「おはようございます」
変則勤務で主人に少しおくれて出勤すると、何やら既に事件の真っ最中。
ソファに寝転び、歌を歌う主人の頭を撫でる。
「来た」
「随分上機嫌じゃないの。新人くんはどう?」
「なかなか面白そうだよ」
怒れる国木田さんは見なかったことにして。谷崎くんとナオミちゃんも居ないから、新人さんの付き添いかしら。端末を立ち上げて、電子手紙と、日程の確認。治さんったら自分宛のも私に回してる。前からだから、もう何も云いませんけど。今日仕上げる報告書は三件。
「卯羅」剰りに真剣な声。「余裕は無い」
応急処置の道具一式が入った肩掛図嚢を引っ掴み、彼の後を追う。
「おい何処へ行く唐変木夫婦」
「お散歩!」
笑顔で声を揃えて。夫婦だもの。
怒鳴り散らす国木田さんの声は、戸口の閉まる音に掻き消えた。
「それで?」早足の治さんの隣を、小走りで付いていく。ずっとそう。歩幅が追いつけることなんて、絶対になくて、私はずっと彼の後ろを付いていく。
「裏路地ですることと云えば?」
「禄な思い出が御座いませんけど」
襲撃ならまだ善い。男女のあれとか、それとか……「あのね。私と君のそれは、異例中の異例だから」
「でもどうして?入社したての子を?」
「さあね。御本人達に訊いてみようか」
血溜まり。谷崎くんとナオミちゃん。
「はあい!そこまで!」
黒い異能と白い異能の間に割って入る青い異能。
その人の登場に驚いたような表情を見せた黒衣の異能力者。
「貴方は探偵社の」金髪の女性が更に驚いた表情を見せる。
「美人さんの行動は気になっちゃう質でね」聞かなかったことにしましょうね。「ほらほらぁ、起きてよ敦くん。三人もおぶって帰るの嫌だよ、私」
谷崎兄妹の止血を済ませ、太宰を中心とする話に注意を向ける。
「谷崎くん、ありがとうね。すぐ与謝野先生に診てもらうからね」
あとは───「零細企業如きが……!」
太宰に向けられた殺意。身体が勝手に動く。隠し持つ短刀に手を回し、異能も備える。けれど、主の目線が「仕舞え」と命ずる。
「我らに逆らって生き残った者など居ないのだぞ!」
「知っているよそれぐらい」呆れたように頭を掻きながら笑う。
「然り。外の誰よりも貴方はそれを恣知している」芥川くんの言葉に私も立ち上がる。「元ポートマフィアの太宰さん」
私達に付き纏う黒い染み。大好きよ、私は大好き。あの彼に惚れたのは間違いないもの。
「素敵な響きね」
「何が」
「元ポートマフィア」
「止めておくれよ。もう済んだ事だ」
その事実を振り払うかのように、私から顔を背けた。
好きよ。貴方に刃を向けるのは凡て壊してあげる。
そうやって教育されたもの。