『100通りの君に100通りの花束を』サンプル

【49.時間】

花と聞くと、私には思い当たる人は、一人だけ。
私の妻。太宰卯羅。
花の化身と云っても過言では無いだろう。夜叉に育てられ、特異な男を愛する女性。自分を道化と笑い、可憐な花で敵を屠る。
「却説、今日は何でいこう」
「釣鐘草は如何?」
なんて昔はやったものだが。今となっては、それももう。君の花を纏えたら、なんて思うが、伝えた途端、君は怒るだろうね。
「治さん、永久に保存が出来るお花が売ってるんだって」
「何それ」
仕事の端末で花屋を調べる。プリザーブドフラワーと云うらしいそれは、種類も豊富。1つぐらい家に飾っても善いなあ。
「卯羅は何れが好き?」
「うーん……」
一つ選んで、また戻って、選んで、戻って。「治さんは?」
「私はこれなんか卯羅のみたいで好きだよ」
赤い花の足元に、青い花がひっそりと添えられている。
「私と卯羅」
「じゃあ此方の、青いのが大きいのが善い!」
巧く使われた気がする。「赤いのが大きいのが善いなぁ」
「なんで?」
「卯羅だから」
花は卯羅の象徴。咲き誇るのは君で居てほしい。
「海に咲く花、それが君」
「口説くのがお上手」
「妻を口説いて何の罪が?」
その笑顔。それが見られれば善いんだ。
花を忌み、自分を忌み、凡てを捨てようとしていた君。生を忌み、無関心で居た私。それが出会って、何故か共に生きている。不思議だね。卯羅の秘めるしなやかな強さは、私にはない。白詰草は、傷ついた物こそ、四葉の幸運を得るらしい。君なんて正にそうじゃないか。
「じゃあ、今度の記念日に、どれか買ってこよう。私が君に贈りたいものを贈る」
「随分と先じゃない?でも、先約が無いと、何仕出かすか解らないものね、治さんは。夏の寝間着買っただけなのに『着たいから、夏まで心中はお預け』って云った時は、本当面白かった」
「だって折角卯羅が選んだんだもの。着たいじゃないか」
そうやって先延ばしに、先延ばしに。
まだまだ二人で時を刻める。他愛もない、ただの夫婦の生活を。

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