太宰くんのお世話に慣れてきた頃。
森先生がまた一人新しい子を連れてきた。太宰くんと一緒に先生のお部屋で、その子と会うことになった。
訪ねると、先生がお茶を淹れてくれ、ソファに座って待つように云われた。
「どんな子だろうね。異能力者かな」紅茶と焼菓子を摘みながら、太宰くんに訊いてみた。
「そうだろうね。異能力者はいくら居ても無駄じゃあない」太宰くんはあまり興味は無いのか、紅茶を啜りながら答えた。
「男の子?女の子?」
「どっちでも佳いよ。どうせ駒には変わらない」
焼菓子好きな子だと佳いな。組織に女の子全然居ないし、同い年とかなら尚更嬉しい。
「もし僕も一人拾ってきたって云ったら、森さん驚くかな」
「多分嬉しくて跳ね回るよ」
まだかな。先生遅いなぁ。
「あ、紅茶無くなった」
「お湯入れてくるね」
おかわりを作ろうと部屋の奥にある給湯室へ向かうため、ソファから降りた。すると部屋の入口の方から、先生の声と、女の子の声がした。
「大丈夫、怖くないよ。君と同い年の女の子も居るよ」
「“も”ってことは違うのも居るんでしょ?」
「安心し給え。鬼では無いから」
私は急須を持ったまま、太宰くんと顔を見合わせ、そっと扉を開けた。「先生?」
「卯羅ちゃん待たせたねぇ。急須なんか持ってどうしたのかな?」
「お茶おかわりしようと思ったの」
「そうか。まあ席へお戻り」
またソファへ座る。急須はサイドテーブルに置いて、先生からのお話を待つ。「入っておいで」と先生が優しく云うと、私と同じぐらいの女の子が入ってきた。おどおどしていて、不安そうで、大丈夫かな。太宰くんは何時もの何でもない眼でその子を見ていた。
「この子は詩音ちゃん。動物を産み出し、操る異能者だ」
詩音ちゃんは私を見、それから太宰くんを見て、短い悲鳴を上げた後、先生の後ろに隠れた。
「太宰くん」
「何」
私は太宰くんの両頬を摘んで、思い切り引き上げた。
「痛い」
「笑って」
「嫌だ」
「女の子の前で怖い顔しないで」
「君の前でも笑ってろって?」
「私は太宰くんのお世話係だから佳いの。せめて他の女の子には優しくしなさいな」
彼の頬から手を離して、私は詩音ちゃんに近寄った。「詩音ちゃん、卯羅ちゃんだよ。彼女は花の異能力者。どうだい、卯羅ちゃん。彼女の面倒を看てくれないかな」
先生の脚の周りを二人でくるくる。どうやったって隠れるんだもの。「佳いよ。お仕事の事を教えればーーー」
「僕は?」太宰くんがサイドテーブルを蹴りながら抗議の声を上げた。「彼女は僕の世話人だ」
その言葉に太宰くんを見たのは、私だけでなく森先生もだった。それも先生は嬉しそうに。
「太宰くん、まだ彼女のお世話が必要かい?」
「彼女は僕に処方された薬だろ、首領。常備薬を手放す患者が居るかい?」
「主治医の指示があれば居るだろうねぇ」
大宰くんと先生の議論は勝手にしていてもらって、私は焼菓子の皿を持って、詩音ちゃんにもう一度近づいた。「食べる?」
「……佳いの?」
二、三枚手にして、何故か裏表を見てから、匂いを嗅いで一枚口にした。
そっか。きっとそうなんだろうな。
「勿論。詩音ちゃん、異能を見せて」
一方的なのは不公平だから、桜草を掌に咲かせた。
詩音ちゃんは、小さな二十日鼠を掌に出した。そしてその鼠は、ぴょんと私の手に飛び乗り、桜草を食んだ。
「鼠さん、痛いよ?私のお花食べたら痛いよ」悪意が無くとも、つまり私が傷病を選定して咲かせずとも、花には悪意が宿る。小さな悪意、小さな切傷。でも鼠はずっと花を、葉を食べ続けている。「先生、詩音ちゃんの動物、私のお花運べるかも」
「おや、佳かったねぇ」
「詩音ちゃんに異能の使い方を教えたり、仕事のことを教えるのは私。太宰くんの身の回りの事をするのは私。これで佳い?」
「佳いだろう。どうだね、太宰くん」
「彼女がそれで佳いって云うなら、佳いんじゃない?」
鼠さんを詩音ちゃんに返して、私は太宰くんの前に立った。「拗ねているの?」
「拗ねてない」
どうしようもない人。
だけど何故か憎めなくて、離れられない人。
これから詩音ちゃんに基本事項の指導をするからと先生が云うので、私と太宰くんは退室した。
昇降機の中でも矢張り彼は不満そうだった。
「珍しいね。太宰くんが怒るの」
「獲物を横取りされた獣の気持ちが解った気がするよ」
「私は太宰くんのだよ。ずっと」
最優先は太宰くん。それは今後も変わらない。
彼は私の異能を褒めてくれたから。意味をくれたから。それを裏切るようなことはしない。彼の駒として必要になるのなら後継の育成だって行う心算。今回はそのための準備。来るべき時に備えるための第一歩。