終わったし、かーえろ。
治くんは国木田先生と織田作にお呼びだし。長くなりそうだから帰っててって云われちゃった。しのちゃんは駅伝の選手に選ばれて、それの練習で居ないし、ドスくんはそれ見守ってる。
「あ、尾崎!太宰が呼んでたぞ」誰か判んないけど、廊下から呼びかけられた。
「治くんが?織田作とのお話終わったのかな」
「化学室に居るってさ」
なんでだろ。まあ、いっか。治くんどうしたんだろ。スマホだけ持ってけば善いかな。治くんも鞄置いてあるし、取りに来るよね。
化学室、怖いんだよね。真っ暗だし、隅っこにあるし。
「治くーん?来たよー?」誰もいない。まだなのかな。トイレかな。かくれんぼかな。「治くー……ん?」
カチャって音がした。鍵掛けられちゃった?出入り口の引き戸を動かそうにも、動かない。「治くん!うーちゃん此処だよ!治くん廊下にいるの?ね、ね、悪戯やめて!」
「うっわ、本当に来たよ」
「太宰って云えば簡単に釣れんだな〜」
振り返ると、男の子が四人。上履きの色が違うから、先輩かな。
「治くん……太宰来てませんか?」
「まだ信じてんの?居ねーから!」
手をぐっと引っ張られ、顎を掴まれた。「太宰とするよりも善い思いさせてやっから」
こういう時は、股間を蹴るって治くんが教えてくれた。膝をぐっと引き上げたら、ナイスヒット!怯んだ隙に、スマホで治くんに連絡しながら、引き戸を叩く。
「てめ……っ大人しそうな顔して、小田の入れ知恵か?」
襟首を捕まれ、スマホを取り上げられ。「健気だね〜でも王子様は来ないよ?」
「治くんは来るもん!」
「っせーな!治、治って少し黙んねぇ?」
思いっきり殴られた。ほっぺはじんじんするし、痛いし、怖い。「抵抗したらもっと痛い目遭わすぞ」
怖くて、言葉が出てこなくて、涙は出てくるのに。実験テーブルに投げるように寝かせられ、起き上がろうとすると、ひっぱたかれる。
「マジで乳でけーな。太宰とヤりまくってんだろ?」
「乳出んじゃね?」
乱暴に揉まれ、先を搾られる。足は抑えられてるし、首元に、銀色の何かが置いてある。「待てよ、マジかよ……」
下半身が寒くなったと思ったら、思いっきり脚を拡げられた。「やだぁ……見ない、で……」
「ツルマンかよ……」
「太宰の趣味か?」
「うわーマジか」
「やば……これもう挿入るんじゃね?やっぱ巨乳は淫乱だな」
ベルトをカチャカチャする音が部屋に響く。それを割るように、着信音。治くんから!
「あー……?何だよ善い時に。うわータイミング最高じゃん!尾崎、電話出て良いぞ」
恐る恐る受け取って、受話。『卯羅?何処?』
「場所言ったら、このまま挿入れるぞ?」
「お、治くん、あのね、っ、おさ、む……く、っ………」
脚の間に中るそれが気持ち悪いし、頚にはひんやりした感触。
『解った。何曜日の何限?』
「えと、火曜日、の……五限」
『すぐ行く』
そのまま、切れちゃった。
「なんだ?時間割の確認か?」
「流石の優等生様も、気づけなかったか〜」
「じゃ、俺、挿入れちゃいまー………っ!」
硝子の割れる音と一緒に、何か液体を滴らせながらふらつく先輩。走る革靴の音。
「卯羅!」
「はあ?!太宰、てめ!」
残りの人達を殴り蹴りあげて駆けてくる治くん。「卯羅……嗚呼、卯羅……済まないね、先に帰れと云った私が馬鹿だった」
ぎゅっと私を隠すように抱きしめてくれた。それから私の顔を見、猫ちゃんみたいに瞳孔がキュッと縮まった。
「ってーな……ぁ!」
「織田作、ライター貸して」
準備室から顔を出した織田作が、治くんにライターを投げた。それを受け取って火を点ける。「今、君に掛けた液体は燃えやすくてね。さあ、どうする?」
