「森さん、まだ叶えてもらってないお願いがあるけど」
「そんなものあったかい?」
「自分の都合の悪いことだけ忘れるつもり?」
不満の意を表すために頬杖を付きながら、森さんへ紙飛行機を投げる。「云ったじゃないか。『楽になる薬を都合する』って」
「したじゃないか」
ほら、あの子だよ。
笑いながら、僕には目もくれず書類にペンを走らせている。何が「あの子だよ」だ。僕を付け回して、あれしろ、これしろ。あれするな、これするな。そう云い続ける、女の子。この間なんか、姐さんの部屋から、姐さんに付き添われながら泣いて出てきた。取っておいた菓子を、姉に食べられた、とか何とかだった気がする。
「あの子のどこが楽になれる薬なんだい」
「太宰くんにも解らない事があるのだねえ」
「はあ?何それ!」
自分が賢者と云いたいわけではない。あの子が何故僕に必要なのか、そんな簡単なことが解らないのかと云いたげなのが、癪に触った。
「今の太宰くんには難しい話かもねぇ。彼女の異能力に就いては聞いたかい?」
「概要だけね」
花の能力者。咲かせた花に毒を纏わせ、触れたものを臥せる。
「でも、だから?いくら彼女が私を心停止へ導こうと触れても、僕の無効化で花は消える」
「そうだ。何度やっても花は消える。ま、あまり考え込んでも、答えは出ない。更に云うと、答えは一つではない」
ため息が止まらなくなりそう。
「何が僕とって正解かは僕にしか解らないって事?くだらない」
「投げ出したら、一生答えは見つからない。善いのかね?」
「……解った、解ったよ。まずはあの子の甘え癖を直さなきゃなあ」
姐さんにもだけど、最近は僕にも甘えてくる。無意識なのか意図的なのか知らないけど、潤んだ眼で僕を捩じ伏せそうとする。
「甘えてくるの可愛いじゃないか」
「鬱陶しい。あの子、僕と同い年でしょ?誰かと寝ないと寝れないとか、一人で夜に御手洗い行けないとか、無いよね?」
森さんはただ笑うだけだ。それを肯定と取るのか、否定と取るのか。それすらも僕の好きにしろと言う事か。
「卯羅ちゃんも色々あった子だからね。あの甘え癖は彼女の才能だよ。この間、つい西洋菓子をあげすぎてしまってねぇ。紅葉くんに怒られたよ」
「それは森さんが幼女趣味だからでしょ?」
「私の守備年齢は十二歳以下だよ。彼女は十五だからね」
『楽に成れる薬』
そう云われたからには、ここで彼女を手放したら、僕が諦めたと思われそうだ。あの瑠璃色も忘れられないし。