君と

「何で頼によって手前となんだよ」
「其れは此方の台詞だよ。此の日に男と、其れも中也とだなんて」
降誕祭の横濱。煌めく装飾と、其れに照らされる恋人、家族。其処に紛れて、黒社会きってのお騒がせ者、双黒は仕事をする。
「折角港まで来たのに、逢引じゃないの解せない」
「言ってろタコ。仕事終わらせたら手前を降誕祭樹に吊るしてやる」
「はーあ。さっさと終わらせて彼女の料理食べたい。ほら、いけ!中也!」
「俺は手前の丁稚じゃねぇ!」
今回は、降誕祭の催しに紛れて、マフィアの縄張りを荒らす組織の壊滅。首領 森にとっては一番の贈呈品。手早く済ませて、一刻も早く別れたいという意見は一致した。
「呆気ねぇ。実に詰まらねぇ」
帰るか、と拠点までの道を引き返す。途中、赤煉瓦倉庫の前を通りかかった。
「羨ましいというより、憎らしい」
「手前は僻みすぎなんだよ」
中也は、後ろから迫り来る気配を感じた。振り向きながら打拳を相手に入れる。
「いっっった!!!!酷くない?!」
「なんだよ手前か」
背後に居たのは幼馴染兼部下の尾崎姉妹。彩は中也の鉄拳で、地面にへばりつく。其れを無視して卯羅は太宰に駆け寄り抱きつく。
「やあ」
「いきなり居なくなるんだもの」
ゆっくり起き上がる彩を無視して、中也は歩きだす。
「彼女、迷子になるよ?絶対なる」
大きな溜め息をついて、乱暴に手を引く。太宰は外套で部下を包む。
「太宰さん、マフラー」
「ありがとう」
「中也さん手袋とかそういうの無いの?」
「普段してるヤツしかねぇよ」
「寒くない?」
「なら手前の貸せよ」
「私が風邪引く!」
何時ものように喚きながら、闇を歩く。
「あれ……雪?」
「どーりで寒い」
ひらひらと雪が舞う。俗にいう“白の降誕祭”。とことん似つかわしくない雰囲気に太宰は笑いが漏れる。
「何笑ってんだ」
「いやあ、首領は此処まで見越してたのかと思うとね?」
「はあ?偶然だろ」
「今回のは私と中也が行かずとも、芥川くんとか、遊撃組でも善かったはずだ。私たちを出すには相手が小物過ぎる。そして『部下を連れていくな』という言い付け」
「別に俺たちでさっさと終わらせろって事だろ?」
「拠点では“恋人”で居られない私達への配慮だと思いたいね。こんな素敵な夜を逃すなんてしたくないもの」
「気障面と過ごすことに成らなくて清々した」
「帽子掛けと一夜を明かさなくて佳かったよ」
互いを扱き下ろし始める二人を、其々の部下が、引き留める。
「今日まで喧嘩しなくて佳くない?」
「へーへー。悪かったな」
「太宰さんも!」
「君は何時になったら“治”って呼んでくれるの?」
拠点の入り口で、中也が足を止める。
「………あ」
「中也さんどうしたの?」
「何も用意してねーわ」
「私も用意してないけれど、私を贈呈品だと思ってくれたまえ」
「気持ち悪ぃな」
「包帯置き場とか要らない」
「じゃあ今日は太宰さん独り占めする」
「特別に俺の帽子貸してやるよ」
「いや大丈夫です!恐ろしく似合わないから!」
森への報告を済ませ、各々の自宅へ戻る。残された時間は少ないが、それでも、共に過ごす事に意味がある。雪上の足跡よりも遠くから、一緒に歩いてきた。何年経っても特別な存在。其れに気付くまで、あと少し。

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