな。教えてくれよ」
そう返した僕に、彼女はにっこりと満足気な笑みを浮かべ、「詳しい事は梟を飛ばすから、今日の夜空けておいてね」と言って去って行った。勿体ぶるなぁ。
「――来た!セバスチャン、こっちだよ」
手紙に書いてあった通りに目眩し術を使いホグズミードへ向かう道を辿っていくと、ホグワーツの外門の手前で呼び止められた。同じく目眩し術を使って待っていたらしい彼女の姿が顕になる。

「今日はね、双子座の流星群が見られるんだって」

アミットが教えてくれたんだ、と平然と他の男の名前を出すもんだから、背を向けて進もうとする彼女の手を少し強引に握って僕が引っ張ることにした。彼女はこの先にある星見台に行きたかったのだろう。
冬の夜は一段と寒い。星見台に望遠鏡を置いて、もう少しだと言う彼女と柔らかな土の上に腰を並べて待つことにした。

「それにしたって急にどうしたんだ?」
「え⋯珍しいかなと思って、」
「へえ・・・?」

明らかに上擦った声が、彼女が隠し事をしている事を暴いてくれる。彼女の滑らかな手の甲を親指で撫ぜると、観念したように口を開いた。

「笑わない?」
「もちろん」
「・・・セバスチャンと一緒に居られますようにって、お願いしたかったの」

そう呟いた彼女の後ろで、一筋の輝きが夜空に弧を描いた。

「そんなの星に願わなくても叶うよ」

静かで優しい夜だった。


「拝啓、愛しい人。どうしていますか」で始まり「笑顔からこぼれ落ちる涙が光を纏って美しいと思った」で終わります。(Sebastian×転)

拝啓、愛しい人。どうしていますか?私は今、
日本という島国に居ます―そんな軽い調子の書き出しから始まった手紙を、僕は紅茶を片手に読んでいた。
僕の愛しい人は、ホグワーツを卒業後、魔法生物の研究がしたいと言って文字通り世界中を飛び回っている。
てっきり僕と一緒に闇祓いになると思っていたから、その事を知らされた時はオミニスが呆れるほどの大喧嘩をした。今もまだ正直納得していない。
数ヶ月に一度、やっと帰ってきたかと思えば次はあの国に行ってくるだのと言って直ぐに飛び出して行ってしまう。
恋人らしい時間なんて滅多に取れない。同じ家に住み、同じベッドで寝て、同じ朝を迎える生活を迎える筈だったのに、それもまだ数えられる程度しかない。
それでもこうしてマメに送ってきてくれる手紙の彼女の少し丸っこい字が愛しい。事細かに日々の出来事を綴る文面は、彼女がそこで一体何に出会い何を想ったのか、世界中を飛び回っている姿をありありと脳裏に映してくれる。
そんな自由でありながら誠実な彼女だからこ
そ、僕は惚れてしまった。
学生の頃、共に語り尽くすには一日では到底足りない様々な経験を経てきた。その中で小さな衝突をする事もあったし、僕は彼女を失望させてしまったことも沢山あるだろう。
それでも彼女はずっと僕の傍に居てくれた。
後悔に打ち震えていた僕の背を撫で、全てを許しはしなくても受け入れてくれているような。
そんな笑顔からこぼれ落ちる涙が、光を纏って美しいと思ったのだった。


「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「貴方があんまり楽しそうに笑うからついつられてしまった」で終わります。(Imelda×転♂)

きっと仕方の無いことなのだ。だって僕が初めて箒乗り競争の記録を塗り替えた時の貴女の表情が、言葉ではたまたまだの言っておきながらあまりにも素直に悔しそうなものだったから。
いつもの勝気な表情が崩れ、此方を睨め上げる瞳の奥に熱く燃える炎の塊を見つけ、僕はすっかり見惚れてしまったんだ。

「やあ、イメルダ」
「あら転入生、流石にここまでは来ないかと思ったわ。でも勿論挑戦、するんでしょ?」

黒く艶やかな髪を後ろで一纏めに結んだ、スリザリンカラーを身に纏う女の子。
最初は随分高慢な態度を取る子だと思っていた。でも彼女はとても努力家で、只管真摯に箒に向き合い、自分にも他人にも厳しいだけなのだ。

「ああ勿論⋯でも、ここはアッシュワインダーズ
の野営地や、トロールみたいなやつの根城に囲まれてるんだ。出来れば早めに立ち去った方が良いよ」
「御心配ありがとう。でも箒で高いところを飛んでいれば問題無いのよ」
ほら、僕の心配なんてお構い無しだ。彼女はただ僕が自分の好敵手足り得るかだけを考えている。

「さあ、貴方に私の記録が塗り替えられるの?」

お手並み拝見、と此方を見据える貴女があんまり楽しそうに笑うからついつられてしまった。








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