博覧会

「御支度は?」
「どう?襟締、曲がってない?」
「大丈夫」
「パパー!おめかしー?」
嫁に最終確認をしてもらっていたら、長男が次男の手を引きながら、駆けてきた。
「そう、おめかし。二人もするかい?」
「しゅーじしなーい」
「だっこ!」
次男を抱き上げ、長男の手を握る。催しの主宰からでも貰ったのだろうか。菓子が様々に詰まった袋を手にしている。
「基治、パパのお洋服に、お菓子こぼしちゃ駄目だよ?」
「ママ、あい」
私に似てか、物への執着が割合薄い次男は、母親に菓子袋を渡してしまった。長男は「しゅーじのだもん」解りました。
「ねえ、国木田さんと敦くん、待ってるんじゃないかしら」
「大丈夫でしょ。国木田くんなら来るよそのう」
「太宰ぃ!!!!!!!!」
「ほら来た」
国木田くんが何時ものように、私の名前を叫びながら駆けてきた。それを見て、遊び相手が来たと云わんばかりに喜ぶ子供達に、血筋を感じてしまった。二人とも、仲良しのお兄ちゃんと、“お兄さん”に駆け寄り、遊べと叫ぶ。
「お前は何故お客様と一緒にいる?」
「だってこんなにも美しい御客様が来ているのだから、早く会いたいと思うでしょう?」
一番喜んで欲しいから。卯羅には今の今まで、散々迷惑を掛けた。だから、一番初めに見て欲しい。
再現された、散らかった机すら愛おしそうに眺める。この先にある、あの酒場を見たら、何と云うだろうか。私を評したあの言葉を見たら。
「治さん」あの時と同じ。背に柔らかい手。「ありがとう」
「どうして?」笑いながら訊いてみた。
「治さんが雲の上の人だろうと、何だって善いわ。私はね、あの日、治さんが泣いてくれた事が、嬉しかったの」
酒場の椅子に腰かけ、彼女の顔を見上げる。変わらない瑠璃が私を見ている。「何と云えば善いのか、こういう時に限って、言葉を繕えなくてね」何と云えば正解なのか。正解はあるのだろうか。
「それで善いの。貴方はそれでいて」
今、これが、この生活が、私の生きる理由の一部であるのなら。導き示してくれた、友と妻に礼を云うしかあるまい。
「卯羅、苦労を掛けたね」
「全然苦労なんかじゃないわ。私は、治さんの世話人だもの」
「嗚呼、そうだね。そう云って笑う、愛らしい御夫人だ」
お決まりの言葉に笑む。彼女が額に口付けてくれるのと同時に、賑かな声が近付いてくる。
「太宰!お前!子供達をどうにか、おい!しがみつくな!歩けんではないか!」
「ぼっぽ、ちからもちだからはこんで!」
「ぎゅーしゅるー」
纏わり付かれる国木田くん。言葉は強いが、顔は満更では無さそうだ。
「子守が板に付いたねぇ!」茶化すと、声を荒げて、私に文句を云うが、その声に負けじと、子供達も声を上げる。
「パパ!ぼっぽあそんでくんない!」
「ママーだっこー」
その賑やかさに笑いが溢れる。模したものではあるが、此処でまた、笑えた。
「さあ、元気な子達は、ママとぐるり回っておいで」
「パパは?あっくんは?ぼっぽは?」
「私たちは、お客さんを迎えねばならないからね」
「しゅーじもいく」
未だお兄さんから離れない長男は、遊んでくれるまで付いてくる勢いだ。
「修治、ママと基治と一緒に、お菓子食べて待ってよう?」
「やだ〜」
目線を合わせてやる様に屈む。すると国木田くんの脚は手放したが、私に抱き着く。耳元で「パパぁ!」と可愛い声。
「修治、パパと居たいかい?」
「うん!パパとあそぶの」
「だがねぇ、この後、私はお仕事があるのだよ」
「なんのおしごと?」
「いつも探偵社を贔屓にしてくれる方へ、このお祝いを案内するんだ」
「しゅーじもするよ!あんないする!」
「そうしたら、ママたちと一緒に回って、修治のお気に入りを見つけてくれるかい?そうしたら、パパに教えておくれ」
「わかった!」
今度は母親へ。手を繋いで、展示物の奥へと消えた。
「太宰」
「よし、行こうか」
この先も、あの笑顔を守るため。隣に立ち、背を支えてくれた、彼女の為にも。
新しい一歩を踏み出す。





前の話目次次の話

Latency