「んな脅し──」
「脅しじゃあない。残念ながら、僕は、彼女の事となると、非常に短気でね」台に飛び散った硝子、それも一番大きな硝子を掴んで、私には学ランを掛けてくれた。「殺す」
「太宰!」織田作が間に入って、治くんが突き刺そうとした手首を掴んだ。
「織田作、離してくれ」
「俺の立場を考えてくれ」
「これは正当防衛だよ」
「範疇を超えているぞ」
「助かったわ〜織田先生!尾崎にタマ蹴られてさ、だから俺達、抵抗したわけ。それで──
」
ニヤニヤしながら嘯くのが憎たらしくて憎たらしくて「違うもん!うーちゃ、治くんが此処で呼んでるって!待ってるって!そう云われたから来たの!だから、だからぁ……」
「嗚呼、知っている」
織田作はケロッとした顔で云った。「私の後輩は非常に優秀でね。芥川君が総て教えてくれたよ」治くんはしたり顔で、準備室の方へ「芥川君」と呼びかけた。
「然り。僕は、太宰さんから、無事帰宅するかを見届けるよう仰せつかった。しかし、途中、貴様らが愚計を案ずるのを耳にした故、太宰さんに通告した」
「そして私は彼女に連絡し、居場所を確認した、というわけだ。彼女の脚、それも随分不自然な場所に君の体液が付着している。言い逃れは出来ないよ?」
織田作が、他の先生に応援の連絡を入れ、治くんは手品のように出した荒縄で、先輩四人を縛ってる。芥川くんが、ハンカチを貸してくれて、スマホを取り返してくれた。
「教頭が来る。尾崎、話は俺と芥川がする。太宰と保健室に行ってろ」
「芥川君、そこのシャーレとピンセット取って。あと準備室に滅菌ガーゼが有った筈だ」
「解りました」
怖かったろ、ごめんね、と声を掛けてくれながら、頭を撫でてくれる。「警察に物的証拠を出した方が善いから、それだけさせてね」
「何も、ないよ?」
「ある。卯羅が必死で抵抗してくれたから、残っている。よくやってくれた」
「太宰さんこちらに。手袋もどうぞ」
手袋して、滅菌のガーゼを開けて、それから、脚ごめんね、ってさっきネチョッとした所を拭ってくれた。「馬鹿な男の先走り、ゲット」そのガーゼをシャーレに入れて、織田作に渡した。
「じゃあ織田作、後は宜しく!」
ひょい、と私を抱えて、治くんと保健室。途中ですれ違った森先生も、私を見るなり怖い顔をして、走っていった。
保健室のベッドに寝かされ、消毒液とかを漁る治くんの背中を眺める。
治くんだぁ……治くんがいる……治くん……
「っ……さ、む、く……っ」
「卯羅?」消毒液とガーゼと包帯とテープを抱えた治くんが見える。安心して、怖かったのが何処かいって、涙が止まらなかった。「やだぁ……っ!も、や……!」
「怖かったね。でももう大丈夫。私も織田作も居る。よく頑張ったね。紅葉さんには私から連絡入れるよ」
「きょ、ね、治くん家、行く……っ、ママ、会いたくない……っ」
こんなの、ママに見せられないし、云えない。明日も怖いもん。一人で寝るのも嫌。絶対思い出しちゃう。
「解った。でも、紅葉さんにはこの件、話さなきゃ。私が君の家に泊まって善いか確認するね」
ママに連絡してくれてる間も、背中を擦ってくれて、時々頬擦りしてくれる。「卯羅、紅葉さんと話せそう?」
「っ゛、がんばる……ままぁ……ぁ゛!」
ママの声を聞いた瞬間、悔しくて、辛くて、さっきよりも大きい声で泣いた。『迎えに行く故、太宰と待っておれ。太宰もそのまま泊まるが善い』
治くんが代わってくれて、お礼を云って、切ってくれた。それからほっぺの消毒と頚も。
「包帯、お揃いだね」
今までに無いくらい、力強く抱きしめてくれて、おでこにチュッてしてくれて、ママが来るまでずっと名前を呼んでくれた。