私にとっての

降誕祭前夜。
恋人たちは仲睦まじく過ごす。私とて、例に漏れない──いや、漏れなかった。
恋人、という呼び方は似つかわしくない。既にその関係は先に進んで居るのだから。
電飾に彩られた、馴染みの街を歩く。自宅でゆっくり過ごそうと、買い出しをした。
「こんな平和な時間が来るなんてねぇ」
「今のうちかもよ?」
大事そうに食料を抱える彼女。帰れば、美味しい料理に変えてくれる。
「今から仕込めば、明日には美味しい鶏の丸焼きできるかな」
「降誕祭西洋菓子はどうする?」
「食べたかったら作るよ」
「私、卯羅の手料理大好き」
特別な日に、妻と、特別な食事。高級な店も佳いが、私にとって、彼女の料理が一番特別。
「またそういうこと云って」
「本当だよ?君の料理は、特別」
「毎日食べてるのに?」
「だって、君が私のために作ってくれているのだから」
反論しようと開いた口からは、何の言葉も出てこなかった。ただ、照れて、私の腕を掴んだ。
「可愛いところも有るじゃない」
「ちょっと真剣な顔してそんな事云うから!」
帰ると、直ぐに仕込みに取りかかる。前職では考えられない光景だった。
さして特別な光景では無いかもしれない。けれど、私と彼女にとっては、特別そのもの。
「降誕祭おめでとう」
明日を楽しみにする背中に、呟いた。

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