運命と云うのは何処に起因するのか解らない。今回もまた、偶然が重なっただけだ。

龍頭抗争の後処理を部下にさせながら、残った人員の再配置計画を構築していた。
右腕の部下として配置した女の子。抗争でも並々ならぬ戦果を挙げたと云っても佳い。金剛だと見込んだのは間違いなかった。異能も巧く使いこなし、異能を使わずとも必ず屠る。
問題は、母親の元に戻すか、このままの配置にするか。悩んでいると、固定電話が音を立てた。交換手が「“森医師”へ外線です」と告げる。私が町医者であったことを知る者、ましてや、それよりも前の経歴を知る者など、ほんの一握りだ。繋ぐよう快く答える。
「御電話代わりました、森です」
受話器越しに聞こえた名前は、昔聞いたことがあった。もう、変わってしまったが。
「お久しぶりです。変わらぬようで、何よりです」
『娘は無事ですか?』
「娘さん。彼女ですか、彼女は──亡くなりました」
『……』
向こう側は沈黙だった。
「池部雫。私が貴方から4年前に預かった子は、先の龍頭抗争に巻き込まれて……今回の抗争は異能力者狩りでした。早くお知らせしなくては、と思ったのですが、他の子達の安全を鑑みた結果、今の御報告に……」
扉の向こう、廊下で駆けていく足音が聞こえた。紙の散るような音と、それを拾う音。
計算通りだ。
このあと彼女は、直属の上司に事の真偽を問うだろう。
適当に会話を切り上げ、受話器を置いた。
一息付くと、戸口に私が信頼を置く部下の一人が立っていた。
「紅葉くん」
「首領も人が悪いのう」
「何の事かな?」
彼女を引き取った日、寂しかろうとエリスちゃんに病室を覗いてもらった。珍しく慌てて駆けてきたエリスちゃん。どうしたのか問うと「医者でしょ!どうにかしなさい!」と一喝された。部屋を見ると、夜更けには相応しくない、可憐な花冠を頂いて、彼女は横たわっていた。連れてきた犬のぬいぐるみを、しっかりと抱えて。
呼び掛けても「森先生?どうしたの?」とあっけらかんとしていた。
「意識がはっきりしてるかの確認だよ。此処は?」
「森先生の診療所」
「お名前は?」
「………」
何度聞いても首を傾げるだけだった。
「そのぬいぐるみは誰からもらったのかな?」
彼女の母親が、寂しくないようにと渡したものだった。
「わかんない……でも大事なの」
そうかと返事してもう寝台へ入るように促した。
「──そして君が新しい名前を授けた。相談したときの食い付きには驚いたよ」
「そのような幼子をこの世界に放っては剰りにも酷。闇を光と知り、頼ってきたのじゃ。庇護してやらねばのう」
「あの資料は太宰くんに渡したよ。彼も知っておいた方が佳いからね」
あとは太宰くんの好きなようにすれば善い。
「あの小僧は卯羅を道具としてしか見ておらぬ」
「そうかなあ。割と佳い組だと思うよ。卯羅ちゃんも、最初から太宰くんを気に入っているようだったし」
目の前の彼女にすら興味を示さなかった太宰くんを「猫ちゃんみたい」と膝枕した。それから今日まで、連れ添いながら黒社会に花を咲かせてきた。
「紅葉くんにも礼を云わなくてはね」
「なんじゃ、改まって気色の悪い」
「あの子をここまで育ててくれたのは君だ」
紅葉くんの元に居たからこそ、彼女は太宰くんに寄り添う。愛を嫌う彼女から愛を与えられ、愛し方を学ぶ。愛を彼に注ぎながら、ただ傍に居たいと願う。
「彼らのこれからが楽しみだよ」





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