厭な人

大見得を切ってしまった。
そしてそれもこれも、友人は見透かしていた。
「笑っているんでしょう?厭な人だ」
僕は調査書に添付された彼の写真を弾いた。
本当に酷い人だ。使えるものは全て使う。僕の秘めた恋心でさえ。
『安吾、万が一の時は卯羅を頼んだよ』
断れる訳がない。
初めて彼女を太宰くんから紹介された時、既に毒花に侵されていた。触れれば砕け散り、周囲にも皹を遺すであろう雰囲気。常に頭から長い長い薄手のレヱスでも被っているかの様な。
久しぶりに再会した彼女は、この世を呪っていた。
自分と主人を裂いた世界を。自分だけを取り残した世界を。何度も手を伸ばしたが、一度も取ってはくれなかった。
猟犬に保護されたと情報が入り、状況を確認するために連絡をすると、僕の姓を名乗りながら、僕に愛の言葉を呟いた。けれどそれは、遥か遠くの、果ての地にいる男に向けての言葉。永遠に僕に向けては伝えてくれない。
『坂口さん、御世話になりました。私、矢張、太宰の妻じゃないと落ち着かないの。最年少幹部の妻。それが私』
また手から零れ落ちていく。
きっと今度こそ死んでしまうのだろう。
二人で。
彼女には太宰くんしか見えていない。盲目という言葉が生易しく思える程に。
『坂口さん、太宰さんといつまでも善いご友人で居てあげてくださいませね』
呪われたのは僕だろうか。僕が彼女に手を伸ばせば、その友人は銃口を僕の額に突き付ける。先程まで手元に居たのに、そして友人は感知しないというのに。僕は結局、据え膳を食わずに終わった。
地下暮らしの彼女らを見ていたからだろうか。死を望む筈の友人は、生を拒否する彼女を、必死に生かそうとしていた。愛の言葉を囁き、慰め、励ましながら、小さな匙で、食事を少しずつ、少しずつ。それを見た時、僕では無理だと悟っていたのかもしれない。
酷い友人を持ったものだ。
だが、どうか幸せであれと願うのは、僕の勝手だろうか。





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