「おい太宰……」
「嗚呼、あれも買おう」
外回りの仕事に出たが、全く進まん。全ての予定を狂わせるこの男。皮肉な事に俺の相方だ。
「これなんてどうだろう──国木田くん?」
「貴様今勤務中だぞ」
「そうだねぇ。でも此れも大切な仕事の一環だよ」
こいつの思考は理解しかねる。先程から女性物を売る店を見て回っては、何かしら購入してくる。
「どうするのだそんなに」
「贈り物だよ。それしかないだろう?」
「贈り物?誰にだ」
「無論奥さんにだよ」
そうだ。こいつは既婚者だったか。こんな唐変木が妻帯者だとはにわかに信じられん。
「もうすぐ大切な日だから」
「そういえばお前、そんなもの身に付けていたか?」
太宰の左手の薬指に嵌められた指輪。飾り気は無いが、何しろ目立つ。
「嗚呼此れ。魔除けだよ」
「くだらん」
「本当さ。彼女がそう言うんだ」
何故かいつも以上に顔がにやけている。不貞な奴だ。
「彼女はね、昔から私を見ていてくれたんだ。私が喚こうが、ずっと離れないで居てくれた」
何時も他の女を引っ掛け、嫁に怒鳴られている男が真剣に彼女を愛していると言う。
「理解し難い」
「国木田くんもそのうち解るよ」
また上手いことはぐらかされた。
「人生の大半を共に過ごす人がいるというのは幸せだよ。彼女と会ったのは15歳に成るか…成らないかだったかなぁ。それからずうっと一緒」
何時もちゃらんぽらんな太宰とは似つかぬ程真剣だ。
「何度も手放そうとしたよ。でも彼女から付いてくるんだ。そしたらもう、私がとやかく云う謂れはないじゃない」
こいつらがどんな過去を持っていようが俺には関係ない。だが、入社時、社長の伝を使っても何も判明しなかったことは覚えている。
だが、贈答品を選ぶ真剣な眼差しを見る限り、太宰の云う事は間違いではない。
山ほどの品を抱え、満足そうに社への帰途に着く。
「…重い」
「当たり前だろ。何の考えもなく買うからだ」
「だって…楽しいんだもの。私が選んだものが、彼女の気に入りに成ったら……それで満足だよ」
こいつらを見ていると、どんな奴にでも相性の合う相手は出来るようだ。
社に戻れば、太宰は彼奴にこの山を押し付けてその表情を楽しむのだろうな